第4話 VSゴブリン
「ゴブ!」
「キュイ!」
ゴブリンが右手に持った木の棍棒をブランに振り下ろすが、寸前の所で右に飛び回避する。
「ナイスだブラン。そのまま右に回り込め!」
右手に武器である木の棍棒を持っている。だから常にブランから見て右、ゴブリンの左側に回り込むようにポジション取りをする。
こうすれば、ゴブリンは木の棍棒による攻撃は当たらない。
素早さは同じ……いや、ゴブリンの方が僅かに上か。
攻撃する時に足が止まるから辛うじて回避できてるけど、厳しい。
どこかで攻めないと。うーん、でも今攻めるとカウンターをもらいそうだしな……
いや、待てよ。それでいいかもしれない。うん、これならいけるかも。
「ブラン、ゴブリンに真正面から突っ込んで!」
「キュイ!」
オレの思った通り。木の棍棒を振り上げた状態で真っ直ぐブランに向かって来た。
2体の距離がある程度、近づいたタイミングでゴブリンが足を止め、ブランを迎え撃つ構えを見せる。
「今だブラン!ゴブリンの足の間を全力で駆け抜けて背後を取って!」
「キュイ!」
「そっから反転して『体当たり』『つつく』!」
元々、正面から突っ込んで来るブランを攻撃する為に重心が前に傾いていたこともあり、背後から『体当たり』の直撃を受けたゴブリンはうつ伏せで倒れる。
そこを更に『つつく』による追撃。
「キュイ!?」
スライム戦が簡単に倒せたからゴブリンもってどこか考えてたけど、思ってたよりも強い。HPが1割も減ってない。
でも、ダメージは入ってる。倒せない相手じゃないのは確かだ。
「ゴブゴブ!」
「ブラン、右に回避!」
「キュイ」
よし、これで回避できる。あとは安全に攻撃を当てるだけ。
流石にさっきと同じ攻撃が続けて通用したりしないよな。
次の策はシンプルに逆を突こう。
「いいぞ、ブラン。そのまま右に回避!」
よし、スキルは二つともクールタイムから明けたな。
これでいつでも仕掛けることはできる。
タイミングを見計らって、
「今!ブラン、左に回避!」
「キュイ!」
ゴブリンがブランの動きに慣れてきたのかどんどん攻撃の精度が上がっていた。
だからオレは敢えて右ではなく、左に躱すよう指示した。
突然、ブランが今までと逆に動いたことでゴブリンの逆を突いた形となった。
それにより、今度は攻撃することなく、ゴブリンの体勢を崩すことに成功。
「『体当たり』『つつく』!」
よし、これは使えるな。
それからオレは逆を突く戦法を繰り返し、ゴブリンの体勢を崩しては攻撃を重ねていった。地道に削り、ついに残りHPは1割ほど――
あと一息という所でゴブリンは足を完全に止めた。
どれだけ待っても決して自分からは動こうとしない。
完全に待ちの姿勢。これではこれまでの攻撃パターンが通用しない。
ゴブリンがブランの攻撃に対する対処法をこの戦闘の中で理解した。
オレは自然とそれが頭で理解できた。
「キュイ……」
詰んだと思った。
オレの中で、何かが「カチッ」と噛み合ったような感覚があった。
〖ブランが『ジェットアタック』を取得しました〗
完全に詰んだ。そう思った瞬間、オレの頭の中に謎の声が聞こえた。
何が何だか状況が理解できていなかったが、オレの目の前に表示されたブランのステータスを見て理解した。
今、この瞬間、ブランが新たなスキルを取得したことを。
「ブラン、『ジェットアタック』!」
「キュイ!」
特別めちゃくちゃ速かったわけじゃない。ちょっと速くなったくらいだ。
ただ、これまでの戦闘でブランの素早さを理解していたゴブリンだったから反応が遅れて攻撃が直撃した。
「そのまま『体当たり』『つつく』!」
ブランの追撃を受けたゴブリンは光となり消え、その場に残ったのはゴブリンのクリスタル。
これが意味することは一つ。
「よっしゃあー!!ゴブリンを倒したぞ」
「キュイー!!」
いやあ、疲れた。ブラン、おまえも疲れたでしょ。ゆっくり休んでいいよ。
オレが休みながらスライムとゴブリンのクリスタルを一つずつしか手に入れられなかった言い訳を考えおくから。
「キュイ~」
よしよし、いい子いい子。ゆっくりお休み。
それから少ししてルナとシエルが戻ってきた。
まだ時間には早いと思ったが、オレの大声が聞こえて心配になったみたい。
うん、すっごく嬉しいし、ありがたいけど、まだ言い訳が思いついてない。
どうしようか悩んでいた時、大事なことを思い出した。
シエルは特殊体質で嘘ついてるかわかると言っていたことを。
それもあって全て正直に何があったかを話した。
「すご⋯⋯よくゴブリンに勝てたね」
「はぁ、何事も無くて良かったわ。その様子じゃオルフェウスとブランはかなり疲れてるわね。シエル、予定より早いけど、アラナ村に行かない?」
「うん、ボクは大丈夫だよ。スライムのクリスタルもそこそこ集まったし」
こうして二人の気遣いもあって一番近くにあるアラナ村という場所に向かうことになった。
ブランは道中、すごく気持ち良さそうに寝ていた。寝顔が可愛くて、これだけで疲れが癒された。
「そういえば、ふと気になったんだけど、二人は何でブリーダーを目指してるの?」
「私はどうしても成し遂げたいことがあるの。その為にはブリーダーにならないといけない」
「ボクは家を出て、自由に生きる為かな。アルカディア王立学園って全寮制だし、卒業後は直ぐにブリーダーとして活動する人が多いしね」
二人もいろいろ事情を抱えてるんだな。
オレも人のことは言えないけど。
「キュイ〜」
「はぁ~ブランちゃんの寝顔……。オルフェウス、ちょっとだけブランちゃんをボクに……」
「いいよ。はい」
「ありがと!オルフェウス」
シエルってブランのことが好きだよね。
まだ出会ったばかりだけど、もふもふしてる動物とかが好きなんだなって伝わってくるよ。
シエルのテンションにも無関心、というより慣れっこな様子のルナを見て、二人の付き合いの長さを感じた。
次回、『可愛さには屈しない』に続く