第17話 強さの秘訣
『石工の炭鉱』か『子豚の草原』のどっちを先に調査するか。
攻略難易度は両方変わらないし、出現するモンスターとの相性で考えるべきか。
『石工の炭鉱』に出現するモンスターはゴーレム。
物理防御力が高いモンスターの為、魔法攻撃が推奨されている。
物理防御力が高いだけで他のステータスはそこまで高くない。
その為、攻略推奨Lvは15に設定されている。
『子豚の草原』に出現するモンスターはスモールピグ。
文字通り、子豚が出現するダンジョン。
スモールピグはステータスが低めのモンスターで、攻略推奨Lvが15に設定されている理由はダンジョンボスが強いから。
オレたちの目的は攻略じゃなくて調査。
だからダンジョンボスと戦う必要は無い。
それならダンジョンボスが強いって理由で攻略推奨Lvが15に設定されている『子豚の草原』からがいいかな。
「最初は『子豚の草原』がいいと思うけど、どうかな?」
「ボクは大賛成!」
「うん、私も賛成。ここでLv上げを兼ねて調査を行いましょ」
ルナとシエルの了承を得たので、オレたちは『子豚の草原』に向かう。
その為、オレはネメシス、ルナはフィア、シエルはオルクをルームから召喚する。
「ブラン、ネメシスとは仲良くしてね。もし、できないならブラシと鏡は買ってあげないよ」
「キュイ?」
「ダメ」
「キュイ!?キュイキュイ」コクコク
「よろしい」
よし、これでダンジョン内でブランとネメシスの連携が取れず、ルナとシエルに迷惑を掛けることは無さそう。
「えぇ、ブランちゃんの為ならそれくらいボクが……」
「はーい、シエルはちょっと大人しくしててね。じゃないともふもふモンスターのクリスタル、私がもらうよ。私も早めに2体目のモンスターを仲間にしたいし」
「……」
「よろしい」
こうして全ての問題が解決?したとこで『子豚の草原』のダンジョンゲートの前に到着した。
ダンジョンゲートを潜り、中に入ると見渡す限り、障害物一つ存在しない草原が目に入った。
「『亡者の墓場』は墓の後ろに隠しエリアへ繋がる階段が隠れてたけど、ここはどうだろう?」
「まだ隠しエリアがあるって決まったわけじゃないわよ」
「ルナの言う通りだよ。調査をする上で先入観は禁物。オルフェウス、覚えておくといいよ」
「うん、ありがとう」
そうだよね。
フォルリオ先生も異質なエネルギーが検知されたダンジョンの一つ、『亡者の墓場』から隠しエリアが発見されたから可能性の一つとして教えてくれたに過ぎない。
もっと集中しないと。
これじゃあ、オレが二人の足を引っ張ることになる。
とりあえず、ダンジョンボスがいるボス部屋まで行ってみることに。
その道中、スモールピグという子豚がオレたちの前に立ち塞がった。
「プピー!」
「ブラン、『ジェットアタック』!ネメシスは『ダークスラッシュ』!」
「フィア、『ソニックスラスト』!」
「オルク、『スマッシュブレイク』!」
「プピ、プピ、プピプピー」
フォルリオ先生の情報だとスモールピグはステータスが低く、大して強くないってあったけど、ブランとネメシス、それにフィアとオルクの攻撃までもが容易く躱された。
でも、スモールピグの動きはそこまで速くない。
なのに何で攻撃が全部躱されるんだ?
「うっそ!全部躱された!何で?そんなに動きが速いわけじゃないのに」
シエルもオレと同じことを思ってたみたい。
たぶん、ルナも口に出さないだけで同じことを考えてると思う。
今の動きからして素早さのステータスは恐らく、ブランやネメシスの方が上。
フィアと同じくらいかな。
素早さでは負けていないはずなのに、攻撃はすべて空振り……何でだ?
