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《モンブリ》~進化のたびに広がる、オレとモンスターの世界~  作者: 夕幕
第1章 アルカディア王立学園 1年生編

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第53話 古識風竜 アレイア=ノウィス

 湖の底へと通じる階段を下りた先にはダンジョンボスがいるボス部屋があった。

 重厚で荘厳な雰囲気を醸し出している。


 意を決して扉開け、中へ入ると壁や床、天井と辺り一面に古代文字がぎっしりと刻まれた空間に出た。

 ただ、それ以外何一つ特徴的なものが存在しなかった。

 ダンジョンボスと思われるモンスターもいない。

 だが、その何もなさが、逆に不自然だった。

 まるで、ここに誰も入ることを想定していないかのように。


 何かに擬態している可能性も考えたけど、ネメシスが完全に無警戒でブランをたしなめている。


「キュイキュイ、キュイ?」


「今は大人しくしていて下さい。主様のご迷惑になりますよ」


「キュイィィ……」


「……頑張ればきっと主様はご褒美をくれると思いますよ」


「キュイ!?キュイキュイ!」


 さすがに何を話しているのかまでは聞こえなかったけど、ブランがすごい張り切っている事だけは伝わってきた。

 ネメシスが上手くやってくれたのかな。


「シエル、一面に敷き詰められた古代文字、一部でもいいから解読できない?」


「うーん、さすがにボクでも無理。だって、どこで文や単語が切れてるか、こんなにあるとわからないよ」


「さすがにシエルでも無理か……」


 今、ルナがすごい無茶振りをシエルにしてたけど、朝の仕返しとかじゃないよね?

