79.ニコレッタ、神となり救ってみたんですけど?
この世の全てを堪能し、長すぎた天寿を全うしたニコレッタが、神の一柱となって数百年の月日が経っていた。
ニコレッタは今日も下界を覗き見ている。
本来は水がめの形をしていた下界を見るための神器を、無駄に有り余った神力を使って大型液晶テレビのように変更したり、それを見る為に桃色ファンシーなソファーを作って脱力していたりしていた。
人々からの供物をそのまま吸収することをせず、使い魔である死神カーリーに調理させ堪能しているニコレッタは、今も伴侶となった神狼フェルとイチャつきながらまったりと過ごしていた。
神竜ディーゴは不埒な輩には天罰を送る役目をこなしている。
今現在、その役目は年に数回程度しかないようだが、何かにつけて下界へと降りては買ってきた王都の人気菓子店のデザートをニコレッタに献上していた。
「主様、ちょっと魂、狩ってきますね?」
エプロンを外しながらそう言う死神は、下界へ下りると運命により生を全うした魂を優しく包み込み持ち帰り、輪廻の滝へ放ってくるのだ。
そのついでに夜食をたんまりと買い込んで戻るのも日課の一つである。
「ニコ、また見てるの?」
いつものようにそう言いながら、背後からニコレッタの首に腕を回し甘えるフェル。
耳を甘噛みして優しく口づけをしている。
「ん?あの子、手、冷たそうだなって?」
そう言いながら神力を注ぎ画面に映っている少女の手を温めるニコレッタ。
画面にはその少女が不思議な現象に目を輝かせ、空に見上げ何かをつぶやき立ち上がり、力強く歩き出した夕暮れ時に、はぐれていた母と再会した様子が映し出されていた。
「主様、彼女は今夜、野党に殺される運命でしたが?」
死神は下界から買ってきたフライドチキンの箱を大理石のテールブの上に並べながらそう尋ねるが、ニコレッタは不思議そうに首をかしげている。
「それは冷たい手をさすりながら動けなくなってあの場で夜を明かしたからでしょ?」
「なるほど?」
「あの子、これからたくさんの人を救う綺麗な魂だから」
「なるほど!」
ニコレッタの説明に死神は納得したようだった。
こんな感じで運命を捻じ曲げたことは今まで何度もあった。
可哀想だから?いや、そう言った理由ではないのだ。
ニコレッタは善良な魂が悲運によりその輝きを失うことを嫌っていた。
善人が生き残る為なら悪人の1人や2人……、といった感じで気ままに人助けを繰り返している。
これもまた逸話となり、人々に語り継がれるのだ。
どんなにつらくても、希望を捨てずに綺麗な魂のままで努力さえすれば、女神ニコ様が助けて下さる。
これはこの世界の各地に残るニコと名乗った少女の活躍により導き出された逸話であった。
世界各所に残る少女の伝説、言い伝え、口伝などが数多く記録されていた。
だが数百年前のある地点を境に、その足跡は途絶えている。
きっと少女は神となったのだ。
いや、その少女は神の化身であったのかもしれない。
そんな思いが加速して、人々は長きにわたりニコ様の教えを語り継いでゆく。
ただ、各所に残されている書物の中には、さすがに作り話であろうというものも多く残っていたようだ。
貧しい街で甘いお菓子をたくさん作りだしたが、結局そのほとんどを一人で食べきってしまい、ハッとした表情でもう一度作り出し頭を下げていた……、とか。
少女を強引に攫い綺麗な服を着せ人形のように愛でていた変態貴族の股間を蹴り上げ、不能にした挙句に同性愛者の巣窟に放り込んで大笑いしていた……、とか。
伴侶である狼人族の亜人とイチャついていたのを見られ、恥ずかしさのあまり建物を崩壊させた後、それを瞬く間に復元し逃げていった……、とか。
そんなバカげた話も残されている。
それは後に誰かが書いた虚構な話として封印されたようだが、それ以外の少女ニコにまつわる数々の逸話は今も大切に某所で保管され、語り継がれている。
「フェル、見て。あの蒸気機関、新型だよね?すごいよねー、どんどん新しいのが開発されてる!」
力強く走る機関車を見て喜びを爆発させるニコレッタ。
嘗てニコレッタがその基礎を作り出し、商会に丸投げしたもの。実際にそれが実用可能なレベルに至ったのはそれから10年程かかったが、その時には別の街へと旅立った後のニコレッタは完成を見守れはしなかった。
完成から数年遅れで偶然立ち寄った遥か南の国の中央都市で、パワフルに走るソレを見てかなり興奮したことを思い出していた。
もちろん画面に映し出されているのは当時のものの何倍の速度で安定走行する高機能なものである。つい最近まで走っていたものよりさらに早く、振動を抑える魔術付与が強く施されて。
「なるほどね。あれなら中でキャッチボールもできちゃうね!」
「そうか。良かったな」
ニコレッタに適当な返答をするフェル。
今はニコレッタの匂いを嗅ぐことに夢中だった。
「戻ったぞー」
機関車に夢中になっているニコレッタに体を擦り付けるのはディーゴだった。
フェルを押しのけその大きなぽよんをニコレッタの腰に押し付けるディーゴの頭には、大きなカゴが乗っている。
「ディーゴ、それ何?」
ニコレッタの問いにニッと笑ったディーゴは、頭からカゴを下ろしテーブルへ置いた。
「あっ、これ、銀狼亭の?」
「そうだ!昨日の品評会で優勝した奴だぞ!」
ディーゴの説明にやったと喜びさっそくその菓子の袋を乱雑に破き中身を口に放り込んだニコレッタ。
この銀狼亭とは、王都の中心部にある人気のスイーツ店である。
初代の店主は王国の台所を預かる総料理長だったとか……、その店主はレストランやバー、スイーツ店など、独創的な料理の数々を生み出していたと言われているが、それは全て師から教わったものと言っていたらしい。
そんなことは気にせず菓子を次々に胃の中に流し込んでいるニコレッタ。
その美味しさに満足し、上機嫌でまた下界を眺めソファに身をゆだねるのだ。
そんなニコレッタの影響もあり、良からぬことを考える貴族などは確実に減っているようだ。
だがそんな功績などを気にするニコレッタではない。
今日も下界を覗き見て、自己の満足の為だけに人助けに精を出すのだ。
おしまい
久々に追加してみました。
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