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《モンブリ》~進化のたびに広がる、オレとモンスターの世界~  作者: 夕幕
第1章 アルカディア王立学園 1年生編

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第54話 甘露亭での打ち上げ?

 アレイア=ノウィスの風の鎧が音を立てて崩れた。

 ネメシスの『斬哭冥華』が深く刺さり、状態異常を付与したことで、明らかに相手の動きが鈍る。


「……いけるよ!」


 シエルの声と同時にルナがフィアとルシウスに指示を出す。


「フィア、『ソニックスラッシュ』『ソニックスラスト』!ルシウスは『骨砕き』『ハンマークラッシュ』!」


「ブラン、一気に決めるよ!『ソニックホーンブレイカー』『ホーンラッシュバースト』!!ネメシスは『ダークスラッシュ』!」


 ブランはフィアとルシウスの攻撃に合わせ、最速で突撃。

 その隙を突くように、ネメシスが『ダークスラッシュ』で流れるように斬り払った。

 そこにルシウスの渾身の一撃が重なった。骨ごと砕くような重い音が響き、アレイア=ノウィスの身体がわずかに浮き、後退する。

 フィアの剣が続き、切り上げるように右の翼を裂く。


 その瞬間、風が、止まった。


 アレイア=ノウィスの身体を包んでいた防壁が、音もなく散る。

 重力に引かれるように、巨体が――崩れ落ちた。


 ごぉぉぉ、と残響のような風が部屋を吹き抜け、やがてすべてが静寂に包まれた。

 散った風の欠片が、誰の勝利かを告げるように空を漂っていた。


「……終わった、のか?」


 アレイア=ノウィスの身体が消えゆく中、光の文様が床に浮かび上がり、古代文字として形を為す。

 シエルがそれを解読しようと試みたけど、


「……あれ?何これ。読めないよ」


「「え?」」


「うぅ――、ブランちゃん成分が……足りない……」ぽすん


 突然、シエルがバタっと崩れた。

 まあ、理由は容易に想像できる。

 何故か、戦闘が終わって直ぐ、一目散にオレの下まで駆けてきた子がいた。

 思いっきり「キュイ~!」とジャンプして胸に飛び込んで来た時は驚いたけど。

 胸に飛び込んできた時は、心臓が一瞬止まるかと思った。

 そこまで衝撃が強くなかったから尻餅はつかなかったけど……

 今では「キュイキュイ~」と盛大に甘えて来てる。


 バタっと倒れたシエルはルナとフィアが協力してウィルの上に乗せた。

 アレイア=ノウィスの残した光の文様が、静かに転移魔法陣へと変わる。

 その中心に立ち、オレたちはダンジョンの外へと帰還した。


 そのままオレたちは職員室にいるフォルリオ先生の下へ向かった。


「『知風ノ殿』の攻略完了しました。これがダンジョンボスのクリスタルです」


 代表してオレがフォルリオ先生にアレイア=ノウィスのクリスタルを渡す。

 今回の特別授業はダンジョンボスのクリスタルを提出することで攻略完了証明となる。

 因みにルナはシエルの面倒を見るのが忙しいので、職員室の外で待機している。


「ほぉ~、締切を1週間も残しての攻略とは。序盤の出遅れを感じさせませんね。……それにもふもふコンテストへ出た余裕っぷりにも納得です」


「あはははは。……あ、それよりも他のみんなはどんな状況ですか?」


「既にミューラさん、ガイドくん、ダインくんのチームは攻略完了しています。他のチームからの報告はまだありません。お伝えできるのは、これくらいです。逐一、状況報告を受けているわけではありませんから」


「あ、そっか。すみません、お忙しいところ」


「いえいえ、これも仕事ですから。オルフェウスくん、今日はゆっくり休んでください。残り期間の過ごし方は自由です」


 そうしてオレは職員室を後にした。


 シュッ!サッ!


 それと同時に何かが風を切る音。

 さすがにもう慣れたけど、ちょっと予想外の事態に陥っている。


 いつもならシエルに奪われているブランだが、何故か今日はオレの腕の中にいる。


 シュッ!サッ!


