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ヘリオス  作者: みおいち
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第1部 第11話

「は?鈴、何言って......」


いきなり実の妹に変なことを言われて、思考が追いつかない。


「あのうるとらすうぱあなイケメンを川崎流に入れたいなら、あたしが相手でも同じでしょ。それに、どうせお姉ちゃんなんて、幾つになってもお父さんの言いなりだし。お父さんがやれって言えばそれに従う、何でも言うことを聞くお人形でしょ」


「晃輝さんはモノじゃないの。変なこと言うのやめて」


私が反論すると、剥れた鈴が言った。


「分かった、お父さんに頼んでくる。お父さんからしたら、どっちとあの人が結婚しても同じだもん。お人形みたいに言いなりになってお箏を弾いているお姉ちゃんでも、あたしでも」


「私はお箏が好きだから続けていたの。言いなりじゃなくて意見が一致していただけ!」


ついつい大きい声が出てしまう。


「ねえ鈴、私たちはよく似ている姉妹だと思う。好きなことだけをして生きているから。私はいつも好きなことしかしていない。お箏も、次期家元も、なりたいからなったの。


晃輝さんは渡さない。お見合いしたのは確かに言いなりだったけど、好きだから鈴にも、誰にも渡さない。


どんなことをされても晃輝さんは離さない!こんなに人のことを好きになったことないの。だからちょっかい出さないで!手を出すのならもう、妹だと思わないから!」


最後は必死で、かなり大きい声を出してしまった。私が興奮して訴えているのに、途中から鈴は子犬を見るような慈愛に満ちた顔をして、目に涙さえ浮かべて微笑んでいる。


「ちょっと鈴!聞いてるの⁉︎」



「現場から中継は以上で〜す!」


「......は?」


「こんな激しいことを言うお姉ちゃんは、初めてですよ」





「......凪」


ふと襖が開いて頭が真っ白になる。中から晃輝さんが出て来た。


「晃輝さん......聞いてたの......」


身体中が熱い。変な汗まで流れ落ちる。晃輝さんの顔が怖くて見れない。


「すまない、全部聞こえていた」


「この部屋、襖でしか区切られてないもん。しかもあたし、声が聞こえるようにバレないくらい開けといたし、丸聞こえだよ」


言われて襖を見てみると、私に近い側の襖がかなり豪快に開いている。


ぎゃああああ!


「それでもあたし、大きい声じゃないと聞こえないと思って声を大きくしたら、お姉ちゃん、まんまとつられるんだもん」


ううう、これじゃあ「聞いてください」って言っているようなものだ。


開いた襖の向こうから、またお母さんがクネクネして微笑んでいるのが見える。


「良かった。お姉ちゃん何でもお父さんの言いなりかと思ってたけど、本当にお箏が好きなんだ。あたし、お箏も家のことも放棄しちゃったから、これでもすごく罪悪感があったんだよ。でもお姉ちゃんが好きなことをやっていて、幸せなら良かった」


「じゃあ鈴、晃輝さんが欲しいっていうのは」


「本当な訳ないじゃん。結婚が決まったのにお姉ちゃんが悩んでる顔してるってお父さんが言うから、演技してみただけ。第一こんなデカい人、タイプじゃないもん。またそんな顔して、何悩んでんだか知らないけど、2人で話して来たら?応接室空いてるよ」


してやられた。そう言えば鈴は、中学の頃からずっと演劇部だった。




鈴がいなくなって2人きりになると、ますます恥ずかしさが込み上げてきた。晃輝さんは私をビジネス上のパートナーとして選んだだけで、恋愛感情なんて無いはずだから。重く思われていたらと思うと、恐怖で目の前が見えなくなりそうだ。


「凪、行こう」


私の手を引いて応接室へ連れて行った晃輝さんは、ドアを閉めるといきなり私を抱き寄せてキスをした。指先まで痺れるのに、優しいキス。


やがて口を離して、顔を近づけたまま甘い声で言った。


「嬉しかったよ、凪」


「え?」


「凪は家のために俺と結婚するとしか思っていないようだったから」


そこでまたキスをした。


「それなのにあんな情熱的なことを言われて、どんなに嬉しいか分かるか」


私の髪に触れて、とろけてしまいそうな顔で言う。


「だけど晃輝さんは、私をビジネス上の相手として選んだんじゃ」


「それだけでこんなに結婚を急がない」


「でも」


「凪は俺のラフマニノフの演奏を気にしていたね。あれを投稿した日付を見なかったか?」


私の髪を撫でて続ける。


「あれは、凪に会った日の夜に弾いたんだ。凪を想って弾いたんだよ」


「......え?」


「もうあの頃には、既に俺は凪に夢中だった。凪を抱いた日は、嬉しくて気が狂いそうだったよ。同時に心までは俺に向かない凪に、イライラしてばかりだった。それなのに、凪はいつも家のことを真摯に考えていたから、下手なプライドが邪魔して言えなかった」


じゃあ、あんな風に私を抱いたのは、私の心が欲しかったからだろうか。そう想うと自然と涙が出た。


「お見合いの日1日だけで、私を好きになった、ってこと?」


それには返事をせずに、また晃輝さんは唇を塞いだ。


「俺から先に言うべきだった。俺は子どもだった。弱かったんだ、ごめんな。愛してるよ凪、心から」

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