 話を聞いた限りでもかなり苦労が伝わってきたからね。

 ブランが事の発端の気がするからオレも無関係とは思えなかったり……


 そんなこんなで時間だけが無意味に経過する。

 暇を持て余したブランは床に刻まれた古代文字でよくわからない遊びを始め出した。

 それを目を輝かせながらウィルの上に跨って見守るシエル。


 そんなシエルを放ってルナがこっちにやって来た。


「オルフェウス、これどう思う?」


「可能性は二つかな。ひとつは、謎解きの答えを間違えた」


「そう。でも、間違えたら罠が発動する?とかじゃなかった?」


「うん、オレもそこが気になってた。それにこの部屋の扉は間違いなく、ダンジョンボスのいるボス部屋に通じる扉だった」


「そうね。やっぱりここで何か見落としていると考えるべきかしら……」


 何かを見落としているか……

 正直、オレもその可能性が高いと思ってる。

 でも、もし、それだとすると辺り一面に刻まれた古代文字が関係しているとしか思えない。

 シエルが解読不可能と音を上げた。

 何一つ打つ手は無い――そう思われた瞬間、


「キュイ、キュイ、キューイ!!!キュイ?」


 ブランの遊びが何かしらのトリガーを引いたのか、突如、部屋の空気が変わった。

 風の気配が満ち、肌を撫でる冷気が意志を持つかのように蠢く。

 刹那、壁に刻まれていた古代文字が浮かび、うねり、風に舞い――それは一つの意志となって収束する。

 やがて、それは1体のモンスターとなった。


 風の衣をまとったように、身体の輪郭が常に揺らめいている。

 鱗はすべて「碑文」のような文様を帯び、古代文字が時折 浮かび上がっており、長くしなやかな翼は風を裂く。


 そう、全身に古代文字が刻まれたドラゴンが姿を現した。

 その名は古識風竜 アレイア=ノウィス。


 古代の知識を持つ風のドラゴンってとこかな。


  ……いやいや、まだ心の準備とか全然できてないんだけど。


「名を告げよ。意志なき者に、風の理は通さぬ」


「キュイ!!」


「「「……」」」


「……キュイ?」


 うん、これまで戦ってきたモンスターが人語を喋れたし、きっとこのドラゴンもとは思ったけど……まさか名前を聞いてくるとは。

 しかも、二つ返事で罠とか何も疑わずに応える子がいた。


「――名、通らず。されど、魂は応えた」


 低く響く声が、部屋全体にこだまする。

 アレイア=ノウィスの瞳がわずかに細められ、その奥で風が渦巻いた。


「その幼き獣が"真名の響き"をもって応じたがゆえ……儀礼を省くとしよう」


 風が唸り、部屋全体の気圧が一気に下がった。


 これはヤバイ。

 何でそう思ったのか、理由はわからない。

 だけど、オレの頭が自然とそう感じた。


「みんな下がって!!」


 オレの声が響いた瞬間、アレイア=ノウィスの翼が大きく広がった。

 部屋の空気が渦を巻き、天井の古代文字が光を放つ。


「『風刃・重奏陣(ヴェント・フォノス)』!」


 音のように連なった無数の風刃が、四方八方から押し寄せる。


「ブラン、ネメシス、躱して!!」


 フィア、ルシウス、オルク、ウィルはオレが下がってと叫んだ瞬間、反射で動いて後退していたが、ブランだけ「キュイ?」と状況を理解できていなかった。

 そのブランに付き合う形でネメシスが前線に残っている。

 その為、アレイア=ノウィスの攻撃の矛先はブランとネメシスに向いていた。


「キュイ!キュイキュイ」


 ブランは空気を蹴るように軽やかに跳躍し、ギリギリで風刃をすり抜ける。

 ネメシスはブランと対極に二本の剣で風刃を叩き落とす。


「ブランとネメシスに攻撃が集中してる今が攻め時。フィア、『ウインド・セヴァランス』!」


 アレイア=ノウィスとの距離を保ったまま攻撃を試みたが、目に見えない何かによって攻撃が当たる直前に避けた。

 目に見えぬはずの"風"が壁となってアレイア=ノウィスを守る。

 どれほどの攻撃を加えても、それは一寸先で逸れ、砕け、風に消える。


「やっぱり……防がれてる」


 フィアの放った魔法、『ウインドカッター』や『ウインドボール』が虚空を裂いて霧散した。


「キュイ、キュイキュイ?」


「っ!?言われてみれば、ブランの……。主様、連続で撃ち込めば、徐々に風の流れが乱れ、攻撃が通ると思われます!」


「それなら、攻撃あるのみだね!オルク、騎乗!ウィル、『鉄壁突進』!」


「よし、ブラン、『ジェットアタック』から『ダブルアタック』!」


「ルシウス、『ぶん回し斬り』!そこから『ソードクラッシュ』!!」


 怒濤の勢いで攻撃を仕掛けるが、やはり見えぬ防壁に阻まれ、風が爆ぜる音だけが虚しく響いた。

 それでも、確実にアレイア=ノウィスまでの距離が縮まっている。


 怒涛の連携攻撃を何度も叩き込むことで、確かに風の流れに乱れが生じ始めていた。

 風の壁が歪む。風刃が軌道を逸らし始める。

 アレイア=ノウィスを覆う風は、まるで知性を持った盾のようだった。

 一撃で割ることはできずとも、連続で叩けば、密度の波が乱れ、流れが崩れていく――そんな特性を持つ。

 その輪郭が、遂に一瞬だけだが明瞭になった。


「……今だ、ネメシス!」


 オレの叫びに応え、ネメシスが素早く構えを変える。

 左右の双剣を交差させるように掲げ、息を吐く。

 そして――――『クロススラッシュ』が繰り出される。


 まず、左の刃が風を切り裂くように振るわれ、アレイア=ノウィスの左翼を正面から強襲する。

 直撃ではなかったが、防壁の風が明らかに乱れ、衝撃波が竜の体勢を僅かに揺らす。

 続けざまに、右の刃が後を追うように重なり、今度は腹部を目掛けて一直線に踏み込んだ。


 ズ――ンッ!


 風の壁が大きく揺れる。明らかに今までと違った。

 これまでの虚しい衝突音ではない、"風を破る音"。


「ネメシス、『斬哭冥華ざんこくめいか』!!」


 勢いそのままに『斬哭冥華ざんこくめいか』でアレイア=ノウィスの胴体を斬り裂く。

 そして、攻撃力、素早さのデバフ、猛毒、疫病の状態異常を付与することに成功する。


 アレイア=ノウィスがわずかに息を乱し、咳き込む。

 そして、僅かにだけど、翼の動きが鈍くなった気がした。

次回、『甘露亭での打ち上げ?』に続く

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