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《モンブリ》~進化のたびに広がる、オレとモンスターの世界~  作者: 夕幕
第1章 アルカディア王立学園 1年生編

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第87話 無敗の女王

「……まあ、いいでしょう。表舞台で無敗を誇っていても世の中、上には上がいるということを教えてあげましょう」


「御託はいいから早くして」


 エルミナさんのリアクション的に挑発してるわけじゃないと思う。

 だけど、ここまで挑発してるとしか思えないスラスラ言葉が出るのはある意味すごいな。


「くくくっ、では……来なさい、インカーネイト」


 骨格のようなフォルムに、霧のような白いマントが揺らめいている。

 口元からは常に冷気が漏れている半透明の黒氷に覆われた人型モンスター。


「滅ぼせ、フェルマータ」


 全身が機械のような構造をしている赤銅色の装甲。

 背中から耳障りなノイズを放つ四足歩行の獣。


「っ!?」


 見ただけで理解した。

 ブランやネメシスとは違う。

 上手く言葉にできないけど、何かが根本的に違う。


「インカーネイト、『レクイエム・グレイシア』」


 突如、フィールド全体が凍りついた。

 オレとエルミナさんは夏にも関わらず、寒すぎて、凍えている。

 だけど、シャーロットさん、『エニグマ』の二人は顔色一つ変えていない。

 ……もしかして、シャーロットさんが暑そうな服装の理由って、これを予期してたってこと?

 いや、さすがに考えすぎか。


「フェルマータ、『サイレント・インペイル』」


 音が消えた。

 それがただの静寂じゃないことに、すぐ気づいた。

 急にフェルマータの耳障りなノイズが消えた。

 それに、エルミナさんの口が動いたけど、何も聞こえない。

 オレも声を出そうとしたけど、自分の声が聞こえなかった。


 ただ、『エニグマ』の二人とそのモンスターは会話ができているような気がした。

 仮面の二人が何やら口ずさむと、モンスターが動いた。


 インカーネイトが地面から出現させた無数の氷棘が、フェルマータの機械の足が猛スピードで虎徹へと迫る。


 でも、虎徹は回避する素振りを見せない。

 その代わりに右手をそっと左腰に差した刀の柄に添えた。


 次の瞬間、気づいたら斬られていた。


「……え、何が起きたの?……あ、声が聞こえる」


 どういうこと?

 何も見えなかった。

 気づいたら虎徹が右手で抜刀していて、氷棘が砕け、音が聞こえるようになっていた。


「まさか、ありえない……!☆☆☆☆☆のフィールドすらも斬るなんて、不可能だ!」


「何?『エニグマ』ってバカの集まり?☆☆☆☆☆の上に★があるでしょ。そもそもその程度のスキルでボクさまの虎徹と戦えると思ったの?」


「いえ、それはありえません!★は実在しない!」


「あれはブリーダーを更なる高みとやらに押し上げる為の方便」


 え、ちょっと待って!

 もう情報過多!

 ブリーダーを更なる上に押し上げる為の方便ってどういうこと?

 フォルリオ先生の授業ではスキルのランクは全部で六つって教わったよ。


「虎徹、終わらせて」


「承知」


 シャーロットさんの指示を受け、右手の刀を鞘に収め、今度は左手で右腰に差してあった刀に手を添える。


 次の瞬間、気づいたら虎徹はインカーネイトとフェルマータの背後に抜刀した状態で立っていた。

 あまりにも動きが速すぎて、刀を抜く瞬間どころか動いたことにすら気づかなかった。


 そして、インカーネイトとフェルマータはそれぞれクリスタルへと戻った。


「なっ、強すぎる……!これは想定外です」


「想定を遥かに超える強さ。これが無敗の女王か」


「……くっ、我々の見立てが甘かったようですね。今日のところは撤収しましょう」


 この言葉と同時に、仮面をつけた二人は霞のようにどこかへと消えた。


「えっと、もう大丈夫なんですか?」


「もう?さっきから大丈夫。ボクさまがいるから」


 すっ、すごい自信!!

 オレがもし、逆の立場だったら絶対にそんなこと言えない。

 シャーロットさんは、虎徹ならどんなモンスターにも勝てるというか負けないって確信してるって感じがする。

 その自信が言葉を通して伝わってくる。


「ありがとう、シャーロット。それで、オルフェウスくんは、虎徹の戦いを見て何か学べたかな?」


「いや……そもそも速すぎて見えなかったです」


「まあ、目が慣れてないから仕方ない!ただ、それだと折角ね、実践演習を手伝ってくれる親切な敵が現れたのに有効活用できないじゃない?」


 いや、ちょっと何言ってるか意味がわからないです。

 今の感じから『エニグマ』が敵なのは、何となくわかりますよ。

 でも、実践演習を手伝う云々は理解できないです。

 あと、敵に親切という言葉が着く理由も。


「そこで、問題!虎徹の刀に隠された秘密は何でしょう?」


「右はスキルを、左はモンスターしか斬れない」


「ああ、ちょっと!オルフェウスくんに出した問題を何でシャーロットが答えるの?」


「だって、今のこの子のレベルじゃ、わからないでしょ?わからない問題をわかってて出すのは、不親切」


 シャーロットさんは肩をすくめると、虎徹の刀を見る。


「君はまだ★スキルについて知らない。でも、今はそれでいい。知るにはまだ速いから」


 シャーロットさんのこの一言で、エルミナさんはこの話をこれ以上何も言わなくなった。


「それよりも君のモンスターを見せて。ボクさまが直々に評価してあげる」


「あ、それが……」


「ん?」


「ああ!ごめん、オルフェウスくん!私としたことが、すっかり忘れてたよ!」


 ブランはエルミナさんの研究室のお菓子と書かれた収納ケースの中にいるから、ここにはいない。

 虎徹の凄さを見た後だと恥ずかしてくて言いづらくて、どうしようかと思ったら、エルミナさんがその事に気づいた。


 シャーロットさんも一緒に、オレとエルミナさんは急いで研究室に戻った。

 寂しくて泣きじゃくってないか心配で。


「ヤバいヤバい!早く早く!」


 ただ、オレよりもエルミナさんがかなり慌ててる。

 きっと、あれだと思う。

 ブランが収納ケースのお菓子を全部食べ尽くしていないか心配しているだと。

 オレとしては、泣きじゃくっているとは別に丸くなってないかも心配。


「はぁはぁ、ブランさん、いる!?」


 パッと見では、ブランの姿は見えない。

 だけど、エルミナさんの研究室にあるお菓子の収納ケースが、開いたままになっていた。

 中を覗くと、口周りや前肢がベトベトのブランが幸せそうな顔して、スヤスヤと寝ていた。


 収納ケースの中のお菓子は案の定、ブランが全て食べており、カス一つ残っていなかった。

次回、『ブランは大人』に続く

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