家のさよなら:エレナの別れ
「ううっ!」
私は持てる限りの力を込めてスーツケースを押し込み、閉めました。どうやら詰め込みすぎたようで、スーツケースはパンパンになっています。でも……これらは全部大切なものなのです。少なくとも、私にとっては! (他の人が同じように思うとは思っていませんが。)
私は重いスーツケースをリビングへと引きずり始めました。その間、あたりを見回し、母の家の隅々を見つめました。数え切れないほどの思い出が詰まった家。
その時、私の目はリビングに飾られた母の写真に留まりました。
「行ってきます、お母様!」
私は笑顔で言いました。
私は歩き出し、生まれ育った家を後にしました。母との大切な思い出が詰まった家。
『さようなら、お母様。私、あなたの娘エレナ・フィアリスは、これから冒険に出ます。』
私はゆっくりと歩きながら、母との生活を思い出していました。今は過ぎ去った人生の、大切な思い出。
しばらくすると、母の声が耳に響いてくるようでした。過去の記憶が次々と頭をよぎります。
「エレナ……何をなさっているの!」
夕食後のデザート用に取っておいたケーキを私がこっそりつまみ食いしているのを見て、母は驚いていました。
その反応を見て、当時五歳だった私は、いたずらっぽく笑いながら逃げ出しました。母は輝くような笑顔で私を追いかけてきました。そしてついに、私の小さな体を捕まえました。母の顔は、私が盗んだチョコレートケーキで汚れてしまいました。私たちは二人で大笑いしました。そう……私は母の温かい腕の中で笑ったのです。
しかし、私が覚えている母との最後の記憶は、涙でいっぱいです。
数ヶ月後……
病床で、母は弱々しい力で私の手を握りしめ、涙の中にも笑顔を浮かべていました。体が痛みにうごめいている中でも、母は微笑んでいました。そして、私に言いました。
「エレナ、私を許してね。あなたを置いていくことを!」
私はただ泣いて、「嫌です、お母様! 私を一人にしないで!」としか言えませんでした。
当時、私はまだ七歳にもならない小さな女の子でした。目の前には、か細い体で息をするのも苦しそうな母が、心配そうに私を見つめていました。まもなく、母は一人娘を置いていってしまうのです。母のいない人生に、一人で立ち向かわせるために。
私は母の腕の中で泣き崩れました。とても温かい、焼け付くように温かい腕の中で。
「エステラ……エレナの将来をあまり心配しないでくれ。私が彼女を守り、世話をすることを約束する!」
私の後ろに立っていたダンテ神父様の言葉でした。トッファ村の太陽神殿の長でした。
「ありがとうございます、ダンテ神父様。」
それから間もなく、母の手が私から滑り落ちました。私はすぐに母に覆いかぶさり、泣きながら、必死に体を揺さぶりました。母が目を開けてくれることを願って。すべてが嘘であることを願って。
最後には、私は叫び、泣き叫びました……
「お母様! 行かないで、お母様……お母様!」
その夜は、私の人生で最も辛い夜でした。今でも、心の奥深くの傷を感じることができます。
そうです、お母様……私はあなたがとても恋しい。なぜそんなに早く行ってしまったのですか? なぜ?
