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《モンブリ》~進化のたびに広がる、オレとモンスターの世界~  作者: 夕幕
第1章 アルカディア王立学園 1年生編

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第97話 紅角鬼グラド

 グラドがいるボスエリアへと足を踏み入れる。

 その瞬間、全身に寒気が走った。


「キュイィィ……!?」


 ブランも何かを感じ取ったみたいだ。

 ネメシスは最初から臨戦体制だったけど、寛ぎモードのブランが瞬時に身構えた。

 今まで戦ってきたモンスターとは格が違う。

 戦う前からそれが嫌というほどに伝わってくる。


 でも、シャーロットさん、エルミナさんと一緒に"エニグマ"と遭遇したあの時、格どころか強さの次元そのものが違う。

 そう思えるくらい異次元のモンスターの圧を感じた。

 それを容易く圧倒したシャーロットさんの虎徹の強さも。


 横を見るとルナとシエルは今までに感じたことのない威圧感に飲まれている。

 良くも悪くもあの経験があったから今、冷静でいられる。


「ブラン、『ジェット・ブレイクスルー』!ネメシス、横に回って!」


 こういう相手に先手を取らせて、戦うのはできない。

 だからこそ、最速の一撃で動かれる前に仕掛ける。

 だけど、ギリギリの所で反応され、左手でガードされ、弾かれる。

 そこを右手の巨大な棍棒が薙ぎ払うようにブランへ襲いかかる。


「キュイ!」


 それを空中で華麗な身のこなしを披露することで、棍棒そのものを足場として利用して、薙ぎ払われる向きと逆方向へジャンプした。


「ネメシス、『飛閃』!」


 まだ距離を詰め切れてないけど、ブランのおかげで若干だけど、グラドが体勢を崩した。

 こういうモンスターが大きな隙を見せることは無いと思う。

 だから、少ないチャンスで確実にネメシスの攻撃を当てて、デバフと状態異常を付与しないと。


「グラァッ!!」


 しかし、腕力にものを言わせ、横に薙ぎ払っていた棍棒を強引に止め、振り上げ、『飛閃』を弾く。


「フィア、『ウインド・セヴァランス』!」


 棍棒を振り上げ、無防備になった右脇腹に直撃する。


「ギッ……グラァアアッ!!」


「ルナ……」


「オルクはウィルに騎乗。ウィルは、『鉄壁突進』!」


「シエル……」


 二人ともさっきまで圧に飲まれてたのに……こんなに早く立ち直るなんて、すごい。



 正面からオルグを乗せて突っ込むが、それを体勢を整え、万全の状態で迎え打とうと待つグラド。


「オルク、ジャンプして『ルイン・ドライバー』」


「ブラン、グラドの後ろから『ソニックホーンブレイカー』!」


「ルシウス、左側面に待機!」


 正面にはウィル、上にはオルク、背後にブラン、右にネメシス、左にルシウス。

 後方にはフィアがいる。

 左右からは敢えて仕掛けないことで、グラドの注意を常に引けるようにする。

 その上で前後と上からの攻撃。

 全てを同時に対処するのは無理。

 どれかは決まる筈。

 その上でネメシスの攻撃を決めたい。


「ネメシス、任せるよ」


「承知しました」


 こういう時、ネメシスなら何も指示せず任せた方がきっといい。

 ブランと違って気分屋じゃないし、流れをしっかりと理解している。

 僅かな隙を見逃さずに、確実に決めてくれる。


「グルァアアッ!!」


「フィア、棍棒に『ウインドボール』!ルシウス、『ソウルブレイク』!」


 グラドがオルク目掛けて棍棒を振るが、フィアによって弾かれる。

 その反動で体が仰け反り、ルシウスの新スキルが炸裂。

 それと同時にオルクの一撃が決まり、背中から倒れ込むグラド。

 そこをすかさず、ブラン、ネメシス、ウィルが攻撃する。


「よし!」


 ネメシスが『斬哭冥華』と『葬翼』の二つを決めてくれた。

 これでより有利に戦いを進められる。

 ……にしても、ルシウスの新スキルは強いな。


 相手モンスターの視界から外れていないと使えない条件はあるけど、不可視の攻撃を飛ばすことができる。

 剣を振れば斬撃が、メイスを振れば打撃が飛ぶ。

 今回は、少しでも衝撃を与えられるようにメイスを使ってたけど、この使い分けも強い。

 ただ、クールタイムが他の☆☆☆スキルよりも長いのがネック。


 だが、背中から倒れたはずのグラドが、ピクリと指を動かす。

 それに気づいて、近くにいたネメシスたちは瞬時に距離を取る。

 その瞬間、グラドの体が凄まじい勢いで跳ね起きる。


