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《モンブリ》~進化のたびに広がる、オレとモンスターの世界~  作者: 夕幕
第1章 アルカディア王立学園 1年生編
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第19話 ブランちゃんの為なら

 マザーピグを倒したオレたちはボス部屋に出現した転移魔法陣でダンジョンの外に出る。

 その後、ここでスモールピグと昨日『亡者の墓場』で手に入れたクリスタルを学園内にある学園関係者専用のブリーダーショップで売却した。

 お金は三等分して三人でキレイに分け、今日のところは解散の運びとなった。


 それにしてもこの辺りは初めて来たかも。

『亡者の墓場』の時は手に入れたクリスタルを売却せず、ネメシスを仲間にした手続きをして解散したからね。

 いろんなお店が並んでて活気のある商店街みたいだな。

 まあ、中には商店街には不釣り合いなお店もあるけど……

 いや、あれはお店じゃなくてお屋敷か。


 寮の門限まであと10分くらい。

 寄り道してる時間は無いし、早く帰らないと思った瞬間、ブランが偶然、横を通りかかったお店のディスプレイに展示されている商品を見て目を輝かせる。


「キュイ〜!キュイキュイ!!」


 オレの腕の中から身体を前のめりに出し、ガラスにキュイ〜キュイキュイ!!と顔を押し付けている。

 余っ程気に入ったんだろうなと思ってブランが何に目を輝かせているか確認する。


 白い鏡かな?あと白いブラシ。あ、商品説明かな?何かプレートに書いてあるえっと、なになに、最高品質の素材を厳選した職人の手作り。

 うん、これ絶対にお高い商品だよね。

 えっと、ちなみにお値段は……

 うん、帰ろう。


「ブラン、今日はもう時間が無いから帰るよ」


「キュイ!キュイキュイ!!」


「お金が無いので、買えません」


「キュイィ!?」


 その瞬間、ブランの顔から色が抜けた気がした。

 耳が垂れ、しっぽがゆっくりと下がる。まるで雷に打たれたみたいだ。


「キュイィ……」


「よしよし、いい子だからもう少し待ってね。お金が貯まったら買ってあげるから」


「キュイィ……」


 あ、ダメだ。ショックが大き過ぎて立ち直れなさそう。


 夕食の時も、部屋でくつろいでいる時もブランに元気は無かった。

 極めつけは翌日の授業中にブランが一切寝ることがなかった。

 昨日はあれだけ気持ちよさそうに寝ていたというのに。

 それもあってみんな心配してる。


「キュイィ……」


「ブランちゃん、元気ないね」


「うん、しばらく立ち直れないかも」


「オルフェウス、昨日あれから何があったの?」


「実は……」


 ルナとシエルにブランの元気がない理由を全て話した。


「うーん、鏡とブラシか。あの通りにあるなら朱雀すざくさんのお店かな」


「話を聞いた感じそうじゃないかしら?金額的にも」


 ん?朱雀さん?もしかして、有名な人なのかな。

 初耳だけど、ルナとシエルの反応を見る限り、かなりの有名人ぽいな。


「えっと、その朱雀さんって誰?」


「あ、そっか。オルフェウスは知らないよね。朱雀さんは世界一の鏡・ブラシ・櫛職人だよ。朱雀さんのお店の商品は女の子なら誰でも一度は欲しいと思う贅沢品。それに目をつけるとはブランちゃんもお目が高い」


「へえ、そうなんだ。……ん?」


 世界一の鏡・ブラシ・櫛職人?

 え、何そのよくわからない職人さん。

 鏡職人とかブラシ職人、櫛職人とどれか一つならまだわかるよ。

 鏡にブラシに櫛……素材も製法も全部違うはずなのに、それを一人で極めるってどういうこと?


