第91話 ラグヴァルド
スキル作成の申請書を提出して、1週間。
遂に『葬翼』のスキルスクロールが完成した。
これをスキル無料交換券を使い、受け取ってネメシスに使った。
本当ならこの後、直ぐにでもダンジョンに挑戦したかったけど、ルナとシエルが実家に帰省していていない。
その為、エルミナさんからダンジョンには挑戦できないと言われた。
必ずチームじゃないと挑戦できないと決まっていて、こればかりはどうしようもないとか。
どうしようか、エルミナさんとシャーロットさんに相談しようと思ったけど……
ピコン!
「エルミナ、スマホにメッセージ……あ、ボクさまにも来てる」
「えぇ、私 今すっごく忙しいのに誰よメッセージ送ってきたの!急ぎの案件以外、メッセージお断りなの、に……」
突然、スマホに誰かしらからメッセージが届いたことで、不機嫌になるエルミナさん。
だけど、スマホの画面を目にした瞬間、顔がどんどん青ざめていく。
「え、ちょ、え!?ちょっと待って!どういうこと?」
「あ、そっか。エルミナは知らないよね。今年入った辺りからこっちに来るようになったの」
「いやいやいや、来るようになったの、じゃないから!一応、私 現役引退してるんだけど!絶対に戦力にならないから!」
「つべこべ言わない。今、ボクさまとエルミナの力が必要なの」
「ああん、やめて、引っ張らないで……!絶対に今年中に帰って来れないやつじゃん」
「オルフェウス、ボクさまとエルミナは急を要する用事ができた。これ以上、守ってあげられない。……アルセリア家の人間とは関わったらダメ」
エルミナさんは涙ながらシャーロットさんに引き摺られてどこかへ行った。
それと、シャーロットさんが言い残した言葉。
ガイドくんと同じ、アルセリア家とは関わるな。
それって、ジルさんのこと……
何がなんだかわからないけど、『エニグマ』の一件があったし、警戒しておかないと。
ということで、ネメシスの新スキルはしばらく使えそうになかった。
「キュイキュイ」
「はいはい、構って欲しいのね」
すっかり自称大人の化けの皮が剥がれたブランは、いつも通りに甘えてくる。
正直、夏場はブランのもふもふな毛が触れるとかなり暑く感じるから、突き放したいけど、それすると拗ねるからな。
その後、ブランのご機嫌を戻す方が大変だし、多少の暑さは我慢。
こうして、残りの夏休みはブランを愛でることで終わった。
……っていうか、シエルは暑さに関係なくブランをもふもふしてるよね?
シエルのもふもふ愛が為せることだけど、どうしてか羨ましいとは思えないんだよね。
◆◇◆◇
アルカディア王国・王城。
ここにシャーロットやエルミナを始めとする実力あるブリーダーが集結していた。
「陛下、メッセージの内容は確かなのですか?俄に信じ難いのですが……」
重苦しい空気が漂う中、玉座に座る人物に対して、エルミナが質問を投げかける。
「確かだ。魔境から、魔人がこちらへ向かっているという報告が複数の拠点から入った。国家存亡の危機と判断し、君たち魔人と戦闘経験のあるブリーダーを集めた」
ここにいるのは、シャーロットをエースとするチーム”ボクさまは最強"の三人とエルミナをリーダーとするかつて最強と言われていたチームの三人。
他にも現役のブリーダーが四チーム集結している。
「……信じたくないけど、本当なのね。魔人が魔境の外、アルカディア王国に来るなんて……」
「それで、ネームドとノームレスと来てるのは、どっちなの?」
「まだ確定したわけではないが、ネームド魔人と思われる」
ただでさえ重苦しかった空気がこの一言で完全に凍った。
この場に集結したブリーダーのほとんどが現実を受け入れられていない。
それほどまでに、ネームド魔人は脅威的な存在なのだ。
「ノームレスならまだしも、ネームド……」
「確認されているネームド魔人は、ラグヴァルド」
王の側近が淡々と告げたその名に、場がざわめく。
「ラグヴァルド……!?」
「冗談でしょ……」
魔境に入ることの許されたブリーダーの中にその名を知らない者はいない。
現チャンピオンチーム、"ボクさまは最強"の三人が辛うじて迎撃に成功したとされる魔人。
しかし、実際は見逃してもらったが正しかった。
この世界では、モンスターの攻撃で人間が死ぬことはない。
だが、魔人は違う。
流れ弾に当たろうものなら、即死は免れない。
「質問いい? ラグヴァルドの進行ルート、分かってるの?」
その一言に、場の空気が再び引き締まった。王の側近が一枚の地図を広げる。
「現在確認されている地点は、南方の第五境界線付近。魔境に隣接する森林地帯から進行していると見られます」
「そっち……。王都から遠いけど、人がほとんどいない地域の筈。そこなら派手に戦っても大した問題にならない」
バタン!!
「それに時間も幾ばくかある。待ち伏せての迎撃戦が無難だ。その為には、私たちの誰かが正面から当たる必要がある」
このタイミングで一人の男性が勢いよく扉を開け、玉座の間に入って来た。
この人物こそ、アルカディア王国の第一王子にして、ボクさまは最強のリーダー、アデス・アルカディア。
「その一番おいし……じゃなかった。危険な役回りは"ボクさまは最強"が引き受けるよ」
「無論だ。私は王家の人間として、国の窮地にこそ最前線に立ち、戦う」
こうして、国民の大多数が何も知らない所で、国の存亡がかかった戦いが始まろうとしていた。
これが魔境に住む魔人たちとの全面戦争の序章とも知らずに。
そして、この状況を密かにほくそ笑む組織があった。
次回、『ブラン、山を食べる』に続く




