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[完結]捨てられ聖女と森の主・妹のためにと捨てられたんですけど?  作者: 安ころもっち


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51.ニコレッタ、帝国の不穏な空気を知る。

あれから1週間と少しが経った。


帝国は本当にあの後すぐに戻って行ったのだと聞いた。

馬車に揺られて4~5日程度かかるので、多分だがもう帰りついたことだろう。帰り着いた帝国はすぐに軍備を整え始めたとの情報も伝わってきていた。私に打ち負かされ恥をかいたから?


私悪くないよね?


帝国の女騎士クラリスは王国にまだ滞在している。

恐らくこのまま王国民になるようだ。


騎士見習いとして鍛錬を積むと言っているとのこと。


クラリスは元々孤児で、両親はすでに他界していたとのこと。

生きるために必死で磨いたその実力だけで帝国の騎士として成り上がり、皇帝妃に見初められたそうだが、その風当たりは強く皇帝妃付きの騎士という立場を失えば、他の騎士達に難癖をつけられつらい日々に戻るだろうと……

そもそもあの見目の良い騎士、ロベール・アザールという帝国騎士団長だという男に睨まれたら、騎士としてはもう終わっているのだとか……


親しい知り合いもいないので、お望みとあらば王国に骨を埋める覚悟もできているとのことで、王妃ジュリアナ様が第二隊で鍛えてあげてはどうか?とおっしゃったそうだ。

第二隊隊長のモニカ様も快く引き受けたらしい。


そもそも私へ攻撃することができず、同僚の帝国騎士に啖呵を切った姿に感動したらしい。私もあれには痺れたし、素敵な女騎士が増えることには大賛成だ。頑張ってほしいと心の中でエールを送っていた。


そんなある日、あの元公爵家の面々が"強制労働させられていたはずの鉱山を抜け出した"という話がエレナ経由で知らされた。

また厄介な……と思ったが、一応指名手配の様に各ギルドに手配書が出ているし、かなりの辺境の地だと聞いているので大丈夫だろう。そう高をくくっていた私だった。


◆◇◆◇◆


ニコレッタの1つ下の妹、ファビオラは今日も鉱山で治癒をし続ける毎日を送っている。


ファビオラは、初めてここにきた時は本当に働きたくなくて泣いていた。

なぜ私がこんなところで粗暴な男たちに囲まれ労働をしなくてはいけないのだと……


だが周りからの厳しい目があり、嫌々ながら毎日のように出る怪我人を治療し、他の者と一緒に炊事や洗濯などもこなすという日々に明け暮れていた。


そんなある日、疲れ果てたファビオラはその診療所の管理をしている神官につい泣きついた。


最初は「何をそんな贅沢な」と言っていたが、ファビオラがその男に体を寄せ涙目で見上げると、その男の喉がゴクリと鳴った音が聞こえた。


それからファビオラは常にその男に甘えるようにして接するようになった。

それを機に待遇も徐々に改善され、2週間もしない内に治癒以外の事は全て他の炭鉱員が持ち回りでやってくれるようになった。


その男の部屋へ赴き初めてを捧げたのはその数日後の事だった。

心が壊れかけていたファビオラだったが、治癒だけを行う日々に体調が改善し、治癒の力も大きくなったのを感じた。


ファビオラの治癒はとても気持ちが良いようで、炭鉱員の男達はなにかとファビオラを可愛がっていたようだ。

もちろんファビオラは男達の視線には気をくばり、時折、上目遣いを使ったり恥ずかしそうに視線を反らしたり、時には視線を感じる胸をハニカミながら隠したりと頑張っていた。


治療を終えたときにも、男達からお礼を言われる前に「治って良かったわ」と笑顔で言ってもみた。イメージはそう、あの、聖女ともてはやされている姉の様に……実際にはほとんど会ったことも無いので、ファビオラの中にあるイメージの聖女様であった。


ファビオラはここに来てから外の情報もそれなりに入手できていた。

ファビオラの体を弄ぶ神官からの情報だ。


姉のニコレッタは聖女様だと周りに持て囃されているようで、最初はイラっとしたが、実は2才で森に捨てられ普通なら死んで当然な状態だったと書かれていた。

そこから奇跡的にも魔法の力に目覚め、一人で森の中を生き延び、その森の主である神獣様に守られるようになったとか……


確かに母は捨てた姉がいると言っていた。

記事に書かれていることは本当なのだろうと感じた。


でも、2才で森を生き抜くってどうなの?そう思いもしたが徐々にそんな姉にした自分の我儘な行為に嫌悪した。

そして、ファビオラはここで一生を懺悔して過ごす覚悟を決めた。


少しだけ、もう一度だけで良いから姉に会いたい気持ちもあったが、それは迷惑というものだと分かっていた。

もう会えないのだ。

ファビオラは自分の願いを心の奥深くに封印した。


ある日、ファビオラはいつものように診療所のベッドの上で神官の男に抱きしめられていた。

こういった行為は何度もしているが、未だに慣れない。


体を許すのは週に1度程度だが、神官の男は時間があれば抱きついてきたり、キスをせがんできたりと節操がない。


その度にうまくはぐらかしては居た。

だがそれは当然ながら見ていた者もいた。


神官に抱きしめられ、虚しくて少し涙が出たファビオラの視界に炭鉱員が数名立っているのが見え、慌てて神官を突き放す。


言い訳をしようとしたがそれより先に、炭鉱員の男のひとりが「ファビオラちゃんに何をしてるんだ!」と叫んでいた。

神官の男はすぐに言い訳を口にしようとしたのに気付く。


「これはファビ……」

ファビオラは自分の名を言いかけた神官の口をふさぐ。


必死だった。


口をふさがれ。ファビオラにも目の前の炭鉱員達にも命令が出せなくなった神官は、男達に袋叩きにされ亡き者になった。

ファビオラは"以前から強要されていた"と偽りその場を切り抜けた。


神官の遺体は男達が運び出し、男の1人に「ファビオラちゃんは気にしなくて良いからね」と言われ、ファビオラも目の前で人が殴り殺されるという事態に少し涙ぐみながらもうなずいた。


監視長があの神官が脱走したという報告を聞いて、暫くはファビオラ一人で診療所を切り盛りしてということになった。

家事などについては炭鉱員の女性陣に賄ってもらうことにした。炭鉱員からも人気の高いファビオラに配慮したようで、すんなりと3人の女性がファビオラの従者のように身の回りの世話をしてくれるようになった。


もちろんその女性陣は3人共かなり感謝してくれた。

家事と炭鉱での作業では、家事は比べるまでもなく楽な仕事であった。


こうしてファビオラが新たな城を築き上げた頃、あの男達はやってきた。

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