第50話 月幻獣 ノクシア=ルミナ
ルナとシエルの騒ぎが一段落し、落ち着いたところで残る二つの分かれ道の内の一つを突き進む。
草原には風精獣《ヴェルデ=ウィスパー》。
灼熱の地には焔吼獣《バルム=グロウル》。
なんかあの分かれ道がフォルリオ先生が教えてくれた属性相性の図と同じ気がするんだよな。
風属性は火属性に弱いでしょ。
一番右が風、その隣が火、ならその更に隣のこの先は水かな?
そんな事を考えながら一本道を通り抜け、開けた空間に出ると大きく予想を裏切られる光景が目に入った。
「キレイね。月があんなにはっきり見えるなんて……」
「あ、ホントだ。ブランちゃん、見て見て!お月様がすっごくキレイだよ!」
「キュイ?……キュイ〜!!」
シエルに促され、上を見上げるブラン。
今まで夜空を見上げたことの無いブランは初めて目にするその世界に言葉もなくただ、目を丸くしていた。
「はっ!?お月様よりブランちゃんの方が可愛い!!ボクとしたことが当たり前の事を失念してた……」
……今、シエルに突っ込むのは止めておこう。
だってすっごく月がキレイだから。
この世界に来て夜空を見上げることが無かったから今まで見てきた中で一番キレイで幻想的に見えるな。
「……え!?」
幻想的な夜空を見上げていたら隣にいたルナが突然、困惑したかのように声を上げた。
ルナの視線の先には――何も無いように見えた。
だが、月光が差し込んだその瞬間、何もなかったはずの場所に、静かに、まるで最初からそこにあったかのように石版が現れた。
「え、いつの間に……」
「……あ、ブランちゃん、あそこに石版があるよ〜。全然気づかなかったね」
「キューイ……?」
「あ、そうだ。ブランちゃんも一緒に解読する?」
「キュイ!」
オレとルナの困惑というか驚愕をよそにシエルはブランと一緒に石版に向かって走り出す。
そして、ブランに古代文字の解読方法を教える。
「えっとね。まずは文の切れ目を探すんだよ。……こことか。わかる?」
「キューイ……。キュイ!!」
「さすがブランちゃん!」
「キュイ、キュイ〜」
ブラン、君本当に理解してるの?
試しにネメシスに聞いてみると何一つ理解してないと返ってきた。
……うん、予想通り。
まあ、ブランじゃなくても理解できないとは思うよ。
オレもさっぱりだし。
『∴Lun’ar tharn’el = Noxia’luma ∇ sil’kren vey.Vael’dor = umbra’nos ∇ kin’fael na’veth.∴Krel’za lun’kar = desh’na vel’eth.∴』
ちなみに石版にはこう刻まれてる。
ブランが何の役に立ったかはわからないけど、シエル曰く「ブランちゃんが大活躍!」と言いつつ、スマホに解読した文章が送られてきた。
『夜の静寂に潜むは幻月の使、"ノクシア=ルミナ"。其は光なき導き、夢と現の狭間に試練を刻まん。影を越えし者にこそ、月の印は与えられん』
水属性か土属性のモンスターと戦うことになると思ってたけど、これは……なんか、思ってたのと違うな。
これだとどっちかっていうと幻惑系?
でも、フォルリオ先生に教わった属性にそんなの無かったよな。
疑問に思いつつ先に進もうとすると、突然ネメシスとルシウスが声を上げる。
「っ!?来ます!!」
「敵襲だ!」
その言葉と共にフィアたちは四方へ散る。
すると先ほどまでフィアたちがいた場所に光り輝く何かが降り注ぐ。
「あら?あちきの気配に気づくとはね。……ふふっ、さすがにあの子たちを突破しただけのことある」
光の中からどことなく、不気味で寒気を感じさせる冷たい女性?の声が聞こえてきた。
直後、光が破裂したかのように粒子が四方八方に散って、声の主が姿を現す。
全身が淡い銀白色の毛皮に覆われており、夜光石のように月光を反射しているコウモリの翼を持つ猫。
頭部には三日月型の角があり、瞳は紫と青が混じり合ったグラデーションカラーで、全てを見透かしているかのよう。
「それじゃあ、その実力をあちき、月幻獣《ノクシア=ルミナ》に見せてもらうよ。……『月華幻影』。さて、どれが本物かわかるかな?」
全く同じ姿形の月幻獣《ノクシア=ルミナ》が2体増え、合計3体になった。
あの口ぶりからして増えた2体は幻か何かだと思っていいと思う。
石版に刻まれていた文言でも幻惑系っぽかったし。
……にしても、これまで戦った風精獣《ヴェルデ=ウィスパー》や焔吼獣《バルム=グロウル》と違う。
あの2体からは自分の領域を侵された事に対する明確な怒りを感じた。
だけど、月幻獣《ノクシア=ルミナ》からはそれを感じない。
それどころかどこか弄ばれている感すらある。
そう、純粋な"興味"だけで動いてるような。
「……そこです!」
「おっと。まさかの大正解!……ん?君、あちきの気配に気づいた子の片割れだね。およ?ふーん、デバフと状態異常の付与か。なかなかいいスキルだね。でも、残念。あの子たちとは違ってあちきには効かないよ」
「なら、これはどうだ?」
「おっしい!でも、残念~。それも効かないの」
どうやったかはわからないけど、3体いる月幻獣《ノクシア=ルミナ》の中から本物を瞬時に見抜いたネメシスとルシウスが合技で攻撃するも与えたダメージは0。
それに加えてデバフと状態異常の付与すらもできていない。
この時、オレは石版に刻まれていた文言の後半部分がふと気になり、スマホを取り出し、確認する。
『其は光なき導き、夢と現の狭間に試練を刻まん。影を越えし者にこそ、月の印は与えられん』
この"月の印は与えられん"って風精獣《ヴェルデ=ウィスパー》や焔吼獣《バルム=グロウル》を倒した後に出現した石版を示してるんじゃない?
