40.ニコレッタ、戦いの後に安堵して
茶番は終わり大きく息をはき周りを見渡す。
公爵達は膝をついて愕然としている。
陛下は少し驚いている程度かな?兵士達はざわついてる。
陛下の隣では拳を胸の前でふりふりして目を輝かせているローランド。こいつ、ホントは狙ってやってるんじゃないか?その仕草にどうしても頬が緩んでしまう。フェルとディーゴは暇そうに地面に胡坐をかいてボーっとしている。
そんな中、ガチャガチャとした音が大きくなってくる。
「ニコちゃーん!」
エレナの呼ぶ声も聞こえたので、私は急いで入り口へと向かって走った。
◆◇◆◇◆
薄暗く狭い部屋の中、私は椅子に座りだた漠然と床を見つめている。
ここは、教会の規律を破った神官が反省するための部屋だと聞いた。
小さな室内には1人用のテーブルと椅子があり、3方は白い壁。1方には鉄格子があり、その外側の通路の椅子には神官が1人座っており同じようにボーとしているようだ。
ほんの数時間前、いつものようにギルドで業務を行っていると、もう何度目かになるソレンティーノ公爵家からの依頼として、公爵家の使いだという男からニコレッタを招待するとの伝言がなされた。
度々伝言に訪れているその使いの男は、ちゃんと伝えているのか?何故返答がない!お前のところで止めているのではないか?などと騒ぎ立てるので、つい感情的に「ニコちゃんは絶対にあなた達と会わない!」と言ってしまった。
その直後、待機させてたかのようにギルドへなだれ込んできた兵士により、私は公爵家への不敬罪と言われ外に止めてあった馬車に押し込められた。
慌てて飛び出してきたギルド長には伝令の者が叫んでいる。
「この者は不敬罪で処罰せねばならない!だが聖女様であらせられるニコレッタ殿と懇意にされてるとのこと、ニコレッタ殿が我々の主催する歓談の席に参加頂けるのであれば、この者の罪は不問にすると公爵様はおっしゃられた!
公爵様は大聖堂でお待ちしているとのこと!至急、聖女ニコレッタ殿にお伝え頂きたい!この者の身はそれまで我々が責任をもって預かろう!」
ギルド長はビシっと背筋を伸ばしそれを聞いており、私は馬車の窓に体を押し付けられながら、混乱する頭でその言葉を聞いていた。
それから暫くして、トゥラン聖教会の大聖堂の前に馬車は止まり、私は兵士に引きずり出されるようにしてこの部屋へと連れてこられた。
それから30分程だろうか?
鉄格子の向こうには太ましい体に煌びやかな青いコート、太い手の指にはゴテゴテと宝石類を身につけたソレンティーノ公爵と、その子息であるテオフィロが、この教会の大司教、ラディスラオ・ソレンティーノ・トゥランと一緒にやってきた。
そして、鉄格子の扉が開き、テオフィロだけが中へと入って来たので警戒して身を抱いていた。
そんな私の全身を嘗め回すように見た後、「聖女が来るまで大人しくしてると良い」と言った。それを聞いた途端、私は自分の迂闊な返答でニコレッタに迷惑をかけてしまった事を理解してしまった。
「ニコちゃんに手を出したら許さないから!」
せめてもの抵抗として目の前の男をキッと睨む。
次の瞬間、頬に衝撃と強い痛みを感じた後、胸元から暖かい光が広がり痛みが消えた事に戸惑った。ああ、ニコレッタから貰ったペンダント……私はまた守られたのだと少し嬉しくなった。
その光景に驚くテオフィロは、私の胸元からチェーンを引っ張り、ニコレッタから貰ったペンダントを見て口元を緩ませた。
「触らないで!」
私はペンダントを抱き込むようにして部屋の隅に移動した。
テオフィロは舌打ちをした後、「聖女を娶った後、お前も一緒に貰ってやろう!妾として可愛がってやるから、それまで楽しみに待っていろ!」と言いながらこの部屋を出ていった。
私は悔しさに歯噛みしながら、男達の背中を見送った。
そして椅子に座りボーっと床を眺めていた。
すると突然、ガチャガチャと音と合わせて怒号も聞こえてきた。
悲鳴と共にガガガシャンと大きな音を立てて階段を落ちてきた兵士が、目の前で体を抱く様にして呻いている。
そして、重厚な鎧を着た体格の良い赤髪の男性が階段を降りてくるのが見えた。
この男性はたしか聖騎士団第六隊の隊長さんだったはず……その後ろからは同じように赤髪の綺麗なお姉さんが、このローブ、王国魔道師の筆頭様では?
その後ろから何人かの兵士も降りてきた中、私を監視していた兵士はすぐに観念したようで、部屋の扉の鍵を筆頭様に手渡していた。
そして、エレオノーレと名乗った筆頭様は私に「怪我はない?」と確認され、無事だと伝えると今はニコレッタが公爵達と決闘中らしいと教えてくれた。
一瞬パニックになったが、考えてみればニコレッタがそこらの男に負けるイメージがまったく湧かない。規格外の身体能力にディーゴより授けられた結界もある。そう考えてホッとする。
私が心配していたのは、私を人質にしてそのまま言いなりになってしまうことだった。
杞憂に終わった心配が解消された私は、2人に「早くニコちゃんの元に!」と力強く伝えて階段を駆け上がった。
◆◇◆◇◆
騒がしくなってきた入り口まで走る。
その入り口から駆け込んできたエレナの姿が見えた。
安堵と共に笑顔になってエレナをぎゅっと抱きしめようとしたのだが、逆にエレナに抱き上げられてしまった。エレナは私に頬をすりよせると何度も私の名を呼んでいる。そのことに泣きそうになる。
「お姉ちゃん、ちょっと降ろして?私は大丈夫だから!ね?お願いだから落ち着いて?」
ぎゅーぎゅーと私を締め付けるエレナにお願いすると、「うー」と唸りながら私を下ろし今度は全身をペタペタと弄ってくる。
「私は無傷だよ?お姉ちゃん知ってるでしょ?私の結界はめちゃ固いって。それより、お姉ちゃんはケガしてない?不埒なことされてない?何かあればあいつら全員抹殺するから!」
「大丈夫大丈夫。ちょっとあそこで伸びてる奴に叩かれたけど、ニコちゃんからもらったこれもあったしね!」
そう言って首元のチェーンを引き聖魔石のペンダントを見せるエレナ。
私はしゃがんでいるエレナを抱きしめると何度も謝り、ホッとしたからか涙が止まらなかった。
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