第80話 ジルの誘い
「ブランちゃん、ボク誇らしいよ~。よく頑張ったね!」
「キュイ~!」
風切り音と同時に姿を消したブランはやっぱり、応援席にいるシエルの腕の中にいた。
さすがに、シエルからブランをどうこうするのは、無理だからミューラさん、カレンさんとオレの所にやって来た。
「オルフェウス、お疲れさま」
「最高に良い試合やったで!」
「うん、ありがとう。でも、オレ一人じゃ勝てなかったよ」
この決勝戦もだけど、ここまで勝て進めたのは、カナリア先輩やクラスのみんなが情報を集めてくれたおかげ。
あとでちゃんとお礼を言わないとな。
いや、それ以前にブランが神懸かった反応を見せたからだよな。
あれが、無かったら普通に最後、負けてただろうし。
「キュイキュイ!」
うんうん、ブランもよく頑張ったよ。
後で褒めてあげない……と。
ん?何で君、ここにいるの?
今の今までシエルのとこにいたでしょ?
「キュイキュイ?」
ネメシスを召喚して通訳を頼まなくても、きっと"ご褒美まだ?"って言ってるってわかるよ。
ブランは優勝したって理解してるのかな?
いつもと何も変わらないように見える。
「よしよし、ブランはいい子だからご褒美は少し待っててね」
「キュイ!」
……っていうか、ホントにどうやってシエルの所を抜け出して来たの?
応援席でシエルがブランを求めて徘徊しているように見え……あ、ルナに止められた。
シエルが涙を浮かべてる気がするけど、気のせいかな?
うん、"ボクのブランちゃん、どこ?"で泣いてるわけじゃないよね?
C組が優勝したから、その嬉し涙だよね?
そう思うことにしよう。
「いやあ、参った。さすがに強かったわ」
あ、ザイルくん。
試合前や試合中の冷たさや圧は全く無くて、すごいふわっとしてる。
いや、穏やかに見えるかな?
「さすがC組。三人ともすごく強かった」
「ありがとう。こっちからすると、G組もめっちゃ強かったよ」
正直、もう一回試合なんて言われたら、ザイルくんに勝てるかどうかわからない。
ミューラさんは何でか勝ちそうなイメージしか持てないけど。
「次は絶対に勝つからな、オルフェウス」
「あはは……お手柔らかに」
「キュイキュイ!」
こらこら、どこ行こうとしてるのさ。
今、戦ったばっかでしょうが。
少しは大人しくしててよ。
「ま、とにかく、優勝おめでとう」
「うん、ありがとう」
その後、ザイルくんだけじゃなく、ラミアさん、カティアさんからも「優勝おめでとう」と祝福の言葉をもらった。
なんか、こういうのって嬉しいな。
元いた世界じゃ、何やっても優勝とかとは、無縁だったから。
その後、簡易的な表彰式とかは行われた。
シンプルなデザインとトロフィーと盾、表彰状を貰った。
その翌日、教室でフォルリオ先生からクラス全員に優勝報酬のスキル無料交換券が配られた。
ブランとネメシス、モンスターは2体いるけど、貰えた交換券は1枚だけ。
どっちに使うか慎重に考えないといけない。
その為に放課後、ネメシスを召喚して話し合うことに。
だが、シエルに連れて行かれたブランが、少ししてトコトコと戻ってきた。
「キュイキュイ」
「はいはい、抱っこね」
「キュイ〜」
抱っこかと思って抱き上げたら、ぴょん!とオレの膝の上に飛び乗ると、座って丸くなった。
そして、そのままスヤスヤと夢の世界に旅立った。
シエルはどうしたんだろ……
ブランを求め……探して校舎内を彷徨っていないといいけど。
ネメシスはブランの様子に小さく笑ってから、そっとこちらに向き直った。
「主様、相談とはどのような内容でしょうか?」
「うん、優勝報酬のスキル無料交換券を、ブランとネメシスのどっちに使うか迷ってて……」
「なるほど。私とブラン、どちらに使っても一長一短です。主様にとって最良の選択をしていただければ、それで構いません」
ネメシスの穏やかで真っ直ぐな声に、少し心が軽くなった。
ふと膝の上で丸まっているブランの寝顔を見る。
安心しきった顔で、時折、小さく鼻をピクピク動かしているとこが可愛らしい。
「ありがと、ネメシス。もう少し、考えてみる」
「使用期限が無いので、それがよろしいかと」
オレは、膝の上のブランをそっと撫でながら、改めてどっちがいいか考える。
バタッ!!
「ボクのブランちゃん!?」
シュッ!サッ!
「もう!急にいなくなっちゃダメ……あ、お寝んねしてる。よしよし」
突然、現れたシエルはブランの寝顔を見るなり、頬を緩ませて、なでなでしながら立ち去った。
ブランのことはシエルに任せ、オレはネメシスをルームに戻して、一人で寮に戻っていた。
「あ、オルフェウスいた。今、ちょっといい?」
「えっと、ジルさん?大丈夫だけど、どうかしたの?」
オレに声を掛けてきたのは、F組のジルさんだった。
「良かった。それなら、僕の後に着いて来てくれないかな?内密な話がある」
今、一瞬だけど、背筋がぞわっとした。
明るかったジルさんの雰囲気が急に暗くなって、どこか怖い感じがした。
ジルさんの後を着いて行き、案内されたのは人気のない寂れた場所だった。
ただ寂れてるわけじゃなく、荒れ果てていた。
学園内にこんな場所があったのか。
でも、ここで何があったんだ?
建物が倒壊してて、既に風化してる。
かなり長い間、このまま放置されてたことになる。
「その顔、やっぱり何も知らないみたいだね」
「え、ジルさんは何か知ってるの?」
「うん、知ってる。この世界の人間はみんな知ってる。だから、理由も無く、ここに来ることはない」
◆◇◆◇
クラス対抗チーム戦が終わり、その夜。
人目を避け、密会する男女がいた。
「ミューラ、いくらクラス対抗チーム戦に勝つ為でも"血統"を使うのは……」
「ミューラだって使う気は無かった。でも、あの試合だけはどうしても勝ちたかった」
「……『エニグマ』に気づかれたと思うか?」
「気づかれないように立ち回ったつもり。敵が誰かわからない以上、全員の行動を気にする必要がある。特に外の世界の人間、オルフェウスに接触する人がいたら要注意」
「だな。特に夏休みは」
次回、『エニグマの影』に続く




