第34話 一緒に応援
迎えた模擬チーム戦当日。
場所は学園内にある闘技場。
ここでは、モンスター同士を自由に戦わせることができる。
昨日の今日で借りられるか不安だったけど、上級生はこの時期あまり闘技場を使わないみたいで普通に空きがあった。
今回、授業や学園行事に関係無く借りているので、バトル開始の合図は試合の無い四人の内誰かがすることになった。
初戦だけオレがやることにして、二試合目以降はその前の試合で負けた人が合図を出す。
「よーし初戦はボクだね」
シュッ!サッ!
「ブランちゃんはオルフェウスの邪魔になるから一緒にボクの応援しようね」
「キュイ!」
「前回の入学試験はブランちゃんがいなくて負けちゃったしね」
「キュイ?」
「ああ、ブランちゃんは何も悪くないよ」
「キューイ……?」
えっと普通、バトルに出る人と一緒に応援はしないんじゃ……
いや、シエルのやる事だし、気にしたら負けか。
ブランを抱きしめたままシエルはバトルフィールドへと向かう。
そこには既にこの模擬チーム戦 初戦の相手、ガイドくんがいた。
オレは念の為、二人に準備が出来ているか確認する。
「二人とも準備はいい?」
「うん、ボクは大丈夫!」
「……何でオルフェウスのモンスターであるブランがいるんだ?」
「そんなのボクの応援をする為に決まってるじゃん!」
「キュイ!」
「いや、応援なら応援席があるだろ……」
そう、ここ闘技場には大勢の観客が収容できる応援席が存在する。
開始の合図をするオレ以外の三人はそこで静かにバトルが始まるのを待っている。
「何言ってるの?ボクの腕の中が一番の特等席だからブランちゃんはここにいるんだよ!」
「キュイキュイ!」
「……まあブランが戦うとかじゃないならいいけど」
ガイドくんから何か諦めたような雰囲気が伝わってくる。
バトルが始まる前に対戦相手にここまで呆れられるとは。
シエルのもふも……ブラン愛 恐るべし。
「あ、すまない。俺も準備はできてる。いつでも始めてくれ」
「うん、じゃあ、バトル開始!」
「行くよ、オルク!」
「頼んだぞ、コルン!」
シエルはホブゴブリンのオルク、ガイドくんはコボルト?のコルンをそれぞれルームから召喚する。
斧を使うオルクに対し、コルンは右手に槍、左手に盾。
一概には言えないけど、斧みたいな重量武器は盾を持つ相手とは相性が良い。
ただ、ネメシスみたいに攻撃を受け流すスキルを取得している場合、話は変わる。
「先手必勝!コルン、『ガードピアース』!」
「オルク、躱して!」
「ゴブ!」
シュッ!
「まだまだ。『スイープスピア』!」
左手で持つ盾を前に構え、猛烈な勢いで突進し、槍を突き出すコルンの一撃を最低限の動きで回避するオルク。
しかし、それを見越していたかのように身体を回転させ、槍で全方位を薙ぎ払う。
身体を回転させる分、体勢が不安定だった為、攻撃による受けた衝撃が少なかったオルクは直ぐさま反撃に転じる。
「『パワーブレイク』!」
「っ!?『シールド』!」
ガキンッ!!
