第72話 オルフェウスVSツバキ
「それでは一試合目の出場者はフィールドへ!」
この試合も審判はカリン先生がする。
今回、ブランの予期せぬ角が痛い問題で、本来一試合目に出る予定だったミューラさんがダブルバトルに出る。
その為、一試合目はオレが代わりに出ることになった。
対戦相手は、赤茶色のショートボブで、髪先が少しだけ跳ねている。
金色の瞳が印象的な、かなり小柄な女性だ。
でも、その目と表情から自信の高さがわかる。
「私はツバキ。よろしく。君の名前は?」
「え、あ、オルフェウスです。よろしくお願いします」
「オルフェウス。確かF組との試合はダブルバトルじゃなかったっけ?選出を変えたんだ」
……まあ、さすがにF組との試合は見られてるか。
こっちが選出を変えてもいいようにきっとブラン、ネメシスと対策は練ってるよね。
そこはお互い様かな。
一応、オレもB組優勝者であるツバキさんの対策は用意してある。
「二人とも準備はいいですか?」
「はい、私は大丈夫」
「オレも大丈夫です」
「それでは準決勝 B組対C組 クラス対抗チーム戦 第一試合 始め!」
「頼むよ、シンファング」
「ネメシス、お願い」
情報通り、ツバキさんのモンスターはシンファングか。
二足歩行の小型で黒い鱗を持つ竜。
やや前傾姿勢で、走る時は四足になるのかもしれない。
「……あれ、ブランって子じゃないんだ?あの子が君のエースだと思ってたけど。何かの作戦かな?」
もしかして、ネメシスよりもブランを警戒していた?
ブランは何をするかわからないからね。
むらっけがあって、理論派のネメシスとは対極の子だし、そういう意味で警戒してたのかな?
……いや、今は試合に集中!ブランのことは考えない。
「……」
試合が始まってるけど、ツバキさんとシンファングに動きはない。
情報によるとシンファングには姿を消すスキルがある。
だから、こっちも迂闊に動けない。
ツバキさんとシンファングが動かない理由は何だろう。
カウンターを決められ、デバフや状態異常を付与されるのを嫌ってる?
……うーん、何だかそういう感じじゃない気がするんだよな。
「シンファング、『シャドーフィスト』!」
漆黒のオーラを右拳に纏い、黒い閃光となってネメシスに迫る。
「ネメシス、……」
『返刃ノ構』でカウンターを狙おうかとも思ったけど、寸前の所で指示を踏みとどまった。
1回戦でネメシスは『返刃ノ構』を使っている。
少なくとも存在は知られてる。
それなのに、こんな風に正面から攻撃してくるかな。
……あ、そういうことか!
もし、『返刃ノ構』を使えば、それ用の対策で反撃するかして、何もしてこなければ、このまま攻撃。
それなら回避、いや、受け流してシンファングのリズムを崩すべきか?
ネメシスが攻撃を受け流せるのは、1回戦しか見ていないツバキさんは知らない筈。
「ネメシス、『二刀・受け流し』『ダークスラッシュ』!」
「っ!それなら『シャドウフェイント』!」
シンファングの右拳を剣で受け流し、振り返りざまに一閃。
しかし、ネメシスの剣が捉えたのは、シンファングの影だった。
剣が当たると霞のように消え去り、ネメシスの完全な死角に姿を現し、鋭い鉤爪を振り下ろす。
シュバッ!
ネメシスは、その勢いを逆に利用し、前へ飛びシンファングと距離を取る。
「『クレセントクロー』!」
上から下へ。
今度は左の鉤爪で虚空を切り裂く。
すると、三日月状の闇の斬撃波が放たれ、気づいたらネメシスの眼前まで迫っていた。
辛うじて反応し、回避が間に合ったが、シンファングの追撃は止まらない。
「『漆黒跳斬』!」
シンファングは、地を滑るようにして、瞬く間にネメシスの背後へ回り込んだ。
そして、その場から高く跳び上がり、鉤爪を振り下ろす。
咄嗟に剣をクロスさせ、受け止めるが、あまりにも威力が高く、一瞬にして押し込まれ、地面に叩きつけられた。
「ネメシス……!!」
「……は、何それ?」
地面に叩きつけられたように見えたが、よく見るとネメシスの剣が二本とも身体の左側の地面に突き刺さっていた。
その上、ネメシスの身体は宙に浮いている。
え、そんなことできるの!?
いや、そもそも、その状態でどうするの?
ブランじゃあるまいし、何かしらの考えあっての行動だと思うけど。
ネメシスは宙に浮いたまま、クロスした剣の片方を抜いて右へ突き刺す。
両側に支点を作った状態で、流れるように左の剣で攻撃を受け流し、そのままの勢いで反転、地面で一回転して体勢を立て直す。
突然の出来事で対応が間に合わず、地面に頭から落ちたシンファング。
その体勢が整っていないことを確認したネメシスは『飛閃』を放ち、間合いを一気に詰める。
このタイミングなら当たる!
オレの予想通り、『飛閃』がシンファングを捉えた。
これで素早さデバフと猛毒の付与ができた。
デバフにより、素早さが落ちたことで確実にシンファングの動きは鈍くなっている。
間合いを一気に詰めたネメシスの剣が迫る中、
「『ファントムシフト』!」
シンファングが消えた。
「っ!?透明化のスキル……」
こうなると次に姿を現すまで、攻撃されたい放題になる。
ブランなら、謎の勘でシンファングの居場所に気づいたりも考えられるけど、ネメシスはどうだろう?
キョロキョロしてるわけじゃないけど、視線からしてシンファングの居場所を掴もうと何かしらの手掛かりを探している。
そんな感じだ。
「……ん?何のつもり?」
突如、ネメシスが目を閉じ、右手の剣は身体の前に、左手の剣は逆手に持ち替え、身体の後ろで地面と水平に構えた。
見た感じ、正面と背後は剣で防御が可能?なのかな。
うーん、これで左右からの攻撃を誘ってるとか?
いや、そう思わせて正面と背後から。
……うん、わかんない。
ここはネメシスの好きにさせよう。
「『シャドーブレイク』!」
ツバキさんが指示を出した。
どこからか攻撃が来る!
……どこだ?何かないか?
どれだけ集中してもオレにはシンファングの居場所がわからなかった。
しかし、ネメシスは違った。
突如、ジャンプすると、真下に向かって『クロススラッシュ』を放った。
すると、何も無い筈の場所に薄らっと黒い何かが浮かび上がる。
地に伏したシンファングだった。
そのまま『斬哭冥華』で追い打ちをかけ、通常攻撃を織り交ぜ、シンファングのHPを一気に削る。
「『ダスクステップ』」
あと少しの所でシンファングは影に身体を沈め、再び姿を消した。
と思ったが、少し離れた場所に直ぐ姿を現す。
「『幻影喰刃』!」
「っ!そのスキルって……」
オレが狙い定めてたやつだ!
どんな攻撃でもネメシスなら上手く対応してくれる。
だから、シンファング最強の一撃と思われるこれに狙い定めた。
シンファングの姿がぶれるように複数に分かれ、複数の幻影が交差してネメシスを切り裂く。
交差し、通り抜けると直ぐにUターンして、これを二度、三度と繰り返そうとする。
作戦通り、Uターンのタイミングを狙って、『返刃ノ構』を発動したネメシスは本体と思われるシンファングの背後から一閃。
「読まれた!?……違う、狙われてた」
この一撃で確実にシンファングのHPは0となり、クリスタルだけがその場に残った。
「勝負あり!勝者、C組 オルフェウスくん!」
次回、『ミューラVSクラウス』に続く




