71.ニコレッタ、結婚式を挙げてしまう。
聖宝神殿で行われた合同結婚式。
沢山の人に祝福され式は進んでゆく。
今回の結婚式は、「聖女様の結婚式だ!流石にふざけた式には出来ない」と言った陛下が直々にその道のスペシャリストを集め、私とエレナの希望によりオーソドックスな式となったが、緻密なスケージュールの上で行われることになってしまった。
フェルを除く3人は衣装合わせを軽くしただけだで、後は任せてと当日まで放置されていた。フェルはあの式典の時の服装で大丈夫と言われていた。
それでも、当日にはインカムのような魔道具により、逐次伝えられる指示に助けられ、式次第が順調に進んでいった。
これなら問題なく終わるな。そう思っていた私。
式次第は終盤に差し掛かる。
不覚にも安心しきっていた私へ出された次なる指示。
『次は指輪交換となります。指輪は持ってますよね?フェル様に指輪をはめてもらいますので左手薬指を出して下さい!その後にフェル様へ指輪を、同じ様に左手薬指で、そうです。そうそう』
指示を聞きながらロボットの様に指輪をはめる。
フェルも嬉しそうに指を出している。ドキドキが止まらない。
『そして後は誓いのキスです!さあ、ガツーンとぶちかましちゃってください!』
私は一瞬ヒゥッとなり、呼吸が止まるかと思った。
私に指示を出す役をじゃんけんにより勝ち取ってしまったクラリスにより、誓いのキスが待っていることを告げられ固まっている私。首をギギギと回せば、沢山の知り合い&良く分からない人達がこちらに好奇の目を向けている。
こんなに沢山の視線を浴びての口づけなんて罰ゲームじゃない!と叫びたい気持ちを抑え、チラリと横をみるとすでにエレナとカルロが幸せそうに唇を重ねている。
その2人を見て、うっとりして油断してした私は、明後日を向いていた顎をクイッと戻され、向かいあったフェルに唇を押し付けられた。
その瞬間、頭が沸騰するような感覚となり、それに身を任せていたらいつの間にか式は終わっていた。
城の一室で目を覚まし、すぐに大失態を犯したのは間違いない!と気付いた私は、そばにいたカーリーに顛末を確認する。
私はキスにより幸せそうな笑みを浮かべて気を失った結果、フェルに横抱きにされて会場を後にしたそうだ。ゆっくりと私を抱いて出てゆく優しい表情のフェルには、惜しみない拍手が降り注いだという。
さらには、集まった女性陣がそのフェルの表情を見て、幸せそうな表情でバタバタと何人も倒れてしまったとも聞いた。
それを聞いた私は、1週間ほど引き篭もろうと口をぎゅっと結んで布団をかぶった。
不覚にもその2時間後にはお腹が自己主張を繰り返し、城の食堂に顔を出すことになる。
周りからの生暖かい視線を受け、やっぱり拠点へ帰ろうと思ったが、この後、陛下に式を取り仕切ってくれたお礼を言わねばならない。もちろんエレナも残っているので、一緒に食事を取る予定になっていると言われてしまえば、帰るのはその後にするしかなかった。
私は、王族が使ういつもの食堂で陛下に深々と頭を下げ、自らの失態を謝罪した。
「なーに、とても素敵な式だったと皆が申していた。特にあのシーンは、今後も貴族たちの語り草になるだろう!」
「陛下、記憶が無くなるほどの衝撃を与えても良いですか?」
陛下の揶揄いにこめかみをピクピクさせて言い返す。
陛下は隣の席に座る王妃ジュリアナの後ろにサッと顔だけ隠れる仕草をする。
仕方ない。王妃に免じてここは我慢だ。
そう思って運ばれてきた食事に視線を移した。
今回の夕食は、嬉しいことに蟹祭りだった。
少し前、この世界では蟹という生き物は存在しないと言うので、「とても残念だ」と言いながら、私は懲りずに蟹の美味しさについてミケランジェに洗脳をかける勢いで伝えていた。
その結果が、"蟹"="挟みを持った甲殻類"="シザーハンドという魔物"となったようだ。やはり世界に地球にいるような食べ頃なサイズの蟹はいないらしい。
見た目は巨大な黒い蟹。そして2メートル程度の巨大な体で、その甲羅は非常に固く防具などに加工するのも一苦労で、装備に加工するために解体した後では、私が伝えた可食部分などは毎回ボロボロ。
その上、倒してから時間も立っているものも多く、匂いを放っているのが通常だとか……
今回は食べることに焦点を置き、冒険者に依頼して捕獲したシザーハンドを冷凍保存。そして今回の為に作成した切れ味に特化した最高級の鉈により、蟹の身を新鮮な状態で取り出すことに成功したようだ。
もちろん鑑定で可食できることは確認済みだと教えてくれた。
その身はもうぶりんぶりんで量も多く、これならかなり高額にはなるが店にも提供できる料理に昇華できるとのことで、今回の夕食はこれをメインに組み立てられている。
茹で蟹と葉物のサラダや、蟹シャブには煮詰めた蟹味噌が添えてあったり、蟹の身がたっぷり入った揚げ物もあった。クリーミーコロッケにも近いが、もはや別の料理だ。
野菜と肉のお鍋には蟹のエキスがたっぷり詰まっていた。酢飯に炙った蟹ってお寿司だよね?お腹がいっぱいになってもう食べられないのが残念だったが、残りは全部魔法のバッグに詰め込んだ。
フェルは炙った蟹の身が気に入ったようで、ひたすらそれを食べていた。
今度蟹を捕獲に行くらしいので、エレナに出現場所を確認していた。
フェルならきっと風魔法を駆使してシザーハンドも上手に解体できるだろうし、蟹の身を大量にストックしておけば、酢味噌なんかもやってみたい。ついでとばかりに同じようにエビやウニに似た魔物も確認しておいた。
どちらもこの世界にはいないと言うが、やはり似た魔物ならいるようだ。
私は新婚旅行を海沿いの大きな港町の外れに行くのだとその場で決めた。
結局、そんな話をしていたら結婚式の恥ずかしさは全て忘れ、気分よく拠点まで帰ることができた。
だが、ディーゴ達によりピンクに飾りつけらていた寝室を見て色々なことが思い出され、急に逃げ出したい気持ちが芽生えたがやはり初めての夜である。複雑な思いを抱えつつ、布団に潜り込んでフェルに身を預けた。
布団の中で、私はフェルと結婚式を挙げ、無事夫婦になれたのだと改めて考えた私は、なぜか涙が出てしまいフェルに心配されてしまった。私を心配してくれるフェルの顔を見て心から安堵し、私は幸せなのだと実感することができた。
なんだかんだで皆には感謝な一日だった。
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