第8話 最終試験
「ねえ、ブランはいつ『ジェットペック』を取得したの?今まで一度も使ってなかった気がするけど……」
「ああ、戦っている最中に取得したんだよ。あ、そうそう、急に頭の中に声が響くけど、あれ何?」
「天の声だね。モンスターが新しくスキルを取得した時とかに聞こえるんだよ」
「そうなんだ。ありがとう」
「いいよ。それよりもブランちゃんをボクに……」
「キュイ」
「はわぁ〜もふもふ〜」
「キュイ〜」
今の今まで謎だったけど、天の声っていうのか。
教えてくれたシエルには感謝しないと。
ていうか、これ一般常識とかで出題されてたらわからなかったな。
うん、これからわからない事はその都度聞く癖を付けないとヤバいかも。
オレたちはゴブリンソルジャーのクリスタルを持ってアルカディア王立学園に戻る。
道中、ゴブリンソルジャーをはじめモンスターと遭遇したが、なんとかなった。
「はい、確かに指定モンスター、ゴブリンソルジャーのクリスタルを確認しました。それでは明日、朝9時にこの場所へと来てください」
「「「はい」」」
宿屋に帰る道中、明日の実技試験に向けてSPを割り振ろうという話になった。
その夜、宿屋の部屋でブランと相談してSPを全て物理攻撃力に割り振ることにした。
今日、新しくスキルを取得してなければゴブリンソルジャーを倒しきれなかったことを気にしてるみたい。
翌日、宿屋で朝食を済ませてオレはルナ、シエルと一緒に昨日、ゴブリンソルジャーのクリスタルを渡した場所へと向かった。
今からここで最終試験の発表が行われる。
「最終試験はチーム戦だ。対戦方式は通常とは異なり、ダブルバトル無しのシングルバトルのみとする。先に2勝した方の勝利とし、そのチームはその時点で実技試験を合格とする」
チーム戦、モンスターを1体ずつ戦わせるシングルバトルと2体ずつ同時に戦わせるダブルバトルが本来の対戦形式。
オレたちもだけど、まだ2体目のモンスターを召喚している人はいない。
その配慮としてモンスターが2体いないと成り立たないダブルバトルは無しでシングルバトルのみ行うみたい。
「ねえ、順番はどうする?」
「そうね、普通ならチームで一番強い人が最後だけど……」
「うーん……」
現時点での強さか。そこまで変わらないと思う。
そうなると強さで順番を決めるのは無理か。
何か別の方法を……
「キュイ!キュイキュイ!!」
はいはーい、よしよし、いい子いい子。
今、真剣に考えてるとこだから大人しくしててね。
「ルナ、ブランは一番最初がいいと」
「わかったわ。それならオルフェウス、私、シエルの順番でどう?」
「うん、ボクはそれでいいよ!」
という感じで気づいたら順番が決まっていた。
ちなみに一番最初がいいと立候補したブランはフィアの通訳のおかげで望みが叶ったからかオレの腕の中で満足気にくつろいでいる。
それから少しして試験官にオレたちの名前が呼ばれた。
相手はどこかで見た覚えのある三人組の男。
「よお、久しぶりだな。真剣勝負だから勝っても負けても恨みっこ無しだぜ」
「当然よ。お互いにベストを尽くしましょ」
「シエル、もしかして知り合い?」ボソッ
「ほら、ブランちゃんを召喚した時、一緒にモンスターを召喚した人だよ」ボソッ
「……あ、あの時の。思い出したよ」ボソッ
オレがこの世界に来て直ぐ一緒にモンスターを召喚したね。
確か男三人組のチームと女三人組のチームだった。
流石に教えてもらわなかったら気づけなかったな。
「それでは第一試合を始める。出場者は前へ」
「頑張ってね、オルフェウス、ブラン」
「応援してるよ、オルフェウス、ブランちゃん」
「うん、ありがとう」
「キュイ!」
ルナとシエルの応援があるからブランは気合い十分。
あとは空回りしないことを祈るだけ。
「第一試合、オルフェウス対タキオン 開始!」
「頼んだよ、ウルフェン!」
「グル!」
「いくよ、ブラン!」
「キュイ!」
相手のモンスターはウルフ。
基本的な攻撃手段は前脚の鋭い爪と牙で素早い動きに注意が必要。
まだ進化してないだろうし、魔法の警戒はいらないかな。
ただ、SPの振り方次第では素早さで大きく負けてる可能性もあるし、相手の出方を窺おう。
「ウルフェン、『引っ掻く』!」
