第85話 強さとは何か?
「なるほど。この子が噂のモンスターか。確か『亡者の墓場』の隠しエリアにいたボスモンスター」
いろんな角度からネメシスを見て回るエルミナさん。
これにどんな深い理由があるのか、わからないので、観察?が終わるのをじっと待つことに。
それまで待てないと思われる子が腕の中にいるから、なでなでして退屈を紛らわしてあげる。
数分ほどして、ようやくネメシスの観察?が終わった。
ネメシスもようやく終わったと言いたげな疲れた顔をしていた。
ブランはというと、幸せ一杯の顔をしている。
「うん、オルフェウスくんの現時点の強さは大体わかった。とりあえず、モンスターはルームに戻してくれる?」
「え、あ、わかりました」
今のでブランとネメシスの強さがわかったの?
オレには意味あることをしているようには見えなかった。
まあ、言われた通りにネメシスはルームに戻したけど。
そして、我関せずと腕の中に居座っているブラン。
相変わらず、ルームはお嫌いみたい。
入ったこと無いと思うけど。
「……あ、この子もしかして、ルームに入りたがらない感じかな?」
「すみません」
「気にしなくていいよ。偶にいるからこういう子。それじゃあ……」
エルミナさんの雰囲気からたぶんだけど、ブランもルームに入ってくれないと困る感じだな。
どうしよう……?とか思ってたら、エルミナさんに「着いて来て」と言われた。
後を着いて行くと、年季の入った木製の扉の前に案内された。
重厚な木の扉には、手入れはされているが、無数の引っかき傷や染みが刻まれていた。
まるで、長年にわたっていろんなモンスターたちが出入りしてきた証みたい。
ガチャッ
「ブランさんはここで遊んでてくれるかな?」
扉の向こうにあったのは、研究塔の中とは思えない、まるで誰かの隠れ家みたいな空間だった。
ふわふわのマットが敷き詰められた床に、小さな山型のクッションが点々と並んでいる。
壁にはシンプルな棚があって、そこには『モンスター専用の知育玩具』と書かれていた。
おやつと書かれた収納ケース、宙に浮いてくるくる回る羽根つきのおもちゃ。
部屋の隅には、ミニサイズの温泉があった。
湯気の立つ浅い湯船が、まるでモンスター用の浴場みたいに備え付けられている。
ちゃんと岩風呂風の装飾までしてあるし、タオルらしき布まで置いてある。
天井には、優しい光を放つランプが円を描くように並んでいて、その光が床の模様をきらきらと照らしていた。
正に至れり尽くせりの空間がここにはある。
「キュイ?キュイキュイ」
「これからオルフェウスくんと大事なお話があるからここで遊んでてくれるかな?」
「キュイキュイ〜!」
勢いよくオレの腕の中から飛び出て、おやつと書かれた収納ケースに向かうブラン。
どうやらおもちゃより、おやつの方が気になるご様子。
器用に角と前肢を駆使して収納ケースを開き、そのまま中へ入り込んで行った。
……あれ?そういえば、ブランはいつの間におやつって言葉の意味を覚えたんだ?
いつもその時間帯は寝てるからおやつをあげた事無いんだけどな。
……あ、でも、シエルがお泊まりの時にあげてるのかも。
「うんうん、小さい子はこうじゃなきゃね」
エルミナさんは、ブランがスポッとおやつの収納ケースに入ったのを見て、笑顔を浮かべている。
「さてと、オルフェウスくんは私と少しお話しようか」
「はい」
そうして、エルミナさんに促されるままに近くにあった椅子に、向かい合う形で座った。
「フォルリオから大まかな経緯は聞いてる。端的に言うと、もっと強くなりたいんでしょ?」
「はい」
オレの返事に、エルミナさんは頷いて、指先で軽く空をなぞった。
その仕草だけで、空間の空気が少し変わった気がした。
「1年生であれだけ戦えるなら、よくやってる方だと思うよ。けどね、戦いに"余白"が多すぎる」
「余白……?」
「実力はある。モンスターの素質も悪くない。けど、それだけで勝てるほど戦いは甘くない。そもそも、戦いにおける強さって何だと思う?」
「……えっと、攻撃力とか、防御力とか、素早さとか……そういう数値……?」
「正解。でも、それだけじゃ足りない」
それだけじゃ足りない?
でも、こういうステータス制のゲームって数字が全てじゃ……
Lv1でLv100のモンスターに普通なら勝てない。
数字が1と100、違うだけで強さの次元が根本的に変わるわけだから。
「戦いは、数字で語れない"間"と"選択"の積み重ね。これが、私の考える本質」
「間……と選択……」
「その"間"にどう動くか。"選択"の先をどう読むか。それこそが、強さの本質。どれだけ強いモンスターを持っていても、その瞬間の判断ができなければ、勝てる戦いも落とす」
エルミナさんの目が、少しだけ鋭くなる。
「攻める時も、守る時も一瞬、迷ってる。本当に強い人はその隙を逃さず、攻め倒すよ。いかに自分のペースで戦うか。戦いはこれを突き詰めた方が圧倒的に有利」
いかに自分のペースで戦うか、か。
逆に言えば、相手のペースでは戦わないってことだよな。
今、思い返すとクラス対抗チーム戦 1回戦でブランがネメシスの頭を足場にジャンプして飛んでいた相手を倒したのは、こっちのペースで戦ったことになるのかな?
いや、あれはオレも驚いて何してるの!?ってなったから違うかな。
「イメージができないかな?それなら、話をもっと簡単にしよう。空を飛べて遠距離攻撃スキルを持っているモンスターAと、空が飛べなくて、遠距離攻撃スキルが無いモンスターB。オルフェウスくんがモンスターAなら、どう戦う?」
「空から距離を取ったまま、遠距離攻撃をします」
「そう、それそれ!モンスターAは自分の圧倒的優位を活かして戦うのが普通。モンスターBの土俵である地上での接近戦は避け、自分の得意分野で戦う。これこそ、自分のペースで戦うだよ」
なるほど。
すごくわかりやすい。
「戦いってね、結局"選ばせない"ゲームでもあるのよ」
「選ばせない?」
「相手に選択肢を与えない、あるいは選択肢を制限する。例えば、さっきのモンスターAがずっと空にいれば、モンスターBは何もできないでしょ?」
「……ああ、なるほど」
「強さっていうのは、状況をコントロールする力とも言える。オルフェウスくん、あなたにはそれがまだ足りない」
ぐさりと刺さる言葉だけど、納得しかない。
「じゃあ、その……どうやって、それを身につければ……」
「それを教えるために、私がここにいるの。この夏休み期間を使って、ブランさん、ネメシスさん、それぞれの強みを活かした戦い方を見つけて」
「強みですか?」
「そう。それがわからないと、どう戦ったらいいか何も見えてこないからね」
次回、『エニグマ襲来』に続く




