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《モンブリ》~進化のたびに広がる、オレとモンスターの世界~  作者: 夕幕
第1章 アルカディア王立学園 1年生編
36/120

第36話 絆が織りなす勝利

 ダブルバトルはミューラさんのモンスターを1体も倒せず、負けてしまった。

 これで1勝1敗。


 しかも、これまで強敵相手に大活躍していたブランがあっさりと倒された。

 これがダブルバトルの奥深さか。

 ニューが攻撃担当でヒューは支援担当と完全に役割分担をしていた。

 ネメシスの『飛閃』から身を挺してヒューを守ったことを考えるとヒューの防御力はかなり低そう。

 というか、あの一撃で倒せた可能性すらある。

 もっと早く気づいていたら……


「おつかれ、オルフェウス。惜しかったわね」


「そんな事よりもブランちゃんをボクに!早く慰めてあげないと!」


「ありがとう、ルナ。……ごめん、後はお願い」


 オレは戦闘不能に陥ってクリスタルに戻ったブランを再召喚し、シエルに渡す。

 耳が垂れ落ちて誰の目から見ても明らかに落ち込んでいる。

 しかも目が少しずつうるうると潤っていく。

 出番が無いまま気づいたら倒されてたわけだし、無理ないか。


「キュイ、キュイ……」


「あぁ、泣かないでブランちゃん。ボクがよしよししてあげるから」


「ブラン、ごめんね。オレがもっとしっかりしてたら……」


「キュイ、キュイキュイ」プイプイ


 涙で可愛い顔がぐちゃぐちゃになりながらオレの言葉を否定するかのように首を横に振り、ぴょんと抱き着いてくる。

 そしてオレの胸で思い切っり泣きじゃくる。


 初めて負けたからね。

 それに何もできず悔しいよね。

 今は好きなだけ泣いていいよ。


 よしよし。


「キュイ、キュイ……」


「シエル、ブランをお願いね」


「うん、任せて」


 この後に行われる最終戦開始の合図を出さないといけないからバトルフィールドへ向かうとそこには最終戦を戦うルナとダインくんが待っていた。


「二人とも準備はいい?」


「大丈夫よ」


「こっちも大丈夫」


「それじゃあ、バトル開始!」


「行け、ネロ」


「お願いね、フィア」


 ダインくんのモンスターは猫獣人のネロ。

 自己紹介の時に連れていたモンスター。

 ミューラさんのニューみたいに武器らしき物は持っていない。

 同じ武器未所持だけど、恐らく戦い方は対極に位置すると思われる。

 ゲームのテンプレだと獣人は魔法が使えない事が多い。

 仮に使えたとしても上位種であったり、希少種のみだからネロは魔法が使えないと割り切って考えていいと思う。


 対してルナは予想通り、フィアだ。

 魔法を使えば一方的に遠距離から攻撃できる可能性が高い。

 だけど、使える魔法が『ウインドカッター』と『ウインドボール』の二つしか無いから使うタイミングが重要になりそう。


「エルフなのに剣を持ってるのか。もしかして……魔法が使えない?確かめるか。ネロ、『猫パンチ』!」


「フィア、躱して『スラッシュ』!」


「『猫ステップ』『ぷにぷにカウンター』!」


 ド直球に真正面へ突っ込んで来るネロをステップで簡単に躱したフィア。

 そのまま無防備なネロの背中に剣を振り下ろす筈だった。

 次の瞬間、フィアは気づいたらネロから大きく離れた場所にいた。

 しかもHPを削られていた。

 攻撃を受けた手応えが無かったのもあり、動揺を禁じ得ないフィア。


「落ち着いてフィア。どうしたの?」


「ルナ、一体何が……」


 ネロは素早くステップを踏み、身を低くしてフィアの斬撃を躱していた。

 身を低くした事でフィアの死角に入り、フィアはネロが消えたように錯覚した。


「もしかして、気づいてないの?今、『スラッシュ』を躱されてカウンターをもらったのよ」


「カウンター……」


 フィアは全くと言っても過言では無いほどネロの動きが見えていなかった。

 ルナのおかげで何が起きたのか理解できても不気味以外の何ものでも無い。

 フィアの顔が少し曇っている。


「ネロ、『つめひっかき』!」


「フィア、『チャージスラッシュ』!」