母の死後、太陽神殿の修道女や神父様たちが私の世話をしてくれました。ダンテ神父様はいつも、持ち前の陽気さで私を励まそうとしてくれました。時間が経つにつれ、長い時間がかかりましたが、私は母を失った痛みから立ち直り始めました。
いつの間にか、私の足はトッファ村の門の近くまで来ていました。遠くには、私を待っている人たちの姿が見えました。ダンテ神父様、太陽神殿の神父様や修道女たち、村の警備兵、そして私を知っている村人たち。リゼとお母様の姿もありました。リゼは笑顔で小さな手を振ってくれました。そして、もちろん、本田竜二さんもいました。
しばらくすると、リゼが私に向かって走り出し、飛びついてきて、強く抱きしめました。そして、言いました。
「エレナ様……行かれるのですか?」
私の出発を悲しんでいるようでした。
私は優しくリゼの頭を撫でて答えました。
「そうよ……リゼ、良い子でいるのよ? そして、お母様を悲しませたりしないこと。約束できる?」
「はい……」
リゼは小さな頭を頷かせながら答えました。
遠くから、リゼのお母様が頭を下げ、温かい笑顔を送ってくれるのが見えました。私も同じように返しました。
その後すぐに、ダンテ神父様が私に向かって歩いてきて、突然私を強く抱きしめ、泣き始めました。
「すまない……エレナ! 私を許してくれ!」
誰もが困惑した表情で見ていました。神父様や修道女たちは頭を下げ、悲しそうな表情を隠していました。中には泣いている人もいました。
私はダンテ神父様に囁きました。
「お願いです、ダンテ神父様! そんなことをしないでください! 皆さんが不思議に思ってしまいます……」
「だが、エレナ……」
神父様は言葉を遮ろうとしましたが、私は神父様の目を見ながら続けました。
「ダンテ神父様、私がこの選択をしたのは、この村の人々の幸せを守りたいからです。彼らを笑顔でいさせたいのです。そして、私はそれを後悔などせずにやり遂げました。」
私はしっかりと神父様の目を見つめました。
「どうか、彼らを悲しませるようなことは言わないでください。できますか、ダンテ神父様?」
私は優しい笑顔で懇願しました。
「エレナ……あなたはこんなに強く、逞しい女性に成長したんだね。まるで君のお母様、エステラのようだ。」
ダンテ神父様は悲しみと混じった感嘆の表情で言いました。
そうです! これは私の決断でした。私は自分がしたことを何も後悔しません。
私は村の門から歩き出し、見送ってくれる皆に手を振りました。泣いている人もいました。リゼも小さな手を振りながら泣いていました。
そして、私も……私も泣いていたかもしれません。ええ、こんな時に泣かないわけがないでしょう?
『さようなら、私の村、トッファ。そして……私は今、出発します、お母様!』
最後に、私は振り返り、歩みを進め、旅を始めました。
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さて、私はトッファ村の北の境界にある麦畑を歩いています。この旅の初めに、竜二さんと私は祭りが行われる街、ミルディエスタへ向かうことにしました。
歩いている間、竜二さんが不思議そうな顔で私を見ていることに気づきました。なぜでしょう? 私とダンテ神父様の会話について不思議に思っているのでしょうか?
私は彼に尋ねてみることにしました。
「どうしたのですか、竜二さん?」
彼は驚いたようで、顔を背けました。そして、しばらくして、落ち着かない様子で鼻を掻きながら言いました。
「あー……あなたは村の人たち、特に神殿の神父様や修道女たちと本当に親しいようですね。」
私は小さく微笑んで答えました。
「ええ……もちろんです! 私はここで生まれ育ちました。それに、母が亡くなってから、太陽神殿の神父様や修道女たちが私の世話をしてくれているのです。」
「お母様……?」
彼は驚いたように私を見ました。
「ええ、私が六歳の時に亡くなりました。母の死後、太陽神殿の神父様たちが私の世話をしてくれたのです。特にダンテ神父様は、私を実の娘のように可愛がってくれました。」
私は先を歩き、彼の方を向いて微笑みました。
「だから、彼は泣きながら私を抱きしめたのです。彼はたった一人の娘を失いたくないのです。」
「ああ!」
彼はすべてを理解したかのように頷きました。それから竜二さんはくすくす笑いました。なぜ? 何がそんなに面白いのか、私でさえわかりません。もしかしたら、彼にとって、娘の出発に泣いている老人は少しおかしいのかもしれません。
ええ……
この方がいいのです。私とダンテ神父様の間の秘密にしておきましょう。他の人に知られる必要はありません。神殿の神父様や修道女たちの中には、私が悲しそうに見えたので知っている人もいるかもしれませんが。
でも、竜二さんには知られないように……
彼に真実を知られたくないのです。私が隠している真実を。彼は罪悪感を感じるかもしれません。私はそんなこと望んでいません。
これは私の選択でした……
あの夜のオーガの襲撃からトッファ村を救うための唯一の方法。
だから……私は後悔していません。
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この物語の第一章(5-7)では、エレナ・フィアリスと本田竜二が紹介されます。彼らは何者で、どのような物語を持っているのでしょうか?
これは、物語の第一部に入る前のプロローグです。
どうぞ、お楽しみに!
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