第10話 隠しエリア
え、学園内にダンジョンがある?
ルナとシエルが帰省している時、一人……
「キュイ!」
ブランと一緒に図書館に籠もっていろいろと調べていたけど、ダンジョンが学園内にあるなんて今、初めて知った。
よしよし、ブランのこと忘れてないよ。
でも、図書館でブランは甘えてただけで調べ事はしてないでしょ?
「キュイ?」
そんな上目遣いで可愛い子ぶってもオレは可愛いさに屈しないよ。
……あ、よくよく思い返すとブランもしっかりと調べ事してた気がする。
「キュイ!」
よしよし、いい子いい子。
「キュイ~」
「あぁ~可愛い~……あ、学園内にはボクたちでも攻略可能な低難易度ダンジョンから超高難易度ダンジョンまで一通り揃ってるんだよ。それでルナはどのダンジョンに挑戦するの?」
「攻略推奨Lvが未進化10の『亡者の墓場』はどう?魔法とか遠距離攻撃を使うモンスターが出ないから今の私たちに丁度良いと思う」
「ボクは大丈夫だよ」
うん、シエルのあれはスルーするんだ。
オレもそうしよ。
「何で攻略推奨Lvが未進化10のダンジョンなの?ちょっとLv足りてないけど」
「ここがLv上げに一番最適なの」
「へぇ、そうなんだ。あ、それとダンジョンの名前的にアンデッド系モンスターが出る感じかな?」
「そう。ゾンビとスケルトンね」
ゾンビやスケルトン。
ファンタジーだとそこまで強いモンスターじゃないね。
うん、それなら今のオレたちでも大丈夫かな。
「うん、オレもいいと思うよ。早速、挑戦しよ」
こうしてオレたち三人は『亡者の墓場』に挑戦することに。
意外なことに寮からさほど遠くない場所にダンジョンはあった。
まさかこんな近場にあるとは思いもしなかった。
もっと学園内のどこに何があるか調べておくべきだったね。
「ここが『亡者の墓場』の入口」
ここがダンジョンの入口……
なんか思ってたのと違う。
地下に潜る階段とか洞窟とかそういうのをイメージしてたけど、これって門だよね。
しかも門の中が光ってる。漫画とかアニメじゃ転移門って呼ばれるやつでしょ。
これが他にもたくさんある。
それら一つ一つに立て看板でダンジョン名らしき名前が記されている。
今、オレたちの前にも『亡者の墓場』と記された立て看板がある。
「ダンジョンの出入口はダンジョンゲートって呼ばれてるの。オルフェウスも覚えておくといいよ」
門を潜ってダンジョンに入ると景色が一変した。
まるでハイクオリティのお化け屋敷のよう。
所々に墓地があって人魂らしきものが浮かんでいる。
不気味な場所だ。
「キュイ〜!!」
何故かこれを見て目を輝かせている子がいる。
こらこらオレの腕の中ではしゃがないの。
危ないから大人しくしてね。
「キュイ……」
頬を膨らませて鳴いてもダメ。
……ちょっとだけだからね。
オレはブランをそっと地面に下ろす。
「キュイ!」
楽しそうにキュイキュイはしゃぐブラン。
不気味な場所だけど、何故か和やかに見える。
きっとブランが可愛いからだろうな。
「ブランちゃん、気をつけてね。ゾンビは地中から這い出てくるから」
ドサッ!!