「躱して『体当たり』!」
「キュイ!」
「なっ!」
「よし、いいよブラン!」
思ったよりも速い。SPを素早さに振ってるのかな。
その分、物理防御力はそこまで高くない。
その証拠に今の一撃で4割近くHPを削れた。
だけど、油断禁物。ブランだって物理防御力は高くない。
一撃が致命傷になるかもしれない。基本は回避一択。
「ふぅー。ウルフェン、素早さを活かして攪乱しろ!」
「グル!」
「キュイ!?キュイキュイ……」
くっ、なんて出鱈目な動き。まったく読めない。
でも、目で追えない速さじゃない。
それなら、
「ブラン、その場でじっとしてて」
「キュイ」
これでいい。ウルフェンの動きは出鱈目過ぎて読めない。
だけど、勝つ為には必ず近づいて攻撃してくる。
狙うは攻撃の為に接近してきた瞬間。
カウンターを決めて一気に畳み掛ける。
「ウルフェン、『噛みつく』!」
「よし、今だブラン!『つつく』!」
ニヤリ
この時、オレは対戦相手の顔を見て背筋がゾッとした。
それと同時にこの状況は意図的に作られたものだと察した。
ウルフェンはスキルを発動していない。
発動した振りをしてカウンターを誘ったのか。
このままだとブランは待ち構えているウルフェンに突っ込むことになる。
ん?待ち構えている……そうだ。これならいける。
「ウルフェン、『連続引っ掻き』!」
「ブラン、『ジェットペック』!!」
「キュイ!」
『ジェットペック』には『つつく』とは違ってスキルによる素早さのブーストがある。
カウンターを決めようと今度こそスキルを発動した今、突如として素早さが上がれば攻撃のタイミングと間合いが狂う。
それだけ狂わせたら十分。
「マズい。ウルフェン、ジャンプして躱せ!」
「逃がさない。ブラン、こっちもジャンプして!」
タイミング良くジャンプすることでブランの真上を通過して、やり過ごそうとしても無駄だよ。
それに合わせてこっちもジャンプすればブランの攻撃は当たる。
後は空中で攻撃を受けて体勢を崩したウルフェンを追撃するだけ。
「ブラン、『ジェットアタック』!」
「キュイ!」
ブランの攻撃は見事に決まり、ウルフェンのHPを削り切った。
「第一試合、勝者オルフェウス!」
「キュイ、キュイキュイ!」
よしよし、よく頑張ったね。
この後はルナとシエルの応援をするよ。
第二試合は予定通り、ルナが出る。
対戦相手はリユウくん。
モンスターはドワーフのワルド。
序盤から激しい近接戦が繰り広げられたけど、最後はステータス差が響いてルナが負けた。
運命の第三試合。
シエルの相手はグルドくん。
モンスターはオーガのガオート。
この試合もステータス差が大きく響き、最後は力でねじ伏せられた結果、シエルが負けた。
オレは勝ったけど、チームは負けた。悔しい……でも、あの時、精一杯やった。やれることは、全部やった――
実技試験の合格が決まるチーム戦で負け、お通夜状態のまま翌日の合格発表を迎えた。
未だにルナとシエルは元気がない。
ルナは無言で空を見上げている。
シエルに至ってはブランがキュイ、キュイと甘えても無反応とかなりの重症。
ただ、これにはブランもキュイ!?と精神的にかなりのダメージを負った。
その状態のままアルカディア王立学園の合格者を発表している掲示板の前に着いた。
膝から崩れ落ちて泣いている人もいる。
きっと不合格だったんだろうな。
いや、他人事じゃないか。
えっとオレの名前、名前……
タキオン
リユウ
グルド
オルフェウス
ルナ
シエル
「あ、あった。名前……」
「え、嘘っ……ホントだ。ルナ、ボクたち合格してるよ!!」
「……うん、よかったわ」
シエルとルナはあまりの嬉しさに泣き崩れてしまった。
「キュイ!キュイキュイ!キュイ!」
……あのぉー、ブランさん?急にオレの腕の中で暴れないでもらえます?
そんなに暴れなくてもわかってるから。
「キュイ!」
「あ、ボクのブランちゃん。もふもふ〜」
「キュイ〜」
それからしばらくして、立ち直ったルナから感謝された。
「オルフェウスが勝ってなければ、この合格は無かったかもしれない。ありがとう!あなたと同じチームでよかったわ」
プロローグ 完
次回、第1章 アルカディア王立学園 1年生編『自己紹介』に続く