オーガ・ロード!
オーガロードは男に向かってゆっくりと歩き出した。それは四メートルを超える巨体で、村の家々の屋根よりも高くそびえ立っていた。血のように赤い肌、額の中央から鋭い角が突き出ている。
私が召喚した男は、迫りくるオーガロードに立ち向かうべく身構えた。
私の膝の上にいる少女は、相変わらず静かに泣いていた。恐ろしい怪物の姿に、体は恐怖で凍り付いている。その手は激しく震えていた。
私も彼女と大差なかった。血のように赤いオーガの姿に、恐怖に襲われ、冷や汗が全身を濡らしていた。
「エレナ様!」
突然の声に私ははっとした。それは、先ほど私が助けた兵士だった。
「エレナ様、お怪我の手当てを。お顔の色がますます悪くなってきています。」
彼の言う通りだった。私は怪我をしていた。右腕をオーガの斧で斬られていたのだ。
私は急いで右腕の治癒の呪文を唱え始めた。私はプリーストであり、ほとんどのプリーストと同じように、私の魔法は光属性だ。光魔法は通常、パーティーの前線を支援するために使用され、治癒と防御の呪文がその基本能力となっている。
しかし、私は疲労を感じ始めていた。おそらく、腕の傷からの出血が原因だろう。
「エレナ様、大丈夫ですか?」
隣の兵士が心配そうに声をかけてきた。
「ええ、ありがとう。」
私は簡潔に答えた。そして、再び男とオーガロードの戦いに視線を戻した。
全てのオーガが周りに集まり、戦いの輪を作っていた。彼らは自分たちの王が、私が召喚した勇者と激突するのを見て、歓声を上げていた。
いつの間にか、私は彼を勇者として認めていた。
冷たい夜の空気は、村を覆う不吉で恐ろしい雰囲気を映し出していた。
腕の傷はほぼ治癒していた。膝の上の少女は、私の左手をさらに強く握りしめていた。彼女の瞳には、恐怖だけでなく、希望も見えた。
少女だけではない。生き残った村人全員が、祈るように手を合わせ、戦いを見守っていた。彼らの希望は全て、私が召喚した、彼らを救うために現れた勇者に託されていた。
男は信じられないほどの速さで血のように赤いオーガの周りを駆け回り、巨大な体を翻弄していた。オーガロードの目は、彼の動きを追うのに苦労していた。
集まったオーガたちでさえ、自分たちの王である、四メートルを超える巨体のオーガロードが、二メートルにも満たない人間に苦戦しているのを見て、静まり返り始めていた。
男は飛び出し、オーガロードの足首を剣で斬りつけた。彼は巨大な体の周りを回り続け、足への攻撃に集中していた。
オーガロードは怒りに咆哮し、男の体の二倍もある巨大な斧を振り回した。苛立ちから足を踏み鳴らし、その怒りをあらわにしていた。
その頃には、私の傷は完全に治癒していた。私は隣の兵士に目を向けた。彼の傷も癒さなければならない。しかし、彼は目の前の戦いに釘付けになり、身動き一つしなかった。
「エレナ様…あれは、あなたが呪文で召喚した勇者なのですか?」
私は頷き、彼の問いに答えた。
兵士の視線は戦いに釘付けのままだった。無理もない。彼の目の前にあるのは、通常ならAランクの冒険者パーティー全員で挑むべきオーガロードに対し、たった一人の人間が互角に渡り合っている光景なのだから。
私が兵士の傷を癒している間、膝の上にいた少女が私の方へ歩み寄ってきた。彼女は私のローブの袖にしがみつき、目を戦いに釘付けにしていた。
そうだ、今の状況はそうだった。私が召喚した男は、たった一人で恐ろしいオーガロードと激戦を繰り広げていた。驚くべきことに、彼は戦いの流れを支配していた。
彼の目は鋭く、オーガロードのあらゆる動きを見つめていた。時折、体勢を立て直し、息を整えるために飛び退くが、すぐに再び戦いに身を投じていった。
怒りに咆哮しながら、オーガロードは頭上で斧を振り上げ、男に向かって叩きつけた。
しかし、男は素早く横に飛び退き、見事に回避した。その隙をついて、地面に突き刺さった斧に飛び乗り、オーガロードの巨大な腕を駆け上がった。
これに気づいたオーガロードは、地面から斧を引き抜いたが、その際、誤って男を空中に放り投げてしまった。男はその勢いを利用し、剣を振り下ろし、オーガロードの右目を切り裂いた。
オーガロードは両手で負傷した目を押さえながらよろめき、さらに大きな怒りの咆哮を上げた。
左手で土を掴み、男に投げつけ、突進してきた。
舞い上がる土で視界を奪われた男は、オーガロードの強烈なタックルを避けることができなかった。彼は吹き飛ばされ、近くの家の壁に激突し、家は衝撃で崩れ落ちた。
私は、私が召喚した勇者へのオーガロードの卑劣な攻撃に愕然とした。戦いに加わり、彼を助けなければという衝動に駆られた。しかし、立ち上がろうとした時、隣の兵士が私の腕を掴んだ。
「いけません、エレナ様!もしあなたが介入すれば、他のオーガたちが王を助けるために戦いに加わり、再び村人を襲うかもしれません。」
私は彼の言葉に、はっとした。彼の言う通りだ。もし私が介入すれば、オーガたちを刺激し、村人への襲撃を再開させてしまうだろう。
私にできるのは、勇者の無事と勝利を祈ることだけだった。
「あはははは!」
その時、立ち上がった男から大きな笑い声が響き渡った。彼は無傷に見えた。笑った後、その鋭い視線はオーガロードに戻った。ゆっくりと、彼はオーガロードに向かって歩き出した。
「うおおおお!」
激しい雄叫びとともに、彼は剣を手にオーガロードに向かって走り出した。飛び出し、容赦なくその足に斬りつけた。彼の乱れた太刀筋は、剣が何度も打ち付けられるたびに血しぶきを上げた。
やがて、男はオーガロードの体によじ登り、高く飛び上がり、首を綺麗に切り落とした。
重い静寂が訪れた。時が止まったかのようだった。
男は高く誇らしげに立っており、その後ろで、オーガロードが力なく地面に崩れ落ちた。
残りのオーガたちは、王の血の中に立つ男を呆然と見つめていた。しばらくして、彼らは散り散りになり、恐怖に逃げ出した。
男は私の方を向き、言った。
「なあ…お前と村を救うっていう約束、守ったぜ。」
そして、彼は地面に崩れ落ちた。
私は彼のそばに駆け寄り、体を抱きしめた。彼は激しく息を切らしており、私は彼の身を案じた。
私の心配を感じ取ったのか、彼は再び口を開いた。
「大丈夫…平気だ。ただ、疲れただけだ。」
私は彼の体を抱きしめ、頭を垂れ、気づかぬうちに、言葉が口からこぼれ出ていた。
「ありがとうございます…本当に、ありがとうございます!」
涙がとめどなく私の顔を流れ落ち、私たちを救ってくれた男、異世界から私が召喚した勇者の体に落ちていった。
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