「……早速お出ましね」
オレたちの直ぐ近くにあった墓地の前の地面から突如として右手が出てきた。
気づいたら地面からゾンビが1体這い出ており、こっちに向かって来る。
あれ?思ってたよりもグロくないかも。
かなりデフォルメされてて、普通の人間と肌の色が薄緑色と違うくらい。
でも、なんか妙にきびきび動いてて気味が悪いな。
「フィア、『ソニックスラッシュ』!」
「オルク、『スタンアックス』!」
「ブラン、『ジェットペック』!」
動きは遅く、防御力も低い。
今の攻撃で簡単に倒せてしまった。
正直、ちょっと拍子抜け。
「まだだよ」
「え?」
シエルの言葉の意味が最初、わからなかったけど、直ぐに理解できた。
次から次へとゾンビが地中から出てきた。
「ブラン、『ジェットアタック』!」
1体1体はそこまで強くないから時間は掛かったけど、なんとか倒しきれた。
でも、あれだけの数を倒したからブランたちのLvが一気に10まで上がった。
挑戦する前にルナがLv上げに一番最適なダンジョンと言っていた理由がわかったよ。
「キュイキュイ」
よしよし、頑張ったね。
「キュイ〜」
奥に進むとゾンビは出なくなり、今度はスケルトンが出てくるようになった。
スケルトンもゾンビと同じで数は多いけど、ステータスは低く、大して強くなかった。
フィアとオルクが先行してオレたちはその後をついて行くとオレの腕の中で大人しくしていたブランが抜け出してしまう。
しかも道が存在しないあらぬ方向へそのまま駆け出してしまった。
仕方なく、オルクが先行する形でブランを追いかける。
オレたちはフィアと一緒にその後を追うが、ブランを見失い、引き返して来たオルクと合流する。
「ゴフゴブ、ゴブゴブ……」
「そうでしたか。どうやら途中でブランが消えたそうです」
「ありがとう、オルク」
うーん、どうしような……
オルクが追いかけても見失う。
いや、フィアはブランが消えたって言ってた。
とりあえず、オルクにブランが消えた場所まで案内してもらう。
「ゴフゴブ」
「この辺りでブランが消えたようです」
「ブランの素早さがオルクより高いとはいえ、急に消えるとは思えない。この辺りに何か仕掛けみたいなものがあると思うけど……」
手分けしてブランの足取りを探したら何の変哲もない墓の後ろに隠れるように地下へ繋がる階段があった。
「『亡者の墓場』にこんな場所があるなんて聞いたことない……もしかして隠しエリア?」
「うーん、隠しエリアだとしてもこの先にブランちゃんがいるなら行かなきゃ!」
「そうね」
オレたちはブランが地下への階段を降りた先にいると信じて進む。
階段を降り切ると人工的に作られたであろう地下通路に出た。
所々にある松明のおかげで真っ暗闇ではない。
一本道を真っ直ぐ進むとキュイという泣き声が聞こえてた気がした。
それから程なくしてキュイキュイと泣いているブランがオレの腕に飛び込んで来た。
勝手に飛び出して泣いて帰って来るとは……
無事に帰って来たし、よしとするか。
よしよし、もう怖くないよ。
「キュイ、キュイ……」
「よかった!無事にブランちゃんが見つかって」
「それじゃあモンスターと出会す前に戻りましょ……」
泣いているブランを抱き抱え、来た道を戻ろうと振り返ったら目の前に通路を塞ぐ壁があった。
ブランが何で引き返して戻って来なかったか疑問だったけど、こういうことか。
戻りたくても戻れなかった。
それでこんなにも泣いてるのか。
「こうなったら隠しエリアのボスモンスターを倒すだけね」
「うん、これだと先に進むしか道は無いしね」
そういえば、地下への階段を下りる前にもルナがここを隠しエリアって言ってたよね。
隠しエリアといえば、ダンジョンの定番ギミック。
定番だと宝箱があって強力な武器とかアイテムが手に入るけど、ルナの話的に強力なモンスターが待ち受けてそう……
「ルナ、シエル、隠しエリアって何?」
「え、ああ、まだ教えてなかったわね。隠しエリアはダンジョンに存在する隠された場所のこと。そのままの意味よ」
「それと隠しエリアにはダンジョンボスと同等かそれ以上に強いモンスターがいる。ボクたちはそれをボスモンスターって呼んでる」
「ボスモンスターさえ倒せれば、外に出られるわ」
「なるほど。ありがとう」
戻れない以上、先に進んでボスモンスターを撃破するしか道は無いってことか。
次回、『VSリヴィングゾンビ』に続く