31.ニコレッタ、御三家のお誘いの代わりに
「御三家って……王家とどっちが上ですか?」
そう言った私に驚いたギルド長は暫く惚けた後、「王家、でしょうね」とつぶやいた。そして「なら放置で」と即答した私に、エレナも笑顔でうなずいていた。それを聞いたギルド長は「ではそのように……」と一言だけ告げ、静かに部屋を出ていった。
その肩を落とした背中には哀愁を感じたが、だからと言ってご機嫌取のように面倒ごとに飛び込むほどお人よしではない。
「じゃ、食べよっか?」
こうして、何事もなくお弁当を食べながら取りとめもない話で楽しく過ごす。
私は特に修行の際の2人の無慈悲な攻撃の話などを伝えると、エレナは毎回同じように私の頭を撫でながら「ちゃんと手加減してあげてくださいね!」と2人を睨み、「当然だ!何度も言っているだろ!」とフェルが軽く怒って見せるテンプレをしていた。
ディーゴは「もう多少間違ってもニコは死なねーよ」と笑っているが、「間違わないでよ!」と頬を膨らませて抗議した。間違って頭を打ち抜かれたら死んでしまう。
「訓練かー。私も何かやろうかな?」
エレナはそう言って下を向く。
「最近ちょっと……ニコちゃんから貰ってるメープル美味しすぎるんだよね。ついついデザートが進んじゃって……」
そう言ってお腹をさするエレナを微笑ましく感じてしまった。
「エレナさんは全然太って見えないですけど、じゃあ暫くメープル止めとく?」
「駄目よ!あれがなきゃ……あ、いや……まあそっちは我慢できないけど、運動は頑張ろうかな?」
エレナの勢いに少し引くが、運動で痩せた方が絶対に健康には良いからね。頑張ってほしい。
「そうだ、今度一緒に森に来る?」
「えっ?いいの?」
「うん。運動する用のアスレチックもあるし」
「アスレチック?」
「あ、うーん、色々な運動するための、設備?」
「そんなのあるの?いくいく!」
ということで、エレナから早速明日の休みを利用してお泊りをすることになったので、今日はこのまま街でしばらく時間をつぶし、夕方一緒に森まで行くことになった。
エレナと一旦別れ、街中で買い出しをしてから迎えに行った。そして……
「こ、こ、これが!高位冒険者でも立ち入りできないという不帰の森の最深部……でいいんだよね?」
「そうだよ」
森の中にぽっかりと開いた広いスペースには、寝床にしている拠点に、屋根付きの調理&食事も楽しめるスペース、うたた寝用にビーチチェアのような椅子にテーブル、その近くにはハンモックも設置している。
拠点の中を見ればお風呂にトイレもついている。いつも快適な温度を保つことのできているダブルベッドも設置してある。今日はエレナと一緒におしゃべりしながらベッドで寝落ちしようと画策している。
夕食には取って置きのワイバーン肉とここで育てた野菜でお持て成ししようと思っている。
ワイバーン肉は黒龍の谷に行った時に数匹狩ったものがまだ残っている。
固くてあまり好きじゃないとディーゴが言っていたので量は取ってこなかったが、私が筋を丁寧にカットして赤みの強い部分を焼いて食べるとトロトロになって美味しかったのだ。
もちろんすぐにもっと狩ってこよう!と言うディーゴに、無くなってからでいいじゃん!と言っているが、その内また狩りに行くことになるだろう。
甘辛いタレと一緒に3時間ほど煮込んだものを好評だった。
そう言えばまだそれはお弁当には入れてないなと気付き、作り置きはあるので一緒に味見して良ければ来週使ってみようと考えた。
彼方此方と拠点周りをひととおり見て回った後は夕食の準備だ。
皆に浄化を施すと、手早くお肉と野菜をカットし終えると焼き台まで移動する。今日は純粋に焼肉を楽しんでもらおうとサラダは王都の市場で買ったレタスを適当にちぎったもののみだ。
そんな簡単な物でもマヨネーズさえあれば良いだろう。
焼肉は美味しい肉さえあれば幸せに成れるのは間違いないのだから。
焼き台の周りに椅子を出すと、エレナと並んで座り食材を焼いてゆく。
人型ディーゴが「肉・肉・お肉っ!にっく・肉~!」と私が教えたフレーズから大きく逸脱した歌を上機嫌で歌いながら、トングをカチカチ鳴らして肉が焼けるのを待っている。
トングと同じように足をタンタンと鳴らしリズムを取っているので、その都度ぽよよんと弾んでいるぽよよんから目が離せずにいたが、「おいニコ、食べるぞ?」という声と共に目の前に置かれた肉の乗った皿を見てハッとした。
「よし食べよう!」
何事もなかったかのように号令をかけ、皆で頂きますをしてお肉に齧り付く。
やっぱりワイバーン肉は美味い!
特製のピリ辛タレでご飯と一緒に掻きこめばいくらでも食べられる気がする。それは初めて食べるエレナも同じようで、口の中にお肉とご飯を詰め込んだ栗鼠のような顔で、私を見ながら必死に何か言っているようだ。
多分だが"美味しい"とか"最高です"とか言っているのだろう。青みがかった美しい瞳がキラキラと輝いてるからね。
私も負けず肉肉野菜肉野菜という伝統を守って食べ進める。
ナスもピーマンも毎日食べてるけど本当に飽きないな。
王都のお肉屋さんに仕込んでもらったソーセージは、多分野菜のカテゴリーで良いはずだ!と異次元の勝手な解釈でお肉の後にフーフーしてから口に放り込む。まだ熱い肉汁がパシュっと口の中で広がり最高であった。
後は冷たいシェイクを流し込み夢中で食べていたが、そう言えばエレナにソーセージの事を言ってなかったなと思って説明を、と言ったところで「あっひー!」という謎悲鳴がエレナから発せられた。
「ご、ごめんねエレナさん!これ、アツアツになるから気を付けてって言うの忘れてた!どうしよう!あっ治癒でいのか!」
涙目でシェイクをチューチューした後に舌を出し両手で扇いでいるエレナの姿に混乱した私だが、私が動くより先にディーゴが指先からエレナの出した舌に向かって冷たい風を送っていたようだ。
「ふぁー」と言いながら目とつぶり舌を涼ませているエレナに何かちょっといけない感情が芽生え目が離せなかったが、それはバナナシェイクをズズズと飲み干し気を紛らわせた。
私も一応と治癒を重ね掛けするとすぐに舌の火傷も癒えたようで、今度は慎重にフーフーしてソーセージを咥えていたエレナ。それはそれでまた……
私は、必死で頭を振り煩悩を退散させた。
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