第109話 暴蔓樹グローダイン
巨大なモンスターが目の前に現れた。
そう思ったけど、よく見るとモンスターなのか疑う外見をしていた。
「……巨大な樹だよね?」
一瞬、モンスターがどうか疑った。
でも、HPが存在する上にそこにしっかりと名前が記されていた。
暴蔓樹グローダインと。
ゲームでよく木に擬態するモンスターとしてトレントがいる。
情報が少ない分、そういうモンスターも警戒しないとと思ってたけど、さすがにこれは予想外すぎる。
「なっ!?」
「退路を断たれた!?」
突然のことで戦うか、それとも引いて逃げるか迷っていたら、樹の根が四方に張り巡らされ、完全に囲まれた。
樹の根が張ってるわけだから、乗り越えれば外に出ることはできるけど、幾重にも重ねられて高さ数メートルの壁になっている。
ブランやフィアがスキルの推進力を使って、上に加速すれば、乗り越えることはできる。
だけど、ネメシスをはじめ、それができないモンスターもいる。
それにブランやフィアも邪魔が入らなければ、できるけど、グローダインがそれを黙って見ているわけない。
正直、今 何もしてこない事すら不気味だ。
風もなく、ただ樹々の軋む音だけがどこからともなく聞こえてくる。
「ん?……!後ろ!」
「え?」
ルナの声に反応し、オレとシエル、ブランたちも後ろを振り返る。
すると、オレたちを囲っていた樹の根からニョキニョキと別の根が伸びて、襲い掛かってきた。
「フィア、『ソニックスラッシュ』『チャージスラッシュ』!ルシウス、『ソードクラッシュ』!」
「オルク、『アックスハンマー』『アックスクラッシュ』『パワーブレイク』!ウィル、『大地叩き』『牙穿』」
「それなら、ブランとネメシスは正面にいるグローダインに集中して!」
いち早く気づいたルナがフィアとルシウスに迫り来る樹の根を斬り払うよう指示を出す。
その後を追うようにシエルはオルクとウィルに指示を出す。
最も出遅れたオレは状況を鑑みて、前方にいるグローダインを牽制する役回りが必要だと思ったからブランとネメシスにはそう伝えた。
こっちの死角からの攻撃を警戒して、迂闊には攻められない。
オレとしては、攻撃してくれたら、ネメシスの『返刃ノ構』でグローダインの背後を取れるからありがたい。
それにあまりじっと待ってられない子もいるし。
「キュイ?」
「まだですよ」
「キュイ……」
まだグローダインが姿を見せて1分くらいしか経ってないと思うけど、既に我慢できなくなってる。
耳がペタッとなって、明らかに集中できていない。
仕方ない。
こっちから仕掛けるか。
「ブラン、『ジェット・ブレイクスルー』!ネメシスはブランのフォローお願い!」
「キュイ!」
攻撃指示を出すと、途端に元気になって一直線にグローダインへ突っ込む。
ブランほどの速さは無理だけど、ネメシスも後を追う。
グローダインもこっちから攻撃する素振りを見せた瞬間、周囲を囲んでいる樹の根ではなく、巨大樹付近にある根を鞭のように振る。
「キュイー!!」
ブランは、鞭のようにしなり、迫り来る樹の根の上に飛び乗り、その上を懸命に走る。
それにより、ネメシスに向けられていた根が全てブランへと狙いを変えた。
急に狙いを変えた?
でも、どうして……いや、今 理由を考えても答えはわからない。
ここはネメシスが自由に動けることをプラスに捉えよう。
「ブラン、樹の根をできるだけ引き付けて!」
「キュイ!」
「ネメシス、『斬哭冥華』!」
ブランが樹の根の上を器用に動き回ることで、グローダインの意識は確実にブランに向いている。
そうして、できた空間からネメシスが連撃を叩き込む。
ブオン――!!
突如、グローダインの幹が裂けた。
裂けた部分から溢れ出すのは、無数の光る花粉。
そして、中央に鎮座している目玉。
見た瞬間、あの目玉が弱点だと思った。
だから、即座にネメシスに攻撃するよう指示を出した。
「ネメシス、『葬翼』!」
地上数メートルの位置にある目玉を攻撃するには、遠距離攻撃スキルしかない。
だから、迷わず『葬翼』を指示したけど、ネメシスは剣を手放していた。
その手はわずかに震え、身動きをとることすらできていなかった。
なんで動かないのか直ぐにはわからなかったけど、HPバーを見てわかった。
何かしらの状態異常が付与されていると。
今まで一度も見たことないアイコンの状態異常だけど、ネメシスの様子からして麻痺かそれに近い何かだと思う。
ネメシスが動けないなら、ブランに狙ってもらうしかないけど、どうやってもあの高さは攻撃が届かない。
それに、あの花粉に触れるとブランも麻痺になる可能性がある。
「フィア、目玉に向かって『ウインド・セヴァランス』!」
後方から風属性の魔法が花粉を吹き飛ばしながら、目玉に直撃した。
直後、ネメシスが震える手で地に落ちた剣を拾った。
「ネメシス……いける?」
ネメシスは、わずかに頷いた気がした。
「なら、『葬翼』!」
いつもより動きは鈍い。
ネメシスが剣を握ると同時に樹の根が狙いを定め、襲い掛かろうとする。
「キュイキュイ!!」
しかし、それはブランが『ホーンラッシュバースト』で全て角で突いたり、脚で蹴り飛ばしたりし、ネメシスには掠りもしなかった。
「ブラン……」
これを見た瞬間、どこか嬉しかった。
指示されてじゃなくて、自分からネメシスを守ろうと行動したことに。
しかも、ちゃんとネメシスが攻撃できるように場所を空けるという気配りまで。
「ネメシス!!」
「キュイキュイ!!」
ネメシスの足元の影が広がり、空間を侵食するようにグローダインを飲み込む。
そして、不可視の斬撃が直撃し、鈍重の付与に成功する。
その瞬間、後方でオルクたちが凌いでいた樹の根による猛攻が緩まった。
明らかに動きが鈍くなっていた。
「ブラン、ネメシス、ありがとう!ネメシスは一旦、下がって!」
「キュイ!」
「承知しました」
「ルナ、これならオルクとウィルで対処できるからブランちゃんと一緒に向こうをお願い」
「わかったわ。こっちは任せたから」
フィアとルシウスがこっちに合流してくれたことで、ブランの負担が大きく減った。
一番大きいのは、フィアが遠距離から安定して攻撃できるってとこ。
戦局に応じて、近接戦に加わってくれるのも大きかった。
そのおかげでネメシスもゆっくり休んで痺れを取ることができた。
ネメシスが復帰してからは、より安定して戦闘を進められた。
それに加えて、攻撃の度にデバフと状態異常を悪化させることができる。
時間をかけてコツコツと削り、花粉はフィアの風属性の魔法で吹き飛ばすことで対処でき、グローダインのHPも削り切って、無事倒すことに成功した。
次回、『擬態と奇襲』に続く