 風きり音を立たせながら剣を振り下ろす。


「それなら『ぷにぷにガード』からの『足払い』!」


「くっ……」


「『ぷにぷに連打』!」


「にゃぁー!」


 いつもなら『つめひっかき』のフェイントに気づき、防御スキルの上から攻撃はしない上に『足払い』だって回避できた筈。

 しかし、精神的余裕の無さが原因でフィアの動きがいつもより鈍く、回避できず、転倒する。


 これにいち早く気づいたルナは致命傷を負う前に立て直すべく、指示を出す。


「フィア、こっちに『ソニックスラスト』!」


「えっ?……はい」


 一瞬、指示の意図が理解できなかったフィアだが、ルナの目を見て察した。

 これがルナの中では最善の策だと。


『ソニックスラスト』はスキル発動と同時に剣先が向いている方へ推進力を得ることができる。

 本来ならそれを利用して相手モンスターに大ダメージを与えるスキルだ。

 しかし、ルナはフィアの体勢を立て直す為に使った。

 これにより、『足払い』で体勢を崩され、転倒していたフィアが追撃をもらう前にネロの攻撃範囲の外に出る。


「クソっ。……仕方ないか。これは相手が上手かったな」


「にゃぁー……!」



「フィア、少し落ち着いて」


「……」


「私の話、聞いてる?」


「もちろんです」


「自分だけで戦ってると思ってない?私も一緒に戦ってるからね。」


 ルナのこの言葉がフィアの心に突き刺さった。

 実際に戦うのはモンスターであるフィアだけど、ルナも一緒。

 戦いとは孤独では無い。それを再認識させられた。

 ルナと一緒ならどんな相手にも勝てる。

 この時だけフィアはそう思えて仕方無かった。


「ふーはー」


 大きく深呼吸し、狂ったリズムをリセットする。

 そして準備万端といった目でネロを睨む。


「フィア、『スラッシュ』!」


「またそれか。ネロ、『猫ステップ』から『猫パンチ』!」


 真っ直ぐネロへと突き進み、剣を振り下ろす。

 しかし、またしても剣が当たると思われた直前にフィアの視界からネロが消える。


「フィア、真後ろに『チャージスラッシュ』!」


「『バックステップ』!」


 ネロは『猫ステップ』でフィアの視界から消えてもルナの視界には入っている。

 ルナの指示で即座に視界に捉えていない背後にいるであろうネロに『チャージスラッシュ』を叩き込む。

 しかし、これはダインくんの想定内だったのか素早い指示出しによってネロはギリギリではあったが、回避に成功。

 ここで再び仕切り直しかと思いきや、


「『ウインドカッター』『ウインドボール』!」


 フィアが魔法を連発する。

 これはダインくんにとって想定外だったのか反応ができていない。


「魔法が使えたのかよ……。でも、さすがにこれ以上は……」


「『ソニックスラッシュ』!」


『バックステップ』で距離を取った所を魔法で狙い撃たれ、これ以上は無い。

 そう判断した瞬間、僅かな隙が生まれた。

 そこを最速の攻撃で斬った。


 ネロもなんとか耐えたはいいが、息を吹き返したルナとフィアの前にどんな攻撃を仕掛けても全て受けきられた。

 それから時間が経ち、フィアの魔法が二つともクールタイムから明けた。

 そうして最終戦は決着が着いた。


 最後、『ウインドカッター』は『猫ステップ』で回避されたが、『ウインドボール』がネロに直撃し、HPを削り切った。


 こうして模擬チーム戦は2勝1敗でオレたちのチームが勝った。

 それもこれもシエルとルナのおかげと言っても過言じゃ無い。

 この勝利は、オレたち三人が――ブランも含めて――本当の意味で“仲間”になれた証だと思う。


 ◆◇◆◇


「ミューラ、どう思った?オルフェウスのこと?」


「正直、弱くないけど、強くもない。ただ、妙なの。"慣れてない"のに――あの戦い方、"外の人間"……これに『エニグマ』が気づかないわけがない」


「ああ、その時、奴らの尻尾を掴めたら……」


「学園内では大人しくしてて。……それこそ、すぐ隣に目が光ってるかもしれないから」

次回、『指定ダンジョン挑戦』に続く

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