「そのまま『スタンアックス』!」
『スイープスピア』でオルクにもう少しダメージを与えられると思っていたのか、コルンの反応、それからガイドくんの指示が遅れる。
オルクが放った『パワーブレイク』は、振り下ろす斧の軌道に衝撃波が走り、敵の盾を強烈に叩きつけた。
そして追撃の『スタンアックス』がコルンを襲う。
「うっそ!?」
「キュイ!?……??」
オルクの攻撃はコルンの盾を掻い潜り、確実に決まった。
しかし、目の前の光景を見たシエルは驚きのあまり声に出てしまった。
対してブランは勢いで驚いたはいいが、シエルが何に驚いているのか理解できず、頭の中は?で埋め尽くされている。
「全然HPが減ってない!」
そう、『シールド』を使い、盾越しとはいえ『パワーブレイク』を受け、直後に『スタンアックス』がコルンには直撃している。
それなりにHPが減っていてもおかしくないが、現状 残り8割ほど残っていると思われる。
「そりゃあ物理防御力にSPを厚く振ってるからな。一度や二度 攻撃が直撃したくらいじゃコルンは倒せない」
「キュイ?キュイキュイ」
「はう!ブランちゃんがボクの応援をしてくれてる。幸せ~」
「……コルン、『スタンピアース』!」
油断と隙しか無いシエルを余所にガイドくんは指示を出し、コルンが攻撃を仕掛けるが、一つ大事なことを忘れていた。
シエルには油断と隙しか無いけど、オルクもそうだとは限らない。
「ゴブ!」
「なっ!?」
油断と隙しか無いシエルを見てチャンスと捉え、視野が狭くなった事が災いした。
防御を捨て、攻撃に全てを注いだ一撃はいとも容易くオルクに回避される。
そしてスキルを使っていない通常攻撃によるカウンターをもろにくらう。
オルクはこれまでの戦闘でスキルを使わずに戦う事の重要性をネメシスから伝授されていた。
常に指示待ちではいざという時に致命傷をもらう事がある。
かと言ってスキルを使ってしまうと主の意に反して、作戦を台無しにするかもしれない。
ならばこそ、通常攻撃のみで戦うことで最高の結果をたぐり寄せる事ができる。
「キュイキュイ」ペチペチ
「はっ!ブランちゃんが可愛すぎて可愛死するとこだった。……オルク、その調子だよ!」
「キュイキュイ!」
「ゴブ!」
「ブランちゃんの応援を無駄にしない為にもオルク、ここで一気に決めるよ!『アックスクラッシュ』!」
「……よし。コルン、立て直して『シールドカウンター』!」
通常攻撃を巧みに使い、オルクが戦局を有利に進めていたこともあり、一気に決めに掛かるシエル。
だが、これは意図して作られた状況。
それもこれもカウンターをもらい、戦局が傾いたあのタイミングから。
誰もがオルクの攻撃が決まったと思ったが、ダメージを受けたのはコルンではなく、オルクだった。
完璧なタイミングで盾を使ったカウンターが決まった。
今の一撃でオルクのHPが一気に半分以上削られた。
しかし、コルンもまたこれまでの戦闘でHPが削られているので、状況は五分。
不用意な攻撃はカウンターの餌食となる可能性がある。
それだけで強力な攻撃スキルは使いづらくなる。本来なら。
「『シールドカウンター』はクールタイムに入って直ぐには使えない。なら今が最大のチャンスだよ!オルク、『スマッシュブレイク』!」
「それならこれで決める!コルン、『カウンタースピア』!」
馬鹿の一つ覚えと言わんばかりに正面から突っ込むオルクに対し、盾を前に構え、槍を引くコルン。
オルクが間合いに入ると同時に槍のリーチを活かしてカウンターを決める腹積もりなのは誰の目から見ても明白。
案の定、オルクの放った『スマッシュブレイク』はカウンターの餌食となる。
「『スラッシュ』!それから『アックスハンマー』!」
「はっ!?」
シエルは何の考えも無く、オルクに攻撃指示を出したわけじゃ無かった。
『カウンタースピア』に対して『スラッシュ』を上から叩きつけ、槍の軌道を逸らす。
槍はどうしてむ突き技が多くなる。
突きと力任せに上から叩きつけた攻撃とでは、どちらに軍配が上がるのかは明白。
コルンの槍は勢いを殺され、盾による防御すら間に合わないタイミングで『アックスハンマー』が炸裂した。
オルクの通常攻撃で着々と削られていたコルンのHPはこれで0となった。
「勝負あり。第一試合はシエルの勝利」
「やったよ!ブランちゃん!」もふもふ
「キュイキュイ!」
……シエル、やっぱりただのブラン好きじゃないんだな。
この勝利はブランの応援だけじゃない、シエル自身の努力の結晶かもしれないな。
次回、『無敗の神話、勝利の女神は炎の中に消える』に続く