「グラアアアァァァッ!!」


 空気を震わし、棍棒を振り回しながら暴れ回る。

 その姿は、もはやさっきまでの動きとは別物だった。


「なっ、速っ……!」


 先んじて下がっていたにも関わらず、ギリギリの回避になった。

 それにしても、グラドの動きに鈍りが見えない。


「もしかして、デバフが効いてない……!?」


 まさかの状況に理解が追いつかない。

 そもそも、どうしてネメシスの攻撃でデバフと状態異常が付与できていないのかわからない。


「グラァァァァ……」


 唸るように咆哮しながら、グラドの体が赤黒く染まっていく。


「第二形態……!?でも、そんな情報は無かった筈」


 このダンジョンのことは事前に調べた。

 エリアボスであるグラドに第二形態は無い。

 それがあるのは、ここのダンジョンボスだけ。

 でも、これって……


「落ち着いて、オルフェウス。あれは強化スキルを発動しただけ。こういうスキルには、時間制限があるから今は粘れば大丈夫」


「ネメシスの攻撃でデバフや状態異常が付与できてないわけじゃないよ。HPをよく見て。猛毒のスリップダメージで少しずつ削れてるでしょ」


 シエルとルナに言われて、グラドのHPを確認するとスリップダメージで削れていた。

 それと、デバフと状態異常の付与を示すアイコンも点灯していた。


 グラドの全身が赤黒く染まり、熱気すら伴うような気配を放っていて、目は血のように濁り、鼻息ひとつにも圧が乗っている。

 さっきまでの動きがただの前座だったかのようにすら思える。


 ……これ、ホントに強化スキルなの?



 強化スキルを発動したグラドはデバフを付与されたことを感じさせない。

 最初こそ、外見の変化から第二形態かと思って戸惑ったけど、冷静になると大して強くなっていない。


 ひとまず、距離を取ってこっちのリズムを整える。

 すると、距離を詰めることを諦め、足を止めた。

 次の瞬間、 赤黒いオーラをまとった棍棒が振り抜かれる。


「衝撃波!?避けて!!」


 遠距離攻撃が使えるのは、最初から知っていた。

 だから、みんなオレの指示で即座に反応して、攻撃の軌道上から逸れた。

 しかし、次から次に攻撃を繰り返し、攻撃範囲が徐々に広くなっている。


 このままグラドから距離を取り続けると近づけなくなる。

 その前にグラドの攻撃を止めないと。

 素早さの高いブランに翻弄してもらえば……


「ブラン、『ジェットアタック』!」


 ブランが回避に専念するのを止めて、攻撃に移ろうとした瞬間、グラドも攻撃を止める。

 その目は真っ直ぐにブランへと向けられていた。

 そこへ一直線に突っ込むブラン。


「ルナ!」


「大丈夫。フィア、『ウインドカッター』!」


 ブランに向けて棍棒が振り下ろされるが、フィアの『ウインドカッター』によって、勢いが落ちる。


 フィアが作った僅かな時間でブランの目の前へネメシスが割り込む。


「『二刀・受け流し』!」


 今、グラドはスキルを使わずに攻撃している。

 普通にスキルを使ってない攻撃でも大ダメージは避けられないけど、ネメシスなら受け流せる。


 予期せぬタイミングでネメシスに割り込まれ、攻撃を受け流されたことで、グラドは前のめりに倒れ、膝をつく。

 そこに、ブランの角が突き刺さる。


「オルク、『一之穿いちのうがち』!」


 ブランの後ろから距離を詰めていたオルクが斧を振り上げる。

 その衝撃で今度は、巨体が後方に揺れ、背中から倒れる。


「フィア、『ソニック・クロスブレーカー』!ルシウスは、『ハンマークラッシュ』!」


「ウィル、『クロー・ブリッツ』!オルクは、『スタンアックス』!」


「ブラン、『ホーンラッシュバースト』!ネメシス、『斬哭冥華』!」


 倒れた所を一斉攻撃で畳み掛ける。

 猛毒のスリップダメージもあり、グラドのHPは一気に半分を下回る。

 そしてこのタイミングで、全身を覆っていた赤黒いオーラが霧のように散っていく。


「よし!」


 これでステータスの上昇は消えたはず。

 実際、モーションも目に見えて鈍くなっている。


 それでも、威圧感だけは健在で、油断できない相手と思わされた。


 最後は、ネメシスの付与した素早さデバフと鈍重、疫病の状態異常で動きが鈍くなった。


「キュイィィ!!」


 そこにブランの『ジェット・ブレイクスルー』が炸裂し、HPは0になった。

次回、『宝箱』に続く

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