「三人でお金を出し合っても買えるような金額じゃないし、かといってブランをこのままにはしておけないし……」


「うーん、うーん、うーん……でも、これもブランちゃんの為……そうブランちゃんの為ならこれくらい……」


「キュイィ……」


「うん、決めた!ルナ、学園クエストの報酬だけど……」


「……え?シエル、あなた熱でもあるの?」


「ちょっとボクはいつも通りだよ!それってどうなのさ?ひどくない?」


「ごめんごめん。あ、そうそう私はいいわよ。シエルが本当にそれでいいなら」


「ありがとう、ルナ。これもブランちゃんの為……」


 はぁ、オレにもっとお金があればな。

 そしたらブランがここまで落ち込むことも無かったのに。

 鏡とブラシ合わせて50万ユルドか。

 今の持ち合わせは1万とちょっと。

 単純計算だとあと49万くらい足りない計算になる。

 それだけ稼ぐのにどれだけ時間が掛かるかな。

 毎日の食費、寮の家賃、毎月の授業料を払って残りを全部貯金に回しても1、2年は最低でも掛かるよな。

 下手すると卒業してもまだお金が貯まってない可能性すらあるよな。


「オルフェウス!今からフォルリオ先生の所に行くよ。ブランちゃんの為に!」


「え、それってどういう……」


「いいから一緒に行くよ」


 シエルに連れられてオレたちはフォルリオ先生を訪ね、職員室へと向かった。

 未だに上の空のブランも一緒に。

 職員室に入るとシエルがフォルリオ先生に要件を説明していたが、要領を得ず何も伝わっていない様子だったが、ルナが通訳することで話がようやく伝わった。

 そして場所を変えて話の続きをすることになった。


「キュイィ……」


「ブラン、少しは元気出してよ」


「キュイィ……」


 はぁ、ダメか。全然、元気出してくれない。


 それから何故か場所を変える提案をしたフォルリオ先生に案内された場所は昨日と同じ会議室だった。

 正直、シエルとルナが何の目的で来たのかオレはさっぱり理解できていない。

 ルナがフォルリオ先生に説明している時はブランが心配で何も耳に入ってこなかった。


「では、改めてご用件を聞きましょう」


「今、私たちが受けている学園クエストの報酬を変更してくれませんか?」


「変更ですか?ふむ、それは構いませんが、わざわざ変更して欲しいと打診するということは何か希望があるのですか?」


「はい。朱雀さんのお店で販売している純白の鏡と純白のブラシでお願いしたいです」


「朱雀の鏡とブラシ……なるほど、そういうことでしたか。お力添えしたいとこですが、それはできません」


「何でですか?」


「同価値のものと報酬を変えるでしたらできる範囲で承ります。ですが、今回の場合、価値が乖離かいりし過ぎています。もふもふモンスターのクリスタルをお金に換算すると高くとも5万ユルドといった所でしょう。そこに別途お渡しする予定の4万ユルドを加えても9万ユルドにしかなりません」


 話ってそういうことだったの!?

 ブランの為にそこまでしてくれるなんて……

 でも、フォルリオ先生の言う通りだよ。

 もふもふモンスターのクリスタルは思ってたよりも価値が高いみたいだけど、金額換算すると41万ユルドも差がある。

 これって要は41万ユルド分、学園クエストの報酬を釣り上げて欲しいって頼んでるのと同じだよね。

 さすがそれはね?

 ルナとシエルの気持ちは嬉しいけど、オレが頑張ってお金稼いで1日でも早くブランに買ってあげるからさ。


 少しの沈黙の後、シエルが静かに口を開いた。


「フォルリオ先生、学園クエストって学園長が統括してますよね?なら、この話を学園長に通してもらえませんか?」


「……学園長にですか?正直、どうなるのか結果は見えていますが、それでも確認しますか?」


「お願いします!」


「え、ちょっと待ってシエル!?そこまでやるのはさすがに……。学園長もお忙しいだろうし、迷惑じゃ……」


「大丈夫!交渉ならボクに任せて。今までの人生で一回しか失敗したことないから」


 えっと、その失敗って昨日、ブラン相手にしてたお泊まり交渉の事じゃないよね?


 当のシエルの目は真剣そのものだった。

 ブランのためなら、何だってやってのける――そんな気迫が伝わってきた。

次回、『ブランちゃん、泣かないで』に続く

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