「こうなったら当たるまで攻撃あるのみだよ!オルク、『スラッシュ』『スタンアックス』!」
「フィア、『ソニックスラッシュ』!」
「ブラン、『体当たり』『つつく』!ネメ、シス……?」
スモールピグとの戦いの最中、ネメシスだけがスモールピグに背を向けている。
いや、オレを見ているのか。
何かオレに伝えたいことでもあるのかな。
「ネメシス、何かあるの?あるなら何でも言って!」
「……主様、このままでは勝てる戦闘にも勝てません」
このままでは勝てない?
「ネメシス、何でこのままだと勝てないと思うの?」
「主様たちは攻めに意識を割き過ぎです。戦闘には攻めだけでなく、守りも存在します。それを見失っては勝てるものも勝てません」
「キュイ、キュイキュイ!」
「確かにブランの言うことにも一理あります。ですが、私と戦った時のことをお忘れですか?」
「キュイ?キュイ」
えっと、いつの間にかオレとネメシスの会話にブランが入ってる。
君、いつの間にそんな風にネメシスと会話できるようになったの?
もしかして、仲良くしないとブラシと鏡を買ってあげないよって言ったから?
ちょっと露骨過ぎる気もするけど、仲良くしてくれるなら何でもいいや。
それよりもブランが何を話しているのか通訳がないとわからない。
「主様は覚えていますか?昨日、私と戦った時のことを」
昨日、ネメシスと戦った時のこと?
さすがに昨日の今日で忘れたりしないよ。
「うん、覚えてるよ」
「主様は私が強いと感じましたか?」
「うん、ブランだけじゃ勝てなかった。フィアとオルクがいて、新しいスキルを取得してようやくって感じ。今まで戦ったモンスターの中で一番強かったよ」
「何故、主様は私を強いと思ったのですか?それが今のままではスモールピグに勝てない理由です」
オレがネメシスを強いと思った理由……
そりゃあ、とにかく攻撃を受け流されて、こっちが体勢を崩した所を的確に攻撃してくるから。
ただ、数的有利を活かしてどうにかこうにかしたけど。
……あ、そういうことか。今みたいに闇雲に攻撃してたらダメだ。
連携して攻撃しているつもりだったけど、そうじゃない。
「攻撃を回避できない状況を作ればいいのか」
「主様、ご指示を」
「うん。ルナ、シエル、少しの間、オレに任せてくれないかな?」
「そうね。サボってた分、働いてもらおうかしら。フィア、少し休憩」
「あ、それならブランちゃんはボクと一緒に……」
「キュイ!」
えっと、今の今までフィアとオルクに任せきりになってたし、俺一人で戦うのはいいけど、ブランはこっち側でしょ。
あのぉ、シエルさん?せめてブランだけは……
「もふもふ~」
「キュイ~」
「主様、ブランがおらずとも問題ありません。私だけで十分です」
「わかったよ。じゃあ、任せるよネメシス」
こちらの思惑など関係無しに先ほどまで戦っていたフィアに攻撃を仕掛けるスモールピグだったが、間にネメシスが割って入る。
そしてカウンター狙いで剣を振るが、スモールピグが咄嗟に身を引いたことで空振りに終わる。
次の瞬間、猛烈なスピードでスモールピグとの間合いを詰めるネメシス。
それに対し、スモールピグは動かず、待ちを決め込む。
ギリギリまで引きつけてネメシスの動きとは反対に動く気か。
これだと先に仕掛けたネメシスの方が駆け引きとしては不利じゃ。
しかし、ネメシスは剣の間合いにスモールピグを捉えていないにも関わらず、剣を振る。
ただ虚空を斬っただけに見えるが、実際には斬撃を飛ばす『飛閃』を発動していた。
まだ間合いの外にいると思い、攻撃が届くことは無いと油断していたスモールピグに『飛閃』が直撃する。
間髪入れずに一気に間合いを詰め、今度は『ダークスラッシュ』を発動し、斬る。
素早さのステータスではネメシスがスモールピグを上回っていることもあり、形勢が変わることは無かった。
ネメシスの剣閃は、風を切る音とともにスモールピグの身を何度も掠め、ついに最後の一撃がその身体を斜めに切り裂いた
その場にプピーと小さな悲鳴が響く――静かに、決着はついた。
次回、『マザーへの反抗』に続く