 さっきから何も見えないけど、風を切る音だけがする。

 その度にシエルの機嫌が悪くなっているような……

 そして、我関せずと言わんばかりに上機嫌のブラン。


「むむ……、こうなったら仕方ないね。ブランちゃん、いい子だからボクの下までおいで~」


「キューイ……、キュイ!」


「え、うそ……、ブランちゃんがいい子って言葉に反応しないなんて……」


 まるで全てが終わり、絶望に満ちた雰囲気で手を床に付け、ショックを受けているシエル。

 譫言のように「ボクのブランちゃん……」って言ってるような気がする。

 それをさりげなく、耳をパタッと閉じて何も聞こえてませんアピールをしてるブラン。

 この時、ちょっとした悪戯心でブランの耳を上に上げようとした。

 だが、強力な接着剤でくっついているんじゃ!って思えるくらい離れなかった。


「キュイ、キュイ~」


 こうなったら仕方ない。


「ブラン、ご褒美は何がいい?」


「キュイ!?キュイキュイ」


「……あ、耳をパタッって閉じてるから何も聞こえてないよな。ご褒美はまた今度かな」


 そう一言 呟くだけであれだけ固くくっついていたブランの耳はぴょん!っと立った。


「キュイ!キュイキュイ!」


「ん?あ、ご褒美が欲しいの?」


「キュイ!!」


「何がいい?」


「キュイキュイ!」


 ネメシスの通訳によると「またスイーツが食べたい!」だとか。


「シエル、ブランがスイーツを食べたいらしいけど、行く?」


「行く!もちろん、ブランちゃんとならどこまでも行く!!」


 こうして、ブランの「スイーツが食べたい!」という強い希望(というか猛アピール)により、オレたちは近くのカフェへと足を運ぶことになった。


 この学園には、生徒向けのカフェがいくつかある。その中でも今日オレたちが訪れたのは――


「『甘露亭かんろてい』か……。お店はこんなに静かなのに、今日 オレたちの席は賑やかになりそう」


 学園内に用意されている食堂の隅にある、ちょっとした隠れ家的な甘味処。

 木の温もりが感じられる落ち着いた内装で、店内には甘い香りが漂っている。


「さあブランちゃん、何が食べたい? スフレ?プリン?それとも限定の"星空パフェ"?」


「キュイ!!」


「うんうん、そうだよね!星空パフェだよね!ボクも同じのにする!!」


 シエルはメニューを開いた瞬間から目がキラキラしていて、もはや迷いという概念が存在しないらしい。横でオーダーを取る店員さんが苦笑してる。


「お客様、星空パフェはモンスター用と人間用がございますが……どちらに?」


「両方で!」


「……かしこまりました」


 すごい。返事の速さが、既に通い慣れてる人のそれだ。


 オレはというと、無難に黒蜜ときなこの和風パンケーキにしておいた。甘すぎず、ほんのりした優しさが後に残るやつ。

 ルナも注文を済ませ、みんなで席に着くと、少しだけ沈黙が流れた。

 そして、注文したスイーツが届いた。


 ――が。


「キュイ~……!」


「……ふふっ。ブランちゃん、おつかれさま」


 ブランは椅子の上にちょこんと座って、注文したパフェをじっと見つめてる。

 その様子はまるで、戦士の勝利の余韻に浸るかのよう。

 まあ、たぶんブランはただ甘いものを前にしてご機嫌なだけだろうけど。


「それじゃあ、今日の戦いと、ブランちゃんの頑張りに――乾杯っ!」


「キュイ!」


 ……スイーツで乾杯ってどうなんだろう、と思いつつも、ルナも笑ってるし、いいか。

 星空パフェは、青と紫のグラデーションが美しい幻想的な見た目をしていて、上には星型のキャンディが散りばめられていた。

 中には月桃のアイスやゼリー、銀色に光る飴細工が織り交ぜられていて、スプーンを入れるのがもったいないくらい綺麗だ。


 シエルがスプーンですくい、ブランがパクっと一口食べると、耳をぴくぴくさせながら「キュイ~」と身をよじった。

 もう、それだけで周囲の空気が和んでいく。


「……ここのスイーツ、やっぱり美味しいわね」


「ホントだよ!美味しいね、ブランちゃん」


「キュイ~」


 戦いの余韻と、ほんの少しの甘さと温もりに包まれて――オレたちは、今日という一日を噛みしめていた。

次回、『クラス最強を決める戦い』に続く

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