77.ニコレッタ、人攫いの拠点に到着し
人攫いの拠点、王都の城近くの屋敷の前にたどり着いた私達。
途中で走る私達についてこれない第六隊の騎士達に、早く助けなきゃと焦る私は置いていくと告げた。
だがカルロが2人で行くのだけは勘弁してくださいと頭を下げられ、仕方なくカルロはカーリーに背負わせて3人でやってきた。
カーリーの背中から恐縮しながら降りたカルロ。
その顔はまたも真っ赤になっていた。
「久しぶりにおんぶなんてされました」
赤い顔でそう言うゴツイ体格の騎士……ちょっとグッとくるものがある。
エレナにも見せてあげたいなと思った。いや、近いうちに行われるであろう女子会の話のネタにはしよう。とニマニマしてしまう。
「ここは……」
「知り合い?」
「え、ええ。宰相であるシモーネ様の、エルカーン家の屋敷です……」
「え……えぇ!」
私はシモーネのあの優しそうな顔を思い出し思わず大声を出してしまった。
見張りの兵がこちらを見ている。
「シモーネ様は西方に領地をお持ちなのですが、この王都での屋敷は宰相として城詰めされてますので、今はほどんど使われてないはずですが……」
「とりあえず、行ってみよう!」
そう言う私にカルロは頷き、兵達に話をしに向かった。
兵士たちはカルロに怯えながらも、現在はシモーネの甥っ子さん夫婦が1ヵ月ほど前から遊びに来ているそうだ。
私は、話が面倒な方向に進んでいることが確定し、足をつっこんだことを後悔していた。
「あのさ、後はカルロに任せるから、私達帰っちゃだめ?」
「えっ!今更、待ってくださいよ!私だってこれが面倒事なのは分かりましたよ?お願いです。私を助けると思ってニコちゃん、いえ、ニコレッタ様の御力を!」
そう言って土下座しそうなカルロ。
こんな時だけ御力をって、聖女の権力ってことだよね?
まったく……そう思うがエレナの事を思えば助け舟を、そう考えた後、何も今突入することもないだろうと思い直した。
「カルロさん、ちょっとあっちで待機してましょう。カーリー、ちょっと中を、ティナちゃんの様子を確認してきて」
その言葉と共にカルロと一緒に屋敷から離れ、カーリーは姿を消した。
数分後、目の前に現れたカーリー。
「主様、ティナ殿は無事でした。部屋で綺麗な服を着せられ、侍女と楽しく歓談中でした」
「うーん、じゃあ、後はシモーネさんに丸投げでいいかな?」
「あ、ああ。確かにそうですね。ありがとうございますニコレッタ様」
「聖女様と呼ぶように」
「ははー!」
そんな会話の後、周りをキョロキョロ探索するようにして追いついてきた兵と共に、カルロは城へと走っていった。
私達は拠点に転移し、また日常へと戻った。
その数日後、カルロと一緒にシモーネがやってきた。
ティナとレナートも一緒だった。2人は手を繋いで仲が良さそうである。
到着してすぐ、シモーネが私の前に走り出し土下座した。
「この度は、バカな身内によりご迷惑を……」
必死なシモーネを唯々見ていたが、それよりも何がどうなったかが早く知りたかった。
「あの、シモーネさんの謝罪は受け入れますので、ティナちゃんも無事だったようですし、それよりもどうしてティナちゃんがその、攫われたがを教えてくれませんか?」
一瞬ティナの顔を見て、こんなことを当事者の前で聞いても良いかと躊躇したが、それでもこうしてシモーネ達と一緒に来たという事は、変にトラウマなんかにはなっていないのだろうと予想した。
「あの、恥ずかしながらティナちゃんを攫った……と言いますか、その……」
「シモーネ様、言い辛いことですし私が……」
「そうか、すまんな」
カルロが助け船を出したようで、説明を任せたシモーネ。
どうやら、事件を起こしたのはシモーネの屋敷に滞在していた弟夫婦の息子である甥っ子の夫婦、その息子のジェームスという16才の男の子がやらかしてしまったようだ。
何度か遊びにきていたジェームスは、ローランドと結婚したイレーネの事が結婚する前から好きだったそうだ。
それと少し前に両親が、こっそりと"王都には転移ができるティナという女の子がいる"と話していたのを聞いていたそうだ。
そして、今しかないと長期休暇で王都にきたこのタイミングで、ティナという子供、と言う事だけを頼りに護衛の従者に探させていたようだ。最終的にはちょっと危ない連中から仕入れた情報によりティナの居場所を突き止めたと……
それから、ジェームスは何気なく孤児院を何度か訪ね、お菓子で釣って連れ出し馬車に乗せて屋敷へ招待したそうだ。両親にはお友達だと称して好待遇で持て成していたという。
結局、ジェームスは何がしたかったの?と頭を悩ませたが、カルロが言いずらそうに転移で城に忍び込ませてイレーネの下着を取ってきてほしかったらしいと……
私の中でジェームスがド変態の認定が成された。
だが、結局はそれをティナに伝えるのが恥ずかしかったジェームスは、そのままずるずるとティナを接待している内に、ティナに惚れてしまったようだ。
シモーネが激怒して乗り込んできた後、事情を知った甥っ子夫婦は土下座で謝罪。そんな中でジェームスが「こんな僕ですが!結婚を前提に付き合ってください!」と伝え、「すでにお付き合いしている人がいるので」とティナにフラれたそうだ。
シモーネはティナにどんな償いでもすると伝えたが、自分も過去に罪を犯したから、反省する機会を与えてほしいと告げられたそうだ。
シモーネは、ジェームスも、子供に機密情報を聞かれるような失態を侵した甥っ子夫婦にも厳重注意し、早々に領へ帰したそうだ。
そんな呆れた事件ではあったが問題は残っているなと感じた。
聞けば、ティナの転移の事についてはそれなりに広まっているようで、そう言った連中も目をつけているようだ。
シモーネは今後は孤児院周りにも兵を増やして対応すると言っていたが、それでは不安は残る。
私は無い頭をひねり考えた。
「ねえティナちゃん。私達と一緒にここに住む気はない?」
ついそう言ってしまった私。
ティナちゃんはちょっと恥ずかしそうにしていたが、チラっと隣のレナートを見た後、グッと両手を握ってこちらを見た。
「レナートも一緒に、いいですか?」
「もちろん!」
私はやっぱそういうことだよね!と歓喜しながら即答した。
レナートは絶賛混乱中だったが……
「私と一緒は嫌なの?」
「嫌、じゃないです」
こんな感じで撃沈していた。
こうして拠点に新たな住人が増え、また少し賑やかになるのであった。
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