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《モンブリ》~進化のたびに広がる、オレとモンスターの世界~  作者: 夕幕
第1章 アルカディア王立学園 1年生編

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第81話 エニグマの影

 この世界の人間……え!?

 ちょっと待って。

 それって、いや、さすがに……


「オルフェウス、君が外の世界の人間だって気づいてるのは、僕だけじゃないと思う」


「いやいやいや、ちょっと待って。その外の世界の人間って何?意味わからないんだけど」


「そのままだよ。この世界とは別の世界から来た人間。あ、迷い込んだが正しいかな?オルフェウスみたいに」


 ジルさんの口振り、確信を持ってる。

 オレがこの世界の人間じゃないって。

 これは、とぼけても無駄かな。


「一つ聞いてもいいかな?どうしてわかったの?」


「ああ、それね。オルフェウスっていう名前だよ」


「え?」


「オルフェウスは、王族、貴族に伝わる英雄の名前。偶然にも同じ名前の平民って可能性もゼロじゃないけど、平民は短い名前を付ける傾向にある。だから、オルフェウスって長い名前は考えにくい。王族、貴族は、そもそも英雄の名前を付けない。それに、外の世界の人は、英雄の名を名乗ることが多いからね」


 英雄の名を名乗ることが多い?

 もしかして、神話に登場する神様とかの名前のことを言ってるのかな?

 オルフェウスも一応、ギリシャ神話に登場する神様の名前だし。

 いや、オルフェウスって名前はシエルが付けてくれたわけだし、これはただの偶然だよな。


「……ん?それじゃあ、ジルさんはオルフェウスって名前が王族、貴族だっけ?そこに伝わる英雄の名前って何で知ってるの?」


「ああ、まだちゃんと自己紹介してなかったね。僕はアルセリア公爵の娘、ジル・アルセリア。学園は、身分とか関係無く、平等だから僕みたいに身分を隠してる人は一定数いるんだよ」


「公爵家のご令嬢……」


 想像よりも遙かにすごい人だった。

 でも、ジルさんには悪いけど、貴族令嬢ってもっと高貴なオーラを纏ってて、どこか気品溢れる人をイメージしてたから、違和感があるな。


 ……ていうか、他にも別世界の人間っているんだな。

 みんな、オレみたいにゲームを始めようと思ったらこの世界に来てたとかかな?

 まあ、考えるだけ無駄か。

 元の世界に戻りたいとか、他の人たちと交流を持ちたいと思ってないオレには関係ない。

 寧ろ、この世界でみんなと楽しく、今まで通りの日常を過ごしたい。


「他に自分と同じ境遇の人間がいても、関係無いって思ってる?それは違うよ」


「どうして?」


「オルフェウスの意思とは関係無く、今後『エニグマ』は接触してくる」


「『エニグマ』?」


「そう、オルフェウスと同じ外の世界の人間のみで構成されているとされている組織」


「その『エニグマ』ってどういう組織なの?なんかヤバイ組織とか?」


「犯罪組織だよ。ここら一帯が荒廃した原因を作ったのもそう」


 え?ちょっと待って。

 ここが荒れ果てた原因を作った?

 そもそも、何をどうしたらこうなるのさ。


「……ここ、元はこことは別の世界について研究していた施設があったの。でも、全部 消された」


「消されたって、どういう意味?」


「文字通りの意味だよ。建物も人も、記録も全部。まるで最初から存在しなかったみたいに」


 ジルさんの目は真っ直ぐだった。

 いつもの柔らかな笑みはどこにもなくて、真剣で、どこか……悲しげだった。


「それって……『エニグマ』がやったってこと?」


「そう言われてる。証拠は何も残ってないけど」


 そんなことって……

 どうして、そんな事ができるの?

 自分たちが元いた世界じゃないから何やってもいいとか?

 いや、普通に考えたら違うでしょ。

 この世界で生まれて、生きてる人たちがいる。

 その人たちの生活を脅かすなんて……


「ねぇ、オルフェウス。君は何か"おかしい"って思ったことない?」


「おかしい……?」


「例えば、学園の設備や技術が妙に発達してるとか。わかりやすく言うなら、魔道具開発における技術力のバランスが悪いかな」


「……あ!」


 確かに、何度か違和感を覚えたことはあった。

 でもそれは、自分が異世界人だし、ここがゲームの世界だからで納得してた。

 スマホとか、世界観にミスマッチだけど、なんかそれっぽい設定があって、便利と思ってたけど、もしかして……


「学園内外において、外の世界の技術を模倣して造られたものがたくさんある。理由は簡単。外の世界から迷い込んだ人間がいろいろ教えてくれたから」


「……!」


「でも、エニグマはそれを悪用しようとした。外の世界の技術や知識を、力に変えてしまった。その果てに何が起きたか……今のこの廃墟が答え」


 オレは言葉を失った。


「だから、君も無関係ではいられない。いずれ、必ず接触される」


「……オレは、どうしたらいいの?」


「逃げないで、信頼できる仲間を持って。そして、見極めて」


「見極める……?」


「誰が本当に信じられる人間か」


 ジルさんはそう言って、オレの肩に軽く手を置いて、すれ違いざまに一言呟いて、立ち去った。


「僕は、君の味方になるよ。……できる限り、ね」


 "できる限り"――その言葉が、妙に引っかかった。



 ジルさんが立ち去って、オレは一人ここで話の内容を自分の中で整理していた。

 そこで、一つだけ気になることが。

 ジルさんはオレがこの世界の人間じゃないって、名前で気づいたって言ってた。

 王族や貴族しか知らない英雄の名前。

 ……それだと、おかしくないか?

 だって、クラスメイトに貴族が一人いるよな。

 ジルさんが気づいたなら、きっと最初の自己紹介で気づいてたんじゃ……

 ジルさんが嘘をついているのか、それとも……

 こうなったら、直接聞いて確認するのもありか?


 この日、どうしたらいいかわからず、真っ直ぐに寮の自分の部屋へ戻った。

 部屋に入ると、ベッドで丸くなり、掛布団を掛けられた状態でスヤスヤとお休み中のブランの姿があった。


 ブランを起こさないように椅子に座って、どうしたらいいか考えているとネメシスがルームから出て来た。


「主様、申し訳ございません。不穏な気配を感じた為、ジル様ともお話を聞かせていただきました」


「そっか。でも、気にしなくていいからね。そうやって気を遣ってくれて、ありがとう」


「……主様は、どうされるおつもりですか?ジル様のお話を信じるなら、クラスメイトのガイド様は……」


「うん、わかってる。ガイドくんライン家っていう貴族。だから、オレの正体に気づいてる筈だけど」


 これは、ジルさんの話が全て真実である前提の話だ。

 これまで、共に過ごしてきたガイドくんをオレは疑いたくない。

 どうしたら……

次回、『界渡りの英雄』に続く

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