41.ニコレッタ、エレナと事後を報告する。
安堵の為か涙が出てしまった私の顔に、困惑したエレナ。
「えっ?ちょっと待って?ニコちゃん?大丈夫よ?私は全然大丈夫だったんだから泣かないで?」
オロオロしながら私の背中を摩るエレナを見て、心が軽くなった私はエレナの胸に飛び込み、その柔らかいぽよんを堪能した。
「ニコレッタ殿、そろそろ詳しい話を頂きたいのだがよろしいかな?」
顔を上げると陛下がこちらの様子を窺っていた。
その左右にはカルロとエレオノーレ、そして未だに目を輝かせているローランドもいた。
私はノルベルトが森まで知らせに来てくれたところからを、エレナがそれを補足するようにギルドで起こったことからを説明した。
途中ローランドが私とエレナに抱き着いて、一生懸命背中をポンポンしようとしていたのには少しほっこりしたが、エレナの話を聞いて我慢できなくなった私は固まって縮こまっている公爵三家を睨みつけた。
「あい分かった。この件はこちらで任せて貰っても良いかな?」
私をじっと見ながら言う陛下を見ながら少しだけ考える。
相手は国の重責を担う公爵三家だ。
もしかしたら王家も厳しく出れないのかもしれない。でも厳しくしないのであれば今後も同じようなことが起こりうる可能性が……
「甘い処罰なら、私が直接殴り込むから。抑止力……今後、私や、私の大切な人達に害が及ばないようにしたいんだよね」
「分かっている。最低でも公爵三家は取り潰しだ。そして、今回の事はしっかりと公開して二度とこんなことが起きないようにいたそう」
私は、力強くそう言う陛下を信じ、すべて任せることにした。
「で、フェル様とディーゴ様というのはその……」
「あ、そっちはまだだったね……」
私は2人を呼ぶと元の姿に戻ってもらった。
訓練場内に阿鼻叫喚の大混乱となった。三公爵たちは震えあがって地面に頭を擦りつけていた。
「2人とも人型ー、戻って戻って」
慌ててそう言って戻ってもらったが、そもそも戻るじゃないよね?さっきまでの姿が本来の姿なのだから、どう言ったらいいのかな?変身して?人型になっといて?まあいいか。あっ、そうだ!
「今のも大々的に発表しておいたら、もう誰も私に手を出さないかな?」
「そう、だな」
喉をゴクリと鳴らし返答する陛下。
そしてまた目を輝かせたローランドがディーゴに「ドラゴンさん!かっこいい!」と言って抱き着いている。この子はやっぱり大物かもしれないね。そんなローランドを見ている私に、陛下の咳払いが聞こえた。
「以前も言ったと思うが、ローランドは13才、ニコレッタ殿の1つ上だ。どうだ?優良物件ではないか?」
私は思わず「うぐっ」と喉を詰まらせる。
「違うの!私、王家に嫁ぐとか絶対に無いから!あと、今のはあれなの、弟的な?そう、弟を見る目線で見てるだけだから!」
言ってて恥ずかしくなってきた私は、エレナに抱き着き顔を隠した。
そんな私の頭を、エレナはポンポンと優しく撫でてくれた。
「すべての報告はエレナ殿に伝えれば良いのだろう?」
「えっ私?」
「うん。お姉ちゃんにお願い」
笑顔の私と混乱するままのエレナを残して、陛下達はこの場を出ていった。
ローランドが「またお会い出来たら嬉しいです!」と興奮気味に手を握ってくるので、「そうね」と答え、苦笑いしながら見送った。ディーゴはご機嫌でローランドに手を振っていた。
訓練所に残っていた公爵家や教会の関係者達は、後から入ってきた多数の兵により捕縛され引きずられるように連行されていった。
「帰ろっか」
そう言って手を引くエレナと、欠伸をしながら付いてくるフェル、ご機嫌なディーゴと一緒に教会を出た。
教会の外に出る時にはあの広場に集まった参拝者達にまた拝まれることになったが、「大司教様が拘束されていたぞ」「聖女様に何かやらかしたようだ」「近いうちに国からの発表があるらしい」などの声も聞こえた。
エレナと手を繋ぎ、夕日をバックにゆっくりとギルドまで歩いてゆく。
歩きながらペンダントを見せてもらい、減っている魔力を回復させておく。僅かに減っている聖魔石を見てまた少し心がざわついたが、エレナが「これが有ったから、安心できたんだ」と言ってくれたので嬉しくなってしまた。
「よし!今度自動で結界が張れる魔道具作る!」
そう言って拳を握ると、「ふふふ、楽しみね」と笑うエレナを見てまた笑ってしまう。あんなことがあった後だがとても幸せな時間だと感じた。
ギルドに戻ると、受付にはギルド長も業務に汗を流していたが、こちらを見て慌てて駆け寄ってきた。
それと同時にギルド内にいた多数の冒険者に囲まれた。
その中にはあの冒険者達、そしてノルベルトもいた。遅い時間にもかかわらず、あれから心配して待っていてくれたようだ。
私とエレナの無事を確認し安堵する面々。
ギルド長はエレナが連れ去られた後、すぐに森まで行くと決めて出ようとしたが、あの4人の冒険者にノルベルトと一緒に行くから待っていてくれと説得されたらしい。
その話を聞いてギルド長を少しだけ見直した。
「ありがとうね」とお礼を言うと、照れくさそうに頬を掻いているギルド長を見て、そう言えば名前、なんだっけ?と思ったが、聞くほどでもないなと思い視線をそらした。おっさんのハニカミに興味は無いのだ。
その後、手持ちの大量の食材や特製ソースの数々、メープルシロップやフルーツジャムなどを放出し、食堂で調理人と共に大量の料理を作って振舞った。ビールも私の奢りだと言うとそのまま宴会へと突入してゆく。
お肉もドンドン焼いていくが、プロが焼いたお肉が美味しいと思ったのか、ディーゴがその料理人の方にぽよよんを当てながら森で働かないかと勧誘していた。
頬を緩ませながら乗り気になっていたその料理人だが、エレナが「ディーゴさんは黒龍よ」と教えてあげると、「私は月曜日以外はここに居ますので、いつでも食べに来て下さい!」と遠回しに断られていた。
多分だがディーゴは毎日のようにここに食べに行きそうな気がする。
後で特製デミグラスソースモドキの作り方を教えておこうと思った。
その後、まだ盛り上がっている面々を他所に。金貨を20枚程先払いしてギルドを後にした。もちろんエレナも一緒だ。
ノルベルトはまだ東門で見かける兵士たちと肩を組んで飲んでいたので、何も伝えずにギルドを出てきた。明日にでも改めて詰所に出向いてお礼を言おう。ちゃんと出勤できれば良いけど……と余計な心配をしながらそう思った。
エレナを家まで送り届けた後、少し眠気も感じていた私はフェルの背中にしがみつく様に乗ると、気付けば拠点で朝を迎えることとなった。
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