第59話 オルフェウスVSダイン
一回戦が全試合終わった。
オレはシエルからブランを返してもらって、寮の自分の部屋に戻った。
そこで今後、ブランに厳しくするか悩んでいると――
「主様、何かお悩みですか?」
「キュイキュイ?」
「うん、ブランを少しだけ甘やかし過ぎたかなと最近、思うんだけど、ネメシスはどう思う?少し厳しくした方がいいかな?」
「キュイ!?キュイキュイキュイ!!!」
その話を聞いた瞬間にオレの足下で猛烈に怒ってる子が……
あの、角をちょくちょく突き刺すのは痛いから止めてくれると嬉しいな。
「キュイキュイ!!……キュイ!?」
「ブラン、主様がお怪我をしてしまいます。それ以上はダメですよ」
「キュイキュイ、キュイ、キュイ……!!」
なんかブランが少しずつ涙目になってるような気がする。
そんなに厳しくされるの嫌なの?
ほんとに少しだけだよ。
とうとう、泣き出してしまったブランはネメシスが優しく頭を撫でて慰めている。
こんなに優しそうな目というか、雰囲気のネメシスは珍しいな。
「主様、ブランはこのままで良いと思います」
「そうかな?」
「キュイ……キュイキュイ!」
泣きながらもネメシスの意見に賛成するかのように訴えかけてくるブラン。
「ブラン、少し静かにしてて下さい」
「キュイ……」
「ブランは精神的にまだ幼く、未成熟です。今はムチよりアメを多く与えた方がいいと思います。寝る子は育つという言葉もありますし」
「うーん……。ネメシスがそこまで言うなら……」
こうしてブランは今まで通り、甘やかすことが決定した。
その瞬間、さっきまでの涙が嘘のように消えて、元気に「キュイキュイ」と甘えてくる。
この瞬間、判断を間違えたかも、と思った。
その翌日の放課後、昨日と同じ闘技場で二回戦が行われる。
第一試合はオレとダインくん。
模擬チーム戦の時は、ルナと戦った。
結果はルナの勝ちだったけど、ネロはかなり強かった。
ミューラさんのニューも一回戦を見る限り、あの時よりも更に強くなってる。
きっと、ダインくんも……
「それでは二回戦第一試合を始めます。オルフェウスくん、ダインくんはフィールドへ」
フォルリオ先生に呼ばれ、オレはフィールドへ向かう。
「オルフェウス、応援してるから」
「頑張ってね」
「キュイキュイ~」
昨日と同じでシエルの腕の中から元気に前肢を振って見送ってくれるブラン。
まるで戦う気がないと伝わってくる。
まあ、いつかやる気を出してくれると信じて。
「二人とも準備はよろしいですか?」
「はい」
「オレも大丈夫です」
ダインくん、オレの順に返事をした。
フォルリオ先生は、それを受け、直接 自分の目でも準備できているか確認する。
そして、遂に二回戦が始まる。
「それでは二回戦第一試合、始め!」
「行け、ネロ!」
「頼んだよ、ネメシス!」
やっぱり、ダインくんのモンスターはネロか。
攻撃は物理一辺倒だけど、カウンターに回避スキルと、とにかくバランスが良いってイメージがある。
フィアは最終的に魔法でゴリ押した感が否めなかったけど、ネメシスにそれはできない。
昨日、新しく取得した合技 『返刃ノ構』を上手く使って、有利を取りたい。
ネロがにゃー!とネメシスを威嚇するように声を上げ、向かい合う。
お互いに武器は構えたまま動かない。
一手目をどう出すかで、この試合の流れが決まる。
不用意に仕掛ければ、ネロの精密なカウンターが待っている。
逆に受けに回れば、じわじわと間合いを詰められ、圧殺される。
「ネロ、『猫パンチ』!」
相手の初動を警戒していたのが嘘のように、真正面からネメシスに突っ込んでくる。
ここで反撃すると回避からのカウンターが、受けに回ると一気に流れを持っていかれる。
それなら、ギリギリまで引き付けてカウンターを狙う!