……もしかして、月幻獣《ノクシア=ルミナ》はHPを0にして倒すんじゃなくて何かしらのギミックで倒す系?
そうだとすると、その鍵を握るのは――"影を越えし者"か。
この影が影分身、つまり分身体を示してるとか?
うーん、でも、それを越えるってどういうこと?
まだ何か見落としてるのかな……
「キュイキュイ」
あ、ブランか。今は一応、戦闘中だから抱っこはダ、メ……
ん?さっきまでシエルに抱っこされてたよね?
何でここにいるの?
恐る恐るシエルを見ると今にも泣きそうな顔でこっちを見ていた。
その手はこっちに向き、ピクピクしている。
うん、どうやったかはわからないけど、ブランがシエルの腕の中から抜け出して来たのは理解した。
「ブラン、ネメシスたちと一緒に戦わない?」
「キュイ!」
プイと顔を背けるブラン。どうやら戦う気分じゃないご様子。
「キュイキュイ」
抱っこ抱っこと小さな子供が親に強請るようにブランがオレの足にすり寄る。
「もう仕方ないな。ちょっとだけだよ」
月幻獣《ノクシア=ルミナ》のギミックが解けないし、気分転換ってわけじゃないけど、気持ちを入れ替えるつもりでブランを抱っこする。
その間もネメシスたちは攻撃を繰り返しており、ルナはそれを観察し、突破口を模索している。
シエルは……うん。
「キュイキュイ」
「よしよし、いい子だから静かにしててね」
「キュイ……キュイ!――」
一瞬、ブランの耳がショボンって垂れたけど、直ぐに元通りになった。
よくある事だし、オレは特別気にもしなかった。
寧ろ、シエルから怨念めいた視線を痛いほどに感じる。
「――キューイ!!!」
グサッ!!!
突然、ブランが首を引いたと思った次の瞬間、勢いよく角を突き出した。
それにより、額の角がオレに刺さり、激痛が――走らなかった。
いや、正確には刺さった瞬間、ほんの僅かに痛みは感じた。
だけど、それ以上に不可解なのは、夢でも見ていたかのように全ての光景が霧散して消えたことだ。
「ありゃ?あちきの幻術がそんな風に破られるとはね。……あれ?よく見ると君、王……種じゃ……」
シュッ!サッ!
「はぁ~ブランちゃん、ボクの下から勝手にいなくならないでよね!もう寂しかったんだから」
「キュイ~」
先ほどまで3体いた月幻獣《ノクシア=ルミナ》は1体に戻ってる。
それに今の口ぶり的にさっきまでのは全部幻だったと思っていい。
だけど、ブランを見て何か言おうとしてなかったかな?
……いや、それよりも今は戦闘中だ!
頭の中をリセットし、戦闘に集中しようと思ったけど、様子がおかしかった。
月幻獣《ノクシア=ルミナ》の首元に二本の剣を突きつけるネメシス、剣とメイスで顔をいつでも攻撃できるよう挟み込んでいるルシウス。
それに対し、降参と言わんばかりに両手?を挙げている月幻獣《ノクシア=ルミナ》。
「あの子たちを倒すような子たちにあちきが勝てるわけないからね。あちきが試すまでもなく、本物だったってことかね。石版は奥にあるよ。好きにするといいさ……。あ、あちきの眠りだけは妨げないでね」
そう言い残し、月幻獣《ノクシア=ルミナ》はどこかへと姿を消した。
次回、『流水獣 ミルヴァ=リップル』に続く




