私は彼を救う
「それで、エレナ、君はどうするんだ?もし今隣にいる男が、やがて闇に飲み込まれてしまったら?」
フェンリル様は、悲痛な過去を語った後、そう問いかけた。今もなお、彼を苦しめる悲しい物語。あるいは、この先ずっと、彼の人生を苦しめ続けるのかもしれない。
私は不安げに頭を下げた。フェンリル様の物語を聞き、彼が背負わなければならない苦しみの重さを想像すると、心が痛んだ。彼の質問に答えるのをためらってしまった。
もし竜二さんが闇に心を奪われ、完全に深淵に落ちてしまったら、私はどうすればいいのだろうか?
その問いが頭の中で何度も繰り返された。召喚した英雄が闇に染まり、災いを引き起こすなど、想像もできなかった。
だって、それはすべて私の責任なのだから。だって、私は禁断の魔法『英雄召喚』を使って彼をこの世界に呼び出したのだから。もしそんなことになったら、私は失敗したことになる。彼を導くという自分の役目を果たせなかったことになる。
心臓がドキドキと高鳴り、手が震え始めた。私は怖かった。フェンリル様の質問が現実になることを考えることさえ、臆病すぎてできなかった。
私を、村を救ってくれた英雄が……災いと死をもたらす者になるなんて。
でも……
すでに感じていたのだ。フェンリル様が質問する前から、竜二さんが恐ろしい獣に変貌してしまうかもしれないという、不気味な予感があった。
その感情が最初に湧き上がったのは、テラディン森でのディルウルフの群れとの戦いの時だった。
正直、竜二さんがディルウルフを殺戮する姿が、今も脳裏に焼き付いている。あの時、彼の顔に浮かんだ恐ろしい笑みが、私の心をさいなんだ。
彼はそれを楽しんでいた。
彼の体が赤く染まり、血の匂いを身にまとい、敵を容赦なく引き裂く様。その恐ろしい光景は、背筋を凍らせた。
それでも彼は、私と村を救ってくれた英雄だった。
どこか抜けていて、気楽な態度の英雄。女性の気持ちには全く気づかない英雄。
最近では、いつも私のそばにいてくれる、一緒に笑い、笑い合える人。
時々、私の心を未知の不安で満たす人。
戸惑いを覚え、目を合わせるのが難しくなるような不安。もっと彼のことを知りたい、彼の隣を歩みたいと思わせる感情。
私にとって、あまりにも異質な感情。
もしかして、私は……
違う……
今はそんなことを考えている場合ではない。今は、フェンリル様の質問に答えなければならない。自分のためにも。
「私の質問は、そんなに難しいかな、エレナ?」
私が躊躇しているのを見て、フェンリル様が再び口を開いた。
「正直に言うと……そこまで考えたことはありませんでした」私は正直に答えた。「だって私にとって、竜二さんは命の恩人であり、村を救ってくれた人だから。彼が破滅の使者になるなんて、想像するだけでもつらいんです」
「ああ、エレナ……かつて自分たちを救ってくれた人が、災いをもたらす存在になることを想像するのは、とてもつらいことだ。私も、かつての恩人を自分の手で葬らなければならなくなるとは、思ってもみなかった」
フェンリル様の真紅の瞳が私を見つめ、そして続けた。
「だが人生には、耐え難い選択を迫られる時がある。どんなにつらくても、それを受け入れなければならない。君が隣にいる剣士に対して責任を負っているように……私にも、かつての恩人に対して背負うべきものがある。それが、我々が背負うべき重荷なのだ」
彼の言葉が、私の心に重くのしかかった。
「君も、私と同じように、その重荷を背負わなければならない。違うかな?」
彼の言葉に、私はさらに頭を下げ、不安と悲しみに沈んでいった。
「でも……」私はためらいながら言った。「もしかしたら、もっと辛抱強く、もっと理解しようとすれば……」
フェンリル様を傷つけないように、言葉を選んだ。
「申し訳ありませんが、もしその時が来たら……私は竜二さんを救う方法を見つけます。私は絶対に、彼の手を離しません。たとえその選択が私自身を苦しめることになっても、私はそうします」
そして、私はフェンリル様の真紅の瞳をまっすぐに見つめ、微笑んだ。
「それに……正直なところ、私は竜二さんを傷つけることなんてできないと思うんです。だから、彼を傷つけずに済む方法を必ず見つけます。もしその時が来たら、私はどんなことをしてでも、その方法を見つけ出します」
フェンリル様の目が、わずかに大きく見開かれた。彼はしばらく沈黙した後、突然――
「はははははは……」
彼の笑い声が、静寂の中に響いた。
「思った通りだ!君は本当に頑固だな、エレナ!」
彼は私の答えに、心から笑っていた。
なぜ……?
