第1話 すべての始まり
この世界に来てから、いろんな事に巻き込まれた。
アルカディア王立学園への入学、ルナのチーム離脱、『エニグマ』に纏わる事件、魔人との戦争、サイバーンとの死闘――そして、天上界への遠征。
気がつけば"世界を解放した英雄"なんて呼ばれている。
でも正直、自分ではそこまでのことをしたつもりはない。
オレにやれる事を一生懸命やっただけ。
……ただ、あの日。
何気なくゲームを起動した――それが、すべての始まりだった。
◆◇◆◇
やったー! ついに《モンブリ》買ってもらえた!
中間テスト、ほんっとうに大変だったけど、頑張った甲斐があった〜。
成績が少しでも下がったらアウトって言われてたし、マジでプレッシャー半端なかった。
このゲーム、SNSでめっちゃ話題になってたけど、実は内容ほとんど知らない。
たしか、モンスター育成系……だったよね?
SNSじゃモンスターを自分好みに育成できる神ゲーって言われてるよな。
たまたま見たCMがきっかけでずっと気になってたんだよね。
とにかく、やってみればわかるっしょ!
そう思って、ゲームカセットをセットする。
――ピッ。
画面が暗転し、幻想的なBGMが流れ始めた。
うわ、グラフィックやば……。
お城、森、村、フィールドを歩くモンスターたち。
ショートボブの金髪の子と、虹色の髪のロングヘアの子が登場――どっちもめっちゃ可愛い。
これはヒロイン枠か?
見とれているうちにムービーが終わり、「GAME START」の文字が浮かび上がる。
よっしゃ、いくぞ!
画面をタップした瞬間――
視界が滲んだ。音も光もぐちゃぐちゃに混ざって、脳がバグるような感覚。
気づけば、森の匂いが鼻を突いた。
……え?
気がつくと、見知らぬ森の中に立っていた。
風が木々を揺らし、肌に感じる空気がやけにリアル。
耳に届くざわめきや、葉の匂いまで……まるで本物みたいだ。
周囲には、子どもや、オレと同じくらいの年齢の人たちが立っている。
「それでは、これから皆さんにはモンスターを召喚してもらいます。必要なクリスタルを配布しますので、一列に並んでくださーい」
……クリスタル? モンスター? なにそれ、説明なし!?
いやいやいや、オレまだゲーム起動しただけなんだけど!?
なんでこんな展開になってんの?
「ちょっと、後ろ詰まってるよ」
「あ、ごめん!」
振り返ると、そこにいたのは――オープニングで見た、あの金髪ショートボブの女の子だった。
……マジで? ってことは、ここ……《モンブリ》の世界?
空気も、音も、景色も、ぜんぶリアルすぎる。
これ、夢じゃないよな……
まさか、ゲームの中に入っちゃった? 異世界転移とか、ゲーム転生とか……アニメでよく見る、あれ?
列がどんどん進んでいき、ついにオレの番が来た。
スタッフっぽい男の人が、手のひらサイズの透明な石を渡してくる。……これがクリスタル?
「そのクリスタルでモンスターを召喚してください。心を込めて願えば大丈夫ですよ」
ざっくりすぎる説明に思わずツッコみたくなるけど……とりあえず他の人の様子を見るか。
「出でよ、モンスター! ――よし、オーガだ!」
「お願い、来て! ……やった、フェアリー!」
「ふむ、ウルフか。悪くない」
なるほど。掛け声とイメージで召喚って感じか。
よし、オレもやってみるか。
「えーっと……出てこい、モンスター!」
クリスタルが眩しい光を放ち……その瞬間、周囲の空気がピンと張りつめたような感覚が走った。
え、今、なんか変な音しなかった? ……気のせい?
思わず目を細めた――
その光の中から現れたのは、白くて、ふわっふわで、ちっちゃいウサギ……みたいな生き物。
しかも額には一本、立派なツノが生えてる。
「キュイ!」
元気よく跳ねて、オレに飛びついてきた。うわっ、ふわっふわ……!
「その子は"角兎"ですね。あまり見かけませんが、育て方次第では大化けすることもありますよ。大切にしてあげてください」
ツノウサギ……見た目は完全にペット。でも、この可愛さ、反則級だろ。
「キュイキュイ~」
頭を撫でると、喉を鳴らしてうっとりしてくる。……やば、癒される。
これがリアル《モンブリ》……
「このクリスタルで召喚したモンスターは、学園への入学資格となります。
では、次に三人一組のチームを作ってもらいます。ちょうど九人ですので、三組できますね」
……え、学園? チーム? なにそれ、初耳なんだけど。
オレが戸惑ってる間に、周りの子たちはどんどんグループを作っていく。
そして、最後に残ったのが――オレ、金髪ショートボブの女の子、それと……
カラフルなロングヘアに、虹色の瞳をした、もう一人の女の子。
……この子も、オープニングムービーに出てたよな?
「三組できましたね。では皆さんには、一か月後に行われる“アルカディア王立学園”の入学試験をチームで受けてもらいます」
が、学園……入学試験……ってことは、これ、学園モノ!?
え、そういうストーリー展開だったのか!
「合否はチーム単位で判定されます。モンスターの育成だけでなく、チームワークも評価対象になります。しっかり頑張ってくださいね」
チームワークまで!? めっちゃハードル高いんだけど!
気がつけば、自己紹介タイムに突入していた。
「私はルナ。モンスターは……見ての通り、エルフ。よろしく」
金髪ショートボブの子が落ち着いた声で名乗る。
スッと背筋を伸ばして凛とした存在感があった。
まるで物語に登場するお姫様みたい。
「よろしくお願いします」
って、えっ!? モンスターが……喋った!?
うわ、すご……喋るモンスターもいるのか!
「ボクはシエル。モンスターはゴブリン。よろしくね」
虹色の髪の子はシエル。
にっこり笑って手を差し出してくる。
無邪気な声色なのに、その瞳だけは妙に透き通っていて――見透かされているような気がした。
「ゴブ」
小さいけど鋭い目をしたゴブリン。……なんか強そう。
そして、ふたりの視線がオレに向けられる。
「最後は君だよ。自己紹介してくれるかな?」
あ……そういえば。
オレ、ゲーム起動したばかりで、名前とかまだ入力してないよね?
……え、オレのこの世界における名前って何?
次回、『名前は』に続く