29.ニコレッタ、拠点での日常を堪能する
ディーゴが拠点で暮らすようになってから2年が過ぎた。
12才となった私は、少しだけ大人っぽくなり、体つきも……うん、あまり変わらないね。背が少し伸びたし筋力がとんでもなくついてることを実感してるが、無い物は無いのだ。
まだだ!まだ、諦めるのは早いはずだ!人には晩成型というタイプもあるはずだ!そう思いながらも、いつの間にか人型になって寝ていたディーゴのぽよよんを見て、悔しくなってパシンと叩き、手に残るその感触を楽しんだ。
「ニコ、お前は朝から何をするんだ!ちょっと変な気分になったじゃないか!」
変な気分とは?
「ごめんね。ちょっと思うところがあって……」
「まあいい、それより腹が減ったな!肉焼こうぜ!」
そう言って私を抱きながら起きるディーゴは、隣で眠るフェルに勝ち誇ったような顔向けてから外に出た。
ディーゴが私を横抱きにしたままフェルを跨ぐようにして外を出ると、フェルの耳がピクリと動きすぐに体を起こす。そして人型に変身すると黙ってついてきた。少し機嫌が悪そうだ。私がディーゴに抱かれてるからかな?
そんなことを考えている間に、備え付けられた収納ボックスから肉を取り出すと、野外に設置されている調理台で肉を切り始めるディーゴ。焼き台や食事テーブルの上には屋根がある。
最近はよっぽどの豪雨でなければ、ほぼここで三食を作って食べている。
<ビッグボア>の肉を焼いている間にフェルが朝のコーヒーを入れてくれた。
最近見つけたコーヒー豆。
集中力を高めるための薬として安く売られているのを見つけ、当然の如く生豆だったのでそれを浅い知識で焼けばいいんじゃね?と思ってフライパンで炙ってみる私。中々うまくいかず嘆いていた。
見かねたディーゴにどういったものかと尋ねