第73話 ミューラVSクラウス
「ありがとう、ネメシス」
「いえ、かなり危うかったです」
うん、ツバキさんとシンファングは強かった。
スキルが上手く噛み合ったから良かったけど、最後のあれは☆☆☆スキルだったろうから、一歩間違えたらこっちが負けてた。
「さすがオルフェウスやな!」
「これで流れはC組」
ネメシスをルームに入れ、控えスペースに戻るとカレンさん、ミューラさんに出迎えられた。
「ありがとう。ミューラさん、準備は?」
「うん。ニュー、ヒューと調子は万全。悪いけど、カレンの出番はないよ」
「それならそれで、ええよ。ピリカの手の内を見せずに決勝戦に臨めるからな」
ミューラさん、すごい自信だな。
でも、ミューラさんの実力はよく知ってるから、不思議と本当に勝って戻って来るって思えるな。
カレンさんの言葉からもオレと同じ考えって伝わってくる。
「キュイ……」
「ああ、ごめんブラン。まだ角は痛い?」
「キュイ」
控えスペースのベンチに座って、首を縦に振るブラン。
でも、少しだけ痛みが和らいだのか、涙目じゃない。
けど、未だに短い肢で角を触ろうとしてる。
……どんだけ頑張っても届かないけど、言ったらダメだよな。
「それでは二試合目の出場者はフィールドへ!」
「じゃ、行ってくる」
「頑張ってね、ミューラさん」
「うちの出番は残さんでええで」
オレとカレンさんに見送られ、フィールドへ歩いて向かう。
その背中はすごく頼もしく見えた。
◆◇◆◇
「クラウスくん、ミューラさん、準備はいいですか?」
「はい、問題ありません」
「ミューラも大丈夫」
先に答えたのは、B組のクラウス。
やや細身で長身の男性。
髪は スモーキーシルバーで、左側だけやや長めに流れており、前髪が片目にかかっている。
その表情は常に落ち着いており、感情を表に出すことが少ないタイプと思われる。
相対するミューラもまた、落ち着いた表情を浮かべている。
「それでは準決勝 B組対C組 クラス対抗チーム戦 第二試合 始め!」
「配置につけ、アラストロ。支援展開、バロリス」
「ニュー、ヒュー、お願いね」
クラウスのモンスターは、事前の情報通り、アラストロとバロリス。
重厚な装甲を持つ3枚の巨大な回転盾が常時浮遊し、旋回しており、中央に単眼のようなコアが赤く光り輝いているのが、アラストロ。
もう1体のバロリスは、機械仕掛けの台座で、地面を這うように黒いケーブルが伸び、砲塔のような発射口を展開している。
見た目からして、機動力皆無の固定砲台。
アラストロの回転盾が低く唸る音を立てながら回転を始め、バロリスの砲口を静かにニューとヒューへ向け、戦闘態勢を整える。
ミューラのモンスターは、腰まで届く燃えるような赤髪、その毛先は金色に染まっているのが特徴のブレスファング、ニュー。
もう1体はヒュー。
細身の少年で、透き通るような肌に、微細な火の粉が舞っている。
祝祭衣装を思わせる布をまとい、静かに立っていた。
対して、ニューは燃え盛る双翼を背中に出現させ、ヒューは真紅のオーラを身に纏う。
やがて、それはニューにも伝播し、2体とも真紅のオーラを纏うこととなった。
「ヒュー、『踊り子の舞』『一撃必殺』『魔法拡散』。ニュー、『フレイムブレス』」
「っ!?いきなり例の広範囲攻撃か。アラストロ、『全盾招集』!」
ニューの口から放たれる高熱の広範囲ブレス。
これを完全に防ぐのは、不可能と考えていたミューラだったが、目の前の光景を見て、考えを改めた。
アラストロの3枚ある回転盾が一点に集まり、歯車状の魔法陣を展開している。
それが、フィールドの横幅ギリギリまで展開されており、その後ろで待機しているバロリスには届いていない。
その上、攻撃を受け止めたアラストロにもダメージが入っていない。
防御スキルで完璧に受けきられた。
ミューラにとって信じ難いことだが、目の前の光景がそれを証明していた。
「バロリス、『業火砲』!」
バロリスの砲塔にピピピという音と共にエネルギーが集中する。
そこから灼熱の砲撃が放たれ、アラストロの魔方陣をすり抜け、ニューとヒューへ迫る。
「ヒュー、『炎撃連動』」
ヒューが舞いながら紅蓮の羽を散らし、ニューと繋がるように赤い光の糸を結ぶ。
その糸は、守るようにニューを包み込んだ。
アラストロの防御スキルのようにノーダメージとはいかなかったが、最小限で受けきった。
その上、時間経過と共にニューとヒューのHPがじわじわと回復していく。
「ヒュー、『熾炎の加護』『炎纏の舞』。ニュー、『フレイムナックル』」
ヒューの全身から炎が吹き溢れ、うねるようにフィールドを駆け巡る。
それと同時にニューが纏っている真紅のオーラが一回りも二回りも大きくなり、目にも留まらぬスピードでアラストロを殴り飛ばす。
ビュンッ!ドガァッ!!
「なっ!?速すぎる!」
「今、バロリスに『フレイムランス』『ファイアボール』」
「アラストロ、『シールドリンク』!」
アラストロの中央にコアの輝きがより一層強くなる。
すると、浮遊する盾の一枚がバロリスへ飛んでいき、ニューの放った攻撃を代わりに受け、その周囲をゆっくり回転し始めた。
「……盾は手動、いや、あの感じは自動か。なら、崩せる。ニュー、『紅蓮脚撃』」
シュバッ!ドゴッ!
あまりにもニューの動きが速く、アラストロがバロリスの防御目的で送った盾で防げていない。
クラウスは、バロリスとアラストロで矛と盾、明確にその役割を分担している事が仇となった。
バロリスに防御スキルが無いように、アラストロには攻撃スキルが無い。
その為、攻撃担当のバロリスをニューに抑えられると、誰の目から見ても明らかな支援役であり、厄介なヒューを放置せざるを得ない。
「くっ、アラストロとバロリスの素早さが低いのが裏目に……」
「今度こそ、当てるよ。ヒュー、『一撃必殺』『魔法拡散』。ニュー、『フレイムブレス』」
阿吽の呼吸。
ニューは『フレイムブレス』がクールタイムから明けると同時に遙か上空へ移動する。
そこから真下へ、広範囲に拡散した『フレイムブレス』を放つ。
クラウスは、最初に使った防御スキルを発動することなく、アラストロの3枚の盾で被ダメを減らそうと画策する。
「……硬い。でも、これでいける。ニュー、『フレイムナックル』」
「……このままじゃ負ける。負けたくない!バロリス、『終核崩壊』!!」
ニューの拳が猛スピードで迫る中、バロリスの機械仕掛けの台座と砲塔を繋ぐ黒いケーブルが赤黒く脈打つ。
砲塔だけでなく、機械仕掛けの台座からも徐々にエネルギーが溢れ出る。
ズドォォォン!!
爆発とともに焦土のような火柱がフィールドを包み込む。
「まさか自爆!?ニューとヒューは……」
爆発によって生じた炎が消えても、フィールド上は土煙で何も見えない。
時間が経つにつれて、徐々に土煙が晴れ、視界がクリアになる。
フィールド上に、バロリスの姿は無かった。
そして、それはニューもだった。
残っているのは、満身創痍のアラストロとヒューだけ。
ヒューの受けたダメージ量の少なさから、ギリギリ射程圏外にいたと思われる。
ここで一つ問題が発生した。
この2体は攻撃スキルを取得していない。
それでも、アラストロは通常攻撃でと考え、動くが、素早さが低すぎてヒューを捉えることができない。
「まだいける!とにかく追いかけろ!」
「ヒュー、逃げて回って」
「……そこまで!両者、一定時間以上互いに攻撃が当たらないまま経過し、有効打が無いと判断した為、判定を出します!」
このタイミングで審判であるカリン先生が試合を中断した。
ダブルバトルでは、攻撃スキルを持つモンスター同士が相討って、支援型のモンスターだけが残ることもある。
その状況では、ただの泥試合にしかならない為、審判の判断で強制的に中断できる。
試合は、シンプルに残りHPの割合が多い方の勝ちとなる。
「クラウスくんのアラストロ、残りHP4割。ミューラさんのヒュー、残りHP6割。よって勝者 C組 ミューラさん!」
次回、『シエルはブランのママ』に続く




