61.ニコレッタ、嘘つき男爵に想定外の大打撃を
予想通りあの白夜草は横流しをしていたようだ。
男爵の屋敷で3人の小汚い男に、大金と引き換えに白夜草を手渡していたそうだ。
「よし!やろう!」
「いや待ってよ」
「ニコを騙したってことだろ?」
おでこの血管がピクピクしているディーゴが鼻息荒く立ち上がっている。
「ある程度は予想通りではあるんだよ。あからさまに胡散臭かったし」
『じゃあどうする?』
「そうですよ!ニコ様に嘘を吐くなんて……そんな口、切り取って焼いてしまいましょう!」
フェルも私の腕に頬を摺り寄せながらそう聞いてくる。
クラリスは綺麗な顔を歪ませて怖いことを口走る。ギャップに引くのでやめてほしい。
『主様、あの白夜草ですが今回はすぐに薬とするため根からは取っていないのですよ。すぐに枯れてしまいます。観賞用なら土から採取せねばならないのです。あの男達は気付いてませんが、きっと後々……』
「なるほどね。じゃあ、あの男爵はどうなるんだろうねー?」
頬を緩ませた私の質問にカーリーはニッコリ笑顔を浮かべるだけだった。
それから1週間後、あの男爵の屋敷は荒らされ、最終的には火を放たれたそうだ。
幸い屋敷の者達はすぐに逃げ出し、被害は屋敷の全焼だけにとどまった。
そして、現場をしっかり押さえられた男爵と取引したという三人の男達も捕まった。男達は、黄金ファミリーという何でも屋だそうだ。そのファミリーも摘発され100名近くが様々な罪状で逮捕された。
王都でかなりの仕事を請け負っていたファミリーはこうして消滅した。
もちろんこれは、私から報告を受けたカルロ隊長率いる第六隊が、男爵家の屋敷と黄金ファミリーの拠点である喫茶店を連日張っていたからだ。
これで面倒事となってしまった今回の白夜草の騒動は終わりを迎えた。
モンティ男爵は黄金ファミリーの経営する賭場で多額の借金を作り、金策に奔走していたがままならず、男達の言われるがままに私にあの話を持ち掛けたそうだ。
そして白夜草の取り扱いも分からぬまま、2つの子爵家と3つの男爵家に白夜草を高額で売りつけたそうだ。
売りつけられた者達も詳しくは知らなかったようで、数日で枯れてしまったことに激怒してファミリーに返金と慰謝料を要求した。彼らも白夜草が手に入ったと彼方此方で自慢していたらしいし、面目丸つぶれなのだろう。
モンティ男爵家は廃爵。一家纏めて平民になって放逐。
もちろん本当にいた三人の娘たちは皆元気であったが、この話を聞いた夫人は即座に離縁。三人の娘を連れて実家の子爵家に帰ったそうだ。
残された裸一貫の男爵は、隠居して平民として小さな商会をやっている両親を頼るも、王家の怒りを恐れ当面の生活費を渡し働けと追い出されたようだ。
ファミリーの面々も、かなりの数が鉱山送りになったようだ。
ファビオラのいる鉱山かな?問題が起きなきゃいいな?と考え、それとなく尋ねると、どうやら違う場所らしいことを教えてもらう。
買い取りに関わった御貴族様の方は、それぞれ厳しく注意され、降爵しない代わりにとかなりの罰金が搾り取られたそうだ。
国庫はかなり潤ったと陛下も喜んでいるとのこと。
これらは全て私の勉強のために来てくれたエレオノーレが教えてくれた。
白夜草の在庫についても面倒になり、マルティナに全て預け、その使用を託した。マルティナなら適切に使ってくれるだろう。
王家からは白夜草について再度厳しい取り締まりがあると通達が出されることになった。
これで完全に騒動は終了。
……で、いいんだよね?王家の再三の注意すら無視する馬鹿な貴族は流石に居ないよね?一抹の不安を残しながらも、すでに在庫も全て放出したし、以後は完全にスルーすることを決めた私だった。
後日、王家からきた手紙を読んでイラっとしてしまう。
―――
親愛なるニコレッタ殿へ
ニコレッタ殿には今回のことでまた大きな借りができてしまった。
たまりにたまったツケを支払うには、やはり王座でも明け渡すしかないなと本気で考えている。
どうかな?王国初の女王になる気はないかな?
私はいつでも隠居する心構えだ。
今ならとーっても可愛い婿も付いてくるぞ?
最近は魔法もバンバン発動できるようになってきたようだ。
笑顔の似合う優秀な婿となり、ニコレッタ殿に癒しを与えてくれるだろう。
城を我が家と思って、いつでも遊びに来てほしい。
それでは、良いお返事待ってまーす。
国王陛下、ピエルルイジ・ユリシースより愛をこめて
―――
読み終わった後、そのまま破り捨てたのは言うまでもないだろう。
ただ、エレオノーレには見返りに帝国の南の島にあるカカオの実をどうにかして大量に仕入れ、料理長のミケランジェに渡すようにしてほしいとお願いしておいた。ミケランジェには次に会った時、チョコについて教えておこうと思う。
カカオの事を知ったのは最近だ。
街中で買い物中に健康に良い薬として売られていたのを見つけ、店主に話を聞くと帝国の南の島で生産されていると教えてもらった。だが、どうやらそれほど作っておらず、たまにこうやって入ってくる程度だと言っていた。
なので"大量に"と伝えたからには、陛下なら帝国と相談して何とか量産体制を整えてくれるのでは?と思ってのお願いだった。
もちろん私にチョコレートを作る知識は無い。
だが優秀な料理長なら、「熟成させたカカオに砂糖を入れて煮詰め、完成品は濃厚なコクと甘さがある菓子だ」と拙い私の知識を伝えれば、きっと何とかしてしてくれるだろうという淡い期待があった。
いずれはチョコパンやチョコ掛けポテトも食べたいなと期待に胸を膨らませる。
今の私の望みは食の充実だ!
そう思いつつ久しぶりに人型となって私の隣に座り、エレオノーレの授業を一緒に受けているフェルの横顔を、ドキドキとして見ている私だった。
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