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[完結]捨てられ聖女と森の主・妹のためにと捨てられたんですけど?  作者: 安ころもっち


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03.ニコレッタ、森の主と遭遇

森の中で無防備にすやすやと眠る私。

だが突然感じる視線に体を起こす。そして思わず声をあげそうになる。


目の前には大きな犬、いや、狼ってやつか?

ふわふわとした銀の毛並みが月明かりに照らされキラキラと輝いて見えた。私はそれを見て思わず「綺麗だな」と口にする。一瞬でその毛並みに魅了されたように見つめてしまう。もうこの狼から目が離せない。


『お前、私が怖くは無いのか?』


そう声がかけられる。脳内に直接声が聞こえる感じだ。

少し驚くが"さすが異世界"と納得する。


「怖くはないよ。というか綺麗で見惚れちゃう。でも私を食べるっていうなら多少なりとも抵抗はするけど?」

『面白いことを言うが人なんぞ食わんよ。兎より不味いからな。だがお前は綺麗な魂をしているから美味いかもしれんな。抵抗する様も見てみたい気もする』

「これは、全力で抵抗する流れ?」

身構えて返答する私に『ふふっ』と口元をゆるませる目の前の狼。


『ひとつ聞きたい。さっき魔力を感じたがお前は魔法が使えるのか?』

「え?ああ、うん」

そう言って私は水の玉を手のひらに出した。


『ほお』と言って感心したその狼は私に近づくとその水の塊を舐めた。


『美味いな』

「そう?ありがとう。これで勘弁してくれるかな?」

内心びびってる私の問いに答えるようにまた笑う狼。


その後、森の主だと自称する狼に根掘り葉掘り私の生い立ちを聞かれた。


『人間とはなんと浅ましきことよ』

「ほんとにね」

『しかし、お前はその年で本当に達観してるな?私は子を産まんが似たような獣は2~3才で親離れする。だが人間は違うのだろう?』

「まあそうだね。私は人生は二度目だし」


その言葉を皮切りに、今度は前世の事についても彼是聞かれてしまう。楽しそうに笑う狼に私はまた見惚れてしまう。


『じゃあずっとここに居ても良いということだな』

「そうなるけど、さすがにキノコしか食べてないからね。すぐに死んじゃうかも」

『何があれば良い?』

「肉と調味料?」

『分かった!』


そう言ってすぐに姿を消す狼。すげーな。もうあんなところまで……

遠くにチラッと見えた狼の影に感嘆の声をあげる。


その数分後、兎を2匹、あとは……ワサビ!それに石?舐めるとしょっぱいって?これ岩塩じゃん!どこにあったの?岩山にいっぱいある?マジかやったねこれで生きて行ける!


すっかり打ち解けた私と森の主は、兎肉に塩とワサビでお腹を満たした。

子供の体にワサビはやばかったのは言うまでもない。暫く塩味のみだな。胡椒とか砂糖とかどっかに生えてないかな?


夜は狼のお腹に包まれるようにして寝たが、これは永遠に寝れる。ふわふわのもふもふで温かくて幸せ!

そう思ってたら翌朝は大雨に打たれ目を覚ます。


朝一に大粒の雨をぶっかけられ飛び起きた私。

心臓に悪すぎるんですけど!


回復した魔力で即座に屋根を作る。

にょきにょきと地面から生えてくる壁が途中で折れ曲がり、屋根を作ってその先から地面に向かって柱も生えた。その光景に森の主が驚いていた。


『お前、ちっちゃいのに凄いな。人間はそんなに魔法が使えるのか?』

「ちっちゃい言うな。他の人はどうだろね。分かんないや」


そう言いつつも、まだ余裕のある魔力で土壁をドンドン伸ばす。この辺で良いかな?だいたい5m四方を囲み、屋根もしっかり覆うように伸ばしてみた。魔力をさらに籠め固くする。流石に全部は鉄にはできないが、ハニカム構造のように……はならず適当に鉄まじりに筋を這わせるようにして強度を上げた。

その内全部鉄にしたら良いだろう。いや、それだとこれからの季節熱いかな?そう思って配置を入れ変え木造建築の構造のように柱部分に鉄、それ以外は強度のある土壁に変えた。


「そう言えば、勝手にここに作っちゃったけど良かった?ダメなら移動するけど?」

『かまわんよ。魔力は大丈夫か?』

「うーん、朝ごはんぐらいには使えるかな?」

『そうか。では行ってくる』


そう言い残してまた消えた。


◆◇◆◇◆


それから7年。

私は10才となった。


森の主である狼にはフェルという名を付けた。

狼さんや主さんと呼んでいたら名を付けろと言われ付けてみたが、そんなに簡単に名付けなんてして良いのかなと思う。私の愛読書にあった名付けで従魔に……とはならなかったのは少し残念だが良好な関係なので良しとしよう。


森の主であるフェルはフェンリルだと言う。フェンリルって伝説の存在ですよね?と驚いたのが懐かしい。もちろん鑑定でもそう出ているしね。でもフェルの称号欄には"不帰(かえらず)の森の主"の他に"銀の悪魔"や"森の死神"と言った怖い二つ名もあった。


最初に作った拠点を土へと返し、森の奥地へとフェルに乗って奥地まで移動したのは、私が捨てられてから凡そ1年過ぎた6年前のことだ。


フェルと一緒に奥地の湖と岩場が集まる場所に拠点を作る。

拠点を土壁で10m四方の大きさでにょっきにょき。魔力も増えたし使い慣れた魔法は魔力消費が少なくなってきたようで、このぐらいなら朝飯前だった。さっき朝ごはん食べたけどね。


屋根も緩やかな傾斜を作ってさらに魔力を籠める。


柱の部分を鉄に変え、壁も強く圧縮して固く強くしている。拠点の中を4つに区切るように壁を作って鉄の柱も入れ強度も高めておいた。壁の一部に透けるようなイメージで魔力を流すと曇りガラスのように窓ができた。開け閉めは出来ないけど。

入り口には木の枝を成長させ切り取った扉を取り付ける。取り付け部分も土魔法で引き戸に加工した。


これで崩れる心配はない?うーん、崩れたりしないよね?いくら身体強化できたとしても固い天井が落ちてきたら死んじゃうからね。一応ちょいちょい強化をかけて固くしておこう。


拠点の一室には小さなテーブルを置き、奥の部屋には葉っぱを乾燥させて大量に敷き詰め、猪の皮を鞣したものでベッドを作る。その上でフェルと一緒に眠ればいつでも暖かで熟睡できる。


毎日がもふもふで幸せを感じていた。

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