第68話 ミューラVSジル
「ニュー、お願い」
「いくよ、リベラス」
ミューラのモンスターはブレスファングのニュー。
対するジルはカナリアの情報通り、ナイトクロウのリベラス。
「ニュー、『焔翼顕現』」
背から爆ぜるようにニューの背中に燃え盛る双翼が現われる。
空を自在に飛び回るリベラスに対して、ニューも最初から飛ぶ。
「……やっとまともな試合ができる」
それを見たジルの頬が、わずかに緩んだ。
やっと、本気になれる。
そんな雰囲気をまとっていた。
しかし、それも無理はない。
F組のクラス内トーナメントで優勝できたのは、リベラスが飛べたから。
飛べないモンスターとの戦いしか経験していなかったジルの中で、まともに試合として成立したものは無かった。
「リベラス、『シャドウバレット』」
リベラスが両翼を自身の前で交差させ、勢いよく広げる。
すると、鋭利な刃のような漆黒の羽が無数にニューへと襲いかかる。
「『フレイムブレス』」
あまりの物量に回避は無理。
そう判断したミューラは『フレイムブレス』で焼き尽くよう指示。
しかし、羽の幾つかは『フレイムブレス』を大きく迂回することで掻い潜り、ニューへと迫る。
「……一直線に向かってこない。リベラスが操作してる?なら、意識が分散してる筈。ニュー、リベラスに突っ込んで」
一直線に最短距離でリベラスとの距離を詰める。
その最中、ニューの拳が炎を纏う。
「『フレイムナックル』」
「『ノワール・リング』」
ニューの行動を見て、『シャドウバレット』で飛ばした羽の制御を放棄し、別のスキルを発動する。
羽は重力に従い、ゆらゆらと落ちていく。
次の瞬間、ニューだけでなく、リベラスをも巻き込む形でフィールド全体に漆黒の魔法陣が展開される。
直後、魔法陣の中心から漆黒のエネルギーが外へ広がるように放出される。
魔法陣の展開から起動まで、ほんの一瞬の出来事。
ミューラがニューに指示を出す時間など無かった。
「……!?」
漆黒のエネルギーを全て放ち、魔法陣が消失した。
そして、視界がクリアになったフィールドを見るとニューが炎の双翼で全身を覆っていた。
これにより、『ノワール・リング』の直撃を避けることができ、受けたダメージも最小限に抑えた。
「今の防ぐのか。君がC組の優勝者?」
「違う、準優勝」
「え、うそ!?」
試合中にも関わらず、突如として始まった会話。
これまでの攻防からミューラがC組の優勝者だと考えていたが、実際は違うと知り、驚きを隠せないジル。
「……それなら、僕は負けられないな。リベラス、『虚影ノ劇場』」
「……!?これってフィールド展開スキル……」
リベラスを中心にフィールド全体が影に侵食されていく。
やがて、フィールドの外、闘技場全体を覆うまで至る。
そして、影の中に姿を消すリベラス。
「ニュー、注意して!一瞬でも気を抜いたらやられる!」
珍しく声を荒げ、ニューに指示をする。
それだけミューラとニューの置かれた状況は良くない。
「そんなの無駄。こっからリベラスの攻撃は不可避。『シャドウクロウ』」
シュバッ!