「ネメシス、『返刃ノ構』!」
猫パンチがネメシスを捉えた、と思われた。
しかし、ネメシスが構えた瞬間、影が揺れ、滑るように姿が消えた。
――背後に姿を現すと、一閃!
ネロに回避スキルを使わせる間もなく、斬き裂いた。
そして、続けざまに『斬哭冥華』による追撃。
これにより、攻撃力、素早さデバフ、猛毒、疫病の状態異常を付与した。
斬撃を受け、ネロが短く呻く。
「ネロ……っ!」
ダインくんの表情が一瞬だけ険しくなる。
けどすぐに、冷静さを取り戻すと、短く指示を飛ばした。
「ネロ、『猫ステップ』!」
ネロの身体が残像を残して横へ跳んだ。
あまりの速さにネメシスはこれ以上の追撃ができなかった。
再び、お互いに動かず、静寂が訪れる。
「くっ……。ネロ、『つめひっかき』!」
猛毒の状態異常によるスリップダメージ。
時間が経つほどにそれが響く。
ダインくんは、ネメシスが動くのを待ってカウンターを決め返そうと考えていたと思う。
あの状況で動かない理由が他に思い浮かばない。
だからこそ、こっちからは絶対に動かない。
ネロが地を引っ掻くようにして前へ跳ねた。
けど、ネメシスは剣を構えたまま、動かない。
今、どちらが優勢か。それをしっかりと理解している。
応援席で「キュイキュイ!!」と何やら叫んでいる、気の短い子とは大違い。
必要最低限の動きでネロの『つめひっかき』を躱す。
その間、反撃はしない。
ネメシスの流れは決して渡さないという確固たる意思が伝わってくる。
そう、今は無理に反撃する必要が無い。
「いいよ、ネメシス。その調子」
「ここまで守りに徹している相手を崩すのは容易じゃない。……仕方ない、使うか。ネロ、『幻爪乱爪撃』!」
「っ!?ネメシス、警戒して!!」
ここにきて模擬チーム戦の時にすら使ってなかった新スキル!
しまった……その可能性を考慮に入れてなかった。
ブランやネメシスだって合技だけど、新たにスキルを取得してるのに……
『幻爪乱爪撃』を発動したネロは警戒度合いを最大限 引き上げたネメシスの、いやオレの視界から姿を消した。
次の瞬間、ネメシスの周辺にネロが次々に出現する。
その数、10体。
出現した10体のネロはネメシスの四方八方を高速移動で駆け回り、次々と攻撃してくる。
くっ……冷静に見極めろ。
模擬チーム戦の時の感じからして、ネロは魔法適性を持ってないと思う。
フィアみたいに持ってても魔法スキルを取得していなかった可能性もあるけど、猫獣人という種族的にたぶん違う。
獣人系の種族はどのゲームでも魔法との相性が悪い。
……だとすると、考えられる可能性は二つ。
一つは超高速で動き続けることで10体いるように目が錯覚している。
ただ、これに関して、オレはともかく、ネメシスは翻弄されているから違うと思う。
そうなると、必然ともう一つの可能性、"分身を9体出現させた"と考えるべきか。
よくある見破り方は分身には影がないだけど、しっかり10体全てに影がある。
刻一刻とネメシスのHPが削られていく。
早く打開策を考えないと。
「なるほど。そういうことですか」
え、何?何がそういうことなの?
よくわからないけど、ネメシスが何かに気づいたみたい。
もしかしたら、この状況を打開する術に気づいたのかも。
……よし、ここはネメシスを信じて託そう。
そう思った矢先、ネメシスが発動した『ダークスラッシュ』が1体のネロを捉え、斬り裂いた。
すると、他に9体いたネロが全て空気に溶けるのように消えた。
「分身はデバフを状態異常が付与されていない為、敢えて分身の動きを遅くし、本隊と同調したのは見事です。ですが、攻撃力までは同調できてません。あなただけ他より私に与えるダメージが少なかった」
「にゃはは……普通それで気づくかにゃ?」
最後に一言、言い残し、HPが0になったネロはクリスタルとなった。
「勝負あり。勝者、オルフェウスくん!」
次回、『シエルVSタキオン』に続く




