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12 王都から伯爵領へ

 エクウスとリリアージュは伯爵家に帰るため馬車に乗り込んだ。

「エクウス様。国王陛下のお誘いをお断りしてもよかったのでしょうか?」

 不安そうな顔のリリアージュに、

「たぶん晩餐の席では君とのことを執拗に聞かれ、陛下や王子たちに揶揄されるに決まっているだろう。···俺は耐えられない」

 と、エクウスは右手を額にあて、俯いて答えていた。


 リリアージュは「まあ」というと、両手を頬にあて真っ赤な顔で俯いた。

「君も初めて王宮に行き、緊張して疲れただろう?伯爵家に帰り軽い食事をして、早めに休んだ方がいい」

「ありがとうございます」

 馬車に乗り込んでから極度の緊張が解けていき、疲れを感じていたリリアージュは、エクウスの優しさに甘えることにした。


 伯爵家の邸に着くとリリアージュはそのまま自室に行き着替えの後、軽く湯浴みを済ませた。

「奥様、お疲れさまでした。お食事をお持ちしますので、しばらくお待ち下さいませ」

 侍女はエクウスの指示通りに手早く動き、部屋に食事を持ってきてくれた。


 侍女がワゴンで運んで来てくれたのは、暖かい野菜のポタージュスープと柔らかなパン、チキンのソテーと付け合わせの温野菜、季節のフルーツがたくさん入ったゼリーだった。


 リリアージュは最初にポタージュスープをいただくことにした。

 濃厚そうに見えたスープは口当たりが良くあっさりとした味で、パンは外側は硬めで中はもちもちして柔らかく食べごたえがあった。

 チキンはハーブの香りと黒胡椒の味が絶妙で、付け合わせの温野菜はコンソメで炊きあげたのか、フォークで潰せるほど柔らかく、後味は野菜独特の青臭さがなく、塩味が丁度よかった。


 季節の果物をたくさん使ったゼリーは、過度な甘さを加えずに、果物本来の甘味であっさりと仕上げてあった。

 食後に紅茶と一緒に食べていると、急に睡魔が襲ってきた。


 シエルバ伯爵領本邸の料理長の料理も味付けは最高だったが、王都のタウンハウスの料理長の腕も抜群だった。

 本邸とタウンハウスとの連携で、料理の好みが反映されているのか、リリアージュは大満足で完食していた。


「料理長にとても美味しかったと、伝えてね」

 リリアージュは食器を片付ける侍女に、料理長への言伝てを頼んでいた。

「料理長に伝えておきます」

 侍女は頭を下げ、微笑みながらリリアージュの部屋を出ていった。


 リリアージュは少し悩んだが夫婦の寝室でなく、自室のベットで休むことにした。

 夫婦の寝室からリリアージュの部屋にそっと入って来たエクウスは、リリアージュの頬にかかった髪を指ではらい、優しくキスをした。

「おやすみ。リリアージュ、いい夢を」

 そう言うと、エクウスはリリアージュの部屋から夫婦の寝室に帰っていった。


 王都滞在の第一目的である、王宮で王様や王太子との謁見も無事に終わり、王都の縁戚や取引先の挨拶回りも予定どおり済ませ、エクウスとリリアージュはシエルバ伯爵領に帰ることになった。

 帰りの道中は少し進路を変え、行きとは違う別の街に宿泊することになっている。

 往路で立ち寄った街で買い物をした物は、馬車が手配され、既にシエルバ伯爵領に向かっている。


 この街でもリリアージュは目を輝かせ、植物の苗木や花の種を買い込んでいた。買い物に同行していた侍女は、相変わらずつまらなさそうな顔をしていたが、リリアージュは気づいていない。

 庶民が利用するような本屋にも立ち寄り、流行りの小説や動植物の図鑑などの購入もしていた。

 今回の支払いも、経理担当者から預かっているお金の殆どが残っている。


 帰りの馬車の中で、望んでいた物が手に入り楽しそうに話しかけてくるリリアージュを見ながら、エクウスは目を細め相づちを打っていた。

 エクウスはリリアージュを喜ばせるために、王都から伯爵領の執事に手紙を送り、邸の1階にリリアージュの部屋を整え、部屋から出入りできる彼女専用の庭を造るように命じていた。


 リリアージュの負担にならないように、予定より多めに休憩を取ったせいで、最後の宿に着くのが遅くなってしまった。

 エクウスは馬車の移動には慣れているが、リリアージュは外出することが少なく、馬車に乗り慣れていない。エクウスはリリアージュの負担を少しでも減らしたかった。


「エクウス様、夕焼けがとっても綺麗ですわ」

 宿に着くのが遅くなり、お腹も空いているだろうリリアージュは、馬車の外の景色にうっとりとした顔で話しかけてきた。

「ああ、綺麗だな」

 エクウスは全く不平不満や我儘を言わないリリアージュが不思議だった。


 エクウスの知っている貴族の令嬢は、細かいことですぐに不満をもらしていた。

 今回の王都行きにしても、日数がかかり過ぎるとか、馬車に乗る時間が長いとか、食事の時間とか、食材や味付けがどうとか、宿の格式だとか、細かいことやどうしようもないことに文句が多すぎた。貴族の女性はみなそういうものだと思っていた。


 ──ぐぅ~

「申し訳ございません」

 お腹が鳴ったリリアージュは、小さな声で言うと真っ赤な顔で俯いてしまった。

「わたしもお腹が鳴らないだけで、空腹だよ。もうすぐ宿に着くだろう。君のお腹が正直なだけだよ」

 と言ってエクウスは優しい笑みを浮かべ、リリアージュの頭を優しく撫でた。


 リリアージュは「はい」と言ってにっこり笑った。

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