10 国王様との謁見
「奥様、お気に召しましたか?」
リリアージュの感嘆の声にエクウスは、からかうように囁いた。
「ええ、旦那様。とても素敵な所ですね」
リリアージュは満面の笑みで返事をした。
エクウスのエスコートで馬車を降り、改めて邸を見上げた。
「旦那様、奥様。お帰りなさいませ」
玄関ホールに入ると使用人たちが揃って頭を深く下げ、挨拶をしてくれた。
エクウスが先頭に立つ執事に向かって、
「妻のリリアージュだ」
と、紹介をしてくれた。
リリアージュは胸を張り、
「リリアージュです。よろしくね」
「奥様。何なりとお申し付け下さいませ」
執事は胸に手を当てて頭を下げた。
邸の中は豪華絢爛というわけではなく、調度品は洗練された上品な物ばかりだった。美術品に目利きがなくても、一つ一つがとても高価な品物だということは直ぐにわかる。
リリアージュは格式高い伯爵家のタウンハウスに圧倒され動揺していたが、伯爵夫人としての矜持を持ちゆっくりと歩き、使用人の案内で自室となる部屋に向かった。
シエルバ伯爵領の邸と同じで、リリアージュの部屋には内扉があり、扉の向こうは夫婦の寝室になっていた。
リリアージュの部屋にも一人用のベットがあった。明日の王様との謁見に備えて、今日はゆっくり休みたかったが、湯浴みを手伝った侍女たちに、夫婦の寝室に行くように促された。
最高級のシルクで作られたナイトドレスは、領地の物と同じで、軽くてとても肌触りが良かった。
化粧品や香油も王都で手に入る最高級の品物のようだった。香りが爽やかで肌によく馴染み、しっとりとした質感になった肌は、自分が触れても触り心地が良かった。
先に寝室にいたエクウスはリリアージュを気遣い、
「今日は早めに休もう」
と、言ってくれた。
リリアージュはほっとしたが、心の中では残念な気持ちが残っていた。
リリアージュは翌日、侍女たちに日が昇る前に起こされ、湯浴みと全身のマッサージなど、王様との謁見に向けての準備が始まった。
伯爵夫人としての挨拶のため、リリアージュにはローブモンタントが用意されていた。
薄いグリーンのシルクの生地に、銀糸で大輪の花がいくつも刺繍されてあった。グリーンはエクウスの瞳の色、シルバーは髪色だった。
大輪の花の回りには蔦を模した刺繍とともに、無色透明のラインストーンが散りばめられてあり、動きとともにキラキラと輝いていた。
髪はアップスタイルで、髪止めには大きなパールが使われていた。
ネックレスとピアスもパールで統一されていた。
リリアージュは部屋まで迎えに来てくれたエクウスを見て息を飲んだ。
シルバーの髪は後ろに撫で付け整えられ、フロックコートとズボンは、リリアージュと揃いの色で薄いグリーンのシルクで仕立てられてあり、中のシャツは白で、襟には控えめに銀糸で小さな花と蔦の刺繍が施されてあった。
アスコット・タイはリリアージュの瞳の色である薄い青色になっていた。
「旦那様。とても素敵です」
「あ、ありがとう。リリアージュ、とても綺麗だよ」
褒め言葉が女性より後になってしまい、大人の紳士として恥ずかしかったエクウスは、言葉に詰まってしまった。
結婚式の時もそうだったが、リリアージュはとても美しかった。
最初に顔を会わせた時は特に綺麗な女性だとは思わなかったが、伯爵夫人として過ごしているうちに、日々洗練された淑女に変わっている。
そんな彼女に見惚れてしまっていた。エクウスにとっては始めての経験なのかもしれない。
「旦那様」
執事はエクウスに声をかけた。
「あっそうだった。リリアージュ、これを受け取ってくれないか?」
エクウスは執事から受け取ったジュエリーケースの中から、花をモチーフにしたルビーのブローチを手に取り、リリアージュに手渡した。
「まあ素敵」
後ろに控えていた侍女はリリアージュからそっとブローチを受け取り、ローブモンタントの左胸に着けた。
「よく似合っている。イメージ通りだ。私のカフスボタンと揃いで作らせたんだ」
「ありがとうございます。大切にいたします。旦那様とお揃いの物だなんて嬉しいですわ」
リリアージュは跳び跳ねるのではないかと思うくらいに、全身で喜びを表していた。
仲のよい夫婦を執事や侍女たちは微笑ましく眺めていた。
「では、行こう」
「はい。旦那様」
リリアージュはエクウスにエスコートされて馬車に乗り二人は王宮に向かった。
王様に謁見と聞いていたが、謁見室ではなく係の者は二人を王族の応接室に通していた。
しばらく待っていると、
「お待たせしたね。エクウス久しいね。そちらが奥方だね」
王様は砕けた言い方をして応接室に入って来た。
「陛下。謁見とお伺いしていたのですが?」
エクウスが言うと、
「まあいいじゃないか。堅苦しいのは嫌いでね」
王様は、はははと笑って向かいのソファーに座った。
「君たちも座ってくれる?」
王様の言葉に従ってエクウスとリリアージュはソファーに座った。
近い、近すぎる。
国王様が正面のソファーに座っている。
顔を上げていていいのだろうか?
一通り行儀作法を習ってきたリリアージュは、この先どうしたら良いのかわからなくなってしまった。
「陛下。妻が困っています」
「そうかい。エクウスの父親と私は学園からの友人でね。シエルバ伯爵家とは家族ぐるみの付き合いなんだよ。因みに王太子とエクウスは幼馴染みだよ」
リリアージュは驚いた顔で、エクウスの顔を見ると、小さく頷いた。




