第71話 痛いの痛いの飛んで行け
F組の三人を交えた夕食会を終え、オレは一人で部屋に戻る。
すると、部屋の中にはスヤスヤと寝ているブランがいた。
律儀にベッドの上でブラン専用に用意してあるミニ布団まで掛けてある。
……ブランがあのミニ布団を掛けてるの初めて見るかも。
今まで「キュイ!」ってはねのけてたからな。
まあ、寝てるブランにシエルがそっとミニ布団を掛けたとかだと思う。
夕食会の時、ブランはシエルが連れてって、そのままだったからね。
今、こうして部屋にいるってことはそういうことでしょ。
ブランを起こさないようにそっと、ベッドに入り、この日は寝た。
翌朝、何かに顔をペタペタと触られている気がして目が覚めた。
オレの上にブランが乗っかって、涙目で見ていた。
器用に前肢は頭か耳?か、どこかを触ろうとしている。
「キュイ……キュイ……」
どうしていいのかどころか、そもそも何で涙目なのかがわからないので、ネメシスを召喚して話を聞いてもらった。
「キュイ……キュイキュイ……」
ネメシスはブランを抱きかかえ、じっと一点を見つめる。
「……腫れてるわけではないので、問題は無いと思いますよ」
「キュイキュイ……」
「えっと、ネメシス、どんな感じかな?」
「朝起きたら角が痛いそうです」
「……」
角が痛い、ね。
それって、もしかしてだけど、昨日ボルドくんを寝突いたことと関係してるのかな。
……いや、さすがに普段モンスターを相手に角を突いてるわけだし、違うか。
きっと、寝相が悪いから、寝てる時にどこか変な場所に打ったとかでしょ。
当たり所が悪かったのかな。
「よしよし、痛いの痛いの飛んで行け。どう?」
「キュイキュイ……」
あ、普通に痛そう。
こういう時って気持ち痛いのが和らいだ感があるんだけどな。
……ていうか、ブランって前肢で角を押さえようとしてるのかな?
肢が短くて全然 届いてないけど、諦めず頑張って前肢を伸ばそうとしてる。
涙目で角を押さえようとしているブランを連れて、朝食を食べに行く。
普段なら、誰よりも早く食べ始め、食べ終わるブランがご飯に手を付けない。
仕方なく、"あーん"させて、ご飯を食べさせた。
その後、教室に入るといつもの風切り音が聞こえ、ブランがオレの腕の中から消えていた。
「ブランちゃん、どうしたの?」
「キュイ……キュイキュイ……」
「うんうん、お耳が痛いの?」
「キュイキュイ……」
「お耳じゃない?なら、角かな?」
「キュイ……」
「そっか。それじゃあ、ボクと一緒に保健室に行って、診てもらおうね」
こうして、ブランはシエルに連れられ、保健室へ向かった。
「おはよう、オルフェウス。ブラン、何かあったの?」
「あ、おはよう、ルナ。実は、朝起きたら涙目で角が痛いって言われて……」
「角?」
「たぶん、寝相が悪いから寝てる時にどこかで打っただけだと思うけど」
「そう……。一応、確認するけど、今日のB組との準決勝は大丈夫なの?」
「……あっ!?」
そうだった!
昨日、F組に勝ったから今日の放課後にB組との準決勝をするんだった。
今ルナに言われるまで、すっかり頭から抜けてたよ。
……え、どうしよう?
あの感じだと、ブラン、今日の試合に出られない可能性もあるよね。
そうなると、オレが出場予定のダブルバトルって……
放課後には、痛みが引いて、完全復活してることを祈ろう。
そして、放課後。
「キュイキュイ……」
未だに涙目で前肢で届かないけど、角を押さえようとするブラン。
ただ、朝と違うのは角に包帯がグルグル巻かれているとこ。
シエルが保健室に連れて行き、保健科のカリン先生が診てくれた所、角が熱を持っていて、内部で炎症が起きてるとか。
炎症を抑えるお薬を塗って、その上から空気に触れないよう包帯のように見えるガーゼを巻いたらしい。
それから、今日一日は絶対安静で試合に出るのは禁止された。
あ、それと痛みの原因はわからず終い。
「ブランが出られへんのか。まあ、これはしゃあないな」
「うん、今日はミューラがダブルバトルに出る」
「ごめん、お願いミューラさん」
「任せて」
こうして、B組との準決勝のダブルバトルはミューラさんにお願いすることになった。
「よっしゃ、仕切り直して、B組の情報を確認しよか」
B組……カナリア先輩情報だとかなり強いと書かれていた。
F組の情報には、そんな文言は書かれていなかったのに。
実力が未知数と書かれていたジルさんとリベラスはともかく、ボルドくん、トミーくんよりも強いと思った方がいいかも。
……一人一人がジルさんとリベラスと同等の実力なんて事は無いよね?
優勝者はツバキさんという女性。
モンスターはリザードステップのシンファング。
一応、シンファングが名前でリザードステップが種族名。
黒光りする鱗を持つ二足歩行が可能な小型竜。
……うーん、種族名的にリザードマンみたいなイメージでいいかな?
ステータスは全体的に高く、物理、魔法と両方いけるミューラさんのニューみたいな両刀タイプ。
特に要注意なのは、何かしらのスキルで姿を消すことができるってとこ。
一応、一定時間で解除されるみたいだけど、その間どこから攻撃が飛んで来るかわからない。
1回戦も姿を消している間に相手モンスターのHPを一気に削って、倒したとか。
準優勝はレーヴさんという女性。
モンスターはメイジビートルのヴィオセラ。
メイジビートルという種族名から連想できる通り、魔法を使うカブトムシ。
その外見は深い藍色の甲殻に覆われていて、背中と前脚の甲殻表面には魔法陣のような幾何学紋様が刻まれている。
それに加えて、かなり珍しいらしいんだけど、氷属性の魔法を使える。
フォルリオ先生のブリーダー基礎学の授業で氷属性は出てこなかったけど、ミューラさん曰く、「水属性の派生で、弱点属性は水と変わらない」とか。
だから、氷属性なのに火属性に強いという謎がオレの中で生まれた。
最後に3位はクラウスくんという男性。
昨日の1回戦を偵察しに行ったクラスメイトの情報で、クラウスくんがダブルバトルを担当していると判明した。
モンスターは、シールドギアのアラストロとコアマギアのバロリスの2体。
アラストロは3枚の巨大な回転盾が常時浮遊し、旋回しており、その中心に赤く輝く球体がある。
防御力が異常なまでに高く、受けたダメージに応じて威力が増大するカウンタースキルが存在する。
もう1体のバロリスはアラストロと正反対の役割で、遠距離からとにかく攻撃してくる。
距離を詰めても、遠距離から攻撃しても、間にアラストロが割って入り、守られる。
片方が鉄壁の防御力で守って、もう片方が圧倒的な攻撃力で攻撃する。
本来ならネメシスの『斬哭冥華』でアラストロの防御を一気に崩す予定だったけど、それができなくなった。
ミューラさんはどうやって、攻略するんだろう?
次回、『オルフェウスVSツバキ』に続く