私の答えが、そんなにおかしかったのだろうか?
「だが正直、君の答えはすでに分かっていたよ」
笑いが収まると、フェンリル様の表情は再び真剣になった。
「この老人の話をよく聞くんだ……君は本当に、想像を絶する苦痛を伴うその選択をする覚悟があるのか?」
「はい!」
「たとえそのせいで苦しみを受けることになっても、後悔はないか、エレナ?」
「はい!」
「よろしい……この老人は言い尽くした。君の答えに満足した」
そう言って、フェンリル様は立ち上がり、黒いローブを軽く払った。ゆっくりと歩きながら、再び口を開いた。
「どうやら、この老人に、君のような頑固な娘に言うべきことは何もないようだ。それでは……また会う日まで、エレナ」
彼はそう言い残し、歩き去っていった。彼の姿は、徐々に遠ざかっていく。
でも……「また会う日まで」?
フェンリル様は、私とまた会うつもりなのだろうか?
そして、彼が完全に姿を消す直前、再び振り返り、私の方を見た。
「だが心配するな、エレナ」彼は優しくも厳粛な笑みを浮かべて言った。「この老人は、君のような美しい娘に、すべての苦痛を一人で背負わせるほど残酷ではない。だから、その時が来たら、私が必ず力になる。だから、あまり怖がるな」
そう言い残して、フェンリル様は遠くへと消えていった。
私は動けずに、彼の後ろ姿が見えなくなるまで、ずっと見つめていた。
突然私の前に現れた、謎の老人。悲しい過去を語り、難しい質問を投げかけてきた男。
私について……私の秘密について、あまりにも多くを知っている男。
「はぁぁぁ……」
私は長い溜息をつき、心に立ち込める重い感情を振り払おうとした。
頭が疲れていた。
木のベンチに寄りかかり、私は呟いた。
「本当に疲れた……なぜフェンリル様は、あんなことを突然聞いてきたんだろう?はぁ……」
私は目を閉じ、少しの間だけでも、頭を休ませようとした。
しかし――
再び目を開けると、私はベッドに横たわっていた。
頭上には、見慣れない白い天井が広がっている。
ここは……どこ?
びしっびしっ!
椅子の音が、隣で響いた。
私は首を動かすと、二人の幼い子供――男の子と女の子、どちらも六歳か九歳くらい――が、驚いた顔で私を見つめているのが見えた。
そして、ほとんど同時に、彼らは叫んだ。
「ママ!ママ!きれいなお姉さんが起きた!」
「ママ!眠り姫が目を覚ました!」
きれいなお姉さん!?眠り姫!?
この見知らぬ子供たちは一体……?
なぜ、こんな恥ずかしい名前で私を呼ぶの!?
***
「この変な子供たちは一体何なの!?どうして私に、こんな恥ずかしいニックネームをつけたの!?恥ずかしい……
待って……竜二さんが聞いてたらどうしよう!?お願い、やめて。
次回は『見えない絆』。エルフの女、アエラとの再会です。それでは、お楽しみに……!」
エレナ・フィアリス
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