影の中から突如として出現した二本の鉤爪が、すれ違いざまにニューを✕字に切り裂く。
「ニュー!」
「大丈夫だけど、どこから来るか読めない」
「……仕方ない。このままじゃ、負ける。『業火奔流』」
リベラスがどこにいて、どこから攻撃してくるのかわからない。
それなら、フィールド全体を余す所なく、攻撃すればいい。
その考えの下、温存する予定だった☆☆☆スキルの一つ『業火奔流』を発動させる。
「くっ……一幻無葬!」
フィールド全体を灼熱の炎が包み込み、影に染まった世界ごと燃やす。
炎がじわじわと影を焼き尽くしていく。
このままでは、リベラスに炎が届くのも時間の問題。
そう思われたが、フィールド全体を燃やし尽くしても尚、リベラスは姿を見せなかった。
微かに火種が残っていたが、時間が経つにつれ、それすらも消える。
やがて、炎と影の名残が霧散し、所々が溶けて爛れた大地だけが顔を覗かせた。
『業火奔流』の威力は、溶けて爛れた大地が雄弁に物語っていた。
だが、審判の判定が下されない。
それはつまり、リベラスがこの攻撃を受け切った証でもあった。
リベラスが姿を見せないまま、静寂が闘技場を包む。
焦げた大地の上、何もない空間がふっと揺らぐ。
歪んだ虚空が割れ、そこから、無傷のリベラスが姿を現した。
つまり、ニューの圧倒的な攻撃を、リベラスは完全に回避していたのだ。
「……っ!?」
さすがにノーダメージというのは予想外だったのか、困惑した表情を隠せないミューラ。
しかし、それはジルも同じだった。
たった一撃で『虚影ノ劇場』を発動し、展開したフィールドが消し飛んだどころか、地面に生々しい跡を残している。
これがもし、直撃していたら……心のどこかでそう考えていた。
「ミューラ!姿が見える今が好機」
「うん、わかってる。ここで一気に決める。『ファイアボール』」
一直線に火球がリベラスへ向け、放たれる。
「躱して」
しかし、正面からの単調な攻撃だった為、容易く回避される。
だが、ミューラの狙いはそこにあった。
「左下45度。『フレイムランス』」
ミューラはしっかりと回避先を見極め、ニューにだけ聞こえるよう指示を出す。
そして、狙い澄ました一撃を叩き込む。
この試合、初めてニューの攻撃がリベラスを捉えた。
――あっさり、すぎた。
ジルは即座に違和感を覚えた。
間合いを詰めた近接戦で攻撃を受けるなら、まだ理解できた。
しかし、今のは離れた場所から放たれた遠距離攻撃。
空中にいるのだから、回避する方向は360度全方位、無数にある。
回避先を見てから攻撃したにしては、おかしい。
『フレイムランス』がリベラスに当たったタイミングからして、回避先を見極める前に放っていた筈。
運任せの攻撃……とは思えなかった。
どこか、用意周到に計算された攻撃。
ジルの直感がそう訴えていた。
「 ……!?まさか……でも、実際に……」
思考を巡らせた結果、ジルは一つの可能性に気づいた。
だが、それはあまりにも可能性として低く、ありえない。
そう断言できるものだった。
「リベラスの動きの癖を見抜いたんだ。これでも頑張って修正したんだけど」
「下からなら、よく見えた」
ミューラは空を見上げ、そう呟いた。
カナリアから受け取った情報の中には、リベラスの回避の際の癖があった。
それをあたかも初見で見抜いたかのようにミューラは振舞っているだけだ。
「うはっ~、これで準優勝か。C組は強いな。あれをいきなり使うとはね。……リベラス、『ヴォルト・ノクターン』。勝つのは僕たちだよ」
リベラスの両翼が黒紫色に輝き、羽が雷の火花を伴って舞い散る。
「雷属性……違う。雷属性と闇属性の複合……」
雷鳴が轟き、フィールドに黒紫色の閃光が走ると、落ちた羽根が爆ぜて、一瞬にして、ニューへと襲いかかった。
四方八方、至る所からとめどなく襲いかかる羽が猛烈な勢いでニューのHPを削る。
反撃に出ようにも、遠距離から攻撃ができるスキルは全てクールタイムに入っている。
今のミューラとニューには、打てる手が何一つ残っていなかった。
「勝負あり!勝者、F組 ジルさん!」
接戦を制したのは、F組優勝者のジルだった。
次回、『オルフェウスVSボルド』に続く




