73.ニコレッタ、聖女の権力を使ってみる。
ティナの話をゆっくりと聞いている私。
「その後はどうしたの?」
「……見つかったら、殺されちゃうと思ったから、見つかりませんようにってやったの」
そう言った瞬間、目の前のティナが、そこに居るけど何となくいないような、そんな不思議な感覚になってしまった。
「認識阻害のようなものですね。この子は空間魔法の才能があるようです」
カーリーがそう説明してくれた。
一瞬、空間魔法!カッコイイ!と思ったのは内緒。私もできるかな?
そこから怖くなったティナは、持ち出してしまったそれを近くの孤児院に置いてきたそうだ。
孤児院側が言っていた『気付かない間に寄付されていた』というのは認識阻害を使ったまま置いてきたからだろう。ティナはその代わりにと部屋にあった果物などを貰ってきたと。
それから暫く転移魔法を使おうとしても旨く行かず、そこまで話したところでティナは急に口を噤んでしまった。
何を聞いても首を振るばかりだった。
とりあえず今日のところは、と城に保護されることになった。
翌日、街の警備兵の詰所に「ティナを返して」と泣きながらやってきた男の子がいたと報告が入ってきたらしく、私も拠点へやってきたカルロと共に、その警備隊の詰所を訪ねた。
その男の子、レナートは、自分が全部悪いと泣きじゃくっていたという。
話を聞くと、最初に寄付のあった孤児院は元々ティナが育った孤児院だと言う。
混乱していたティナはそこで仲の良かったレナートを頼り、レナートの部屋でこっそり匿ったのだと言う。食事も自分の分を分け与え、なんとか食いつないだと。
転移についても外で何度か試したができなかったそうだ。
だが満月の晩は一番魔力が増えるというのも、孤児院にあった本に書いてあった知識だったらしく、満月が近ければ使えるのではと思って実際に試したら成功したそうだ。
満月の話で誰も聞き返さなかったので、私は口をぎゅっと結んでいたが、後でこっそりカルロに聞くと『子供でも知ってる基礎知識』だったらしい。私、知らなかったけど?
後はレナートが孤児院の大人たちが愚痴っていた話をそのままティナに伝え、窓から侵入して殺すと言う大雑把な計画で犯行を重ねたらしい。
そこから2人は奪ったお金を他の孤児院に寄付するように考え、少しでも恵まれない孤児が居なくなるようにと考えていたそうだ。
事情はどうあれ貴族殺しだ。
それなりの処罰がと言われたが、罰することは納得のいかなかった私は全力で抗議するとカルロ経由で陛下に伝えると、すぐに陛下から関係者には箝口令を敷かれた。ティナ達も元の孤児院で不自由なく生活できることを約束してくれた。
「駄目なら城に直接乗り込もうと思ってたんだけどね」
「そりゃ、そうならなくて何よりだ」
カルロから報告を聞いた時の会話である。カルロは冷や汗を流しながら返答していた。
2人が無罪放免となった反面、その孤児院の関係者たちは極刑となった。
王国からの補助金も出ているのだが、それを着服していたらしい。ティナを秘密裏に子爵に売り払ったのもこの孤児院の大人達だ。さらに今回の寄付金も過少に報告し、そのほとんどを私的に使っていたとか……
もう、どこに悪人が潜んでいるか分からないなと改めて人の怖さを実感した。
結果、各地の孤児院にも調査が入り、今後は監視体制を強化すると言う。
今回監視していた悪名高い貴族家にも調査が入り、何かが出てきたら廃爵にすることも教えてくれた。
他にも噂のある貴族たちも多数いたようで、この際まとめてと言っていたので、今回の事で結局カルロが暫く家に帰れなそうだとエレナが愚痴っていた。留守の時は結構な頻度で拠点に遊びに来てくれたので、私としては大満足であった。
そんなある日、拠点で談笑中、吐き気を覚えたエレナ。
顔色悪くトイレから出てきたエレナを鑑定すると、エレナの中に別の存在を確認することができた。
「エレナさん!おめでとうございます!」
「えっ、じゃあ、これってやっぱり……そうよね!」
戸惑いの後、はにかむエレナにキュンとする。
「ふふふ。ありがとうニコちゃん!」
話を聞けば最近は体調が悪く、今までも先ほどの様に気持ちが悪くなってしまう事もあったようだ。
「でも、不安だわ……」
やはり王国内は慌ただしく、カルロも中々帰ってこれない状況が続いている。
かといって、この世界に実家へ里帰りといった風習は無く、拠点に暫くお泊り、なんてことも「カルロが心配だわ?」とエレナからはやんわりと断られてしまった。
私は、カルロの負担を減らすべく陛下に直談判する為、フェル達を連れて城へと向かった。そして、不機嫌を隠さず突撃した私に、陛下は慌てていつもの部屋へとやってきた。
「新婚で妊婦の旦那様が毎日帰れないって、どんだけ劣悪な職場環境なんですか!これからはちゃんと配慮してあげて下さい!」
そう言う私にコクコクと首を動かす陛下。
その後、第六隊の補助をする為、他の隊から数人ずつ人員を回してもらい、毎週必ず休みが取れる環境に戻ったそうだ。体の自由が利かなくなってきたらヘルパーさんも頼むと聞いてホッとする。
ここぞとばかりに聖女の権力を使った私は、お詫びの意味も込めてせっせと聖魔石と大きな魔石をいくつか作り、陛下に献上するのであった。
そんなことをやっていた数日後、自分はこの世界に来て初めての体調不良に寝込むことになる。
その時は疲れかな?と思ったが、次の日になっても起き上がることができなかった私。
「私、死ぬのかな?」
そんな不安な気持ちになった私を、カーリーは困った顔で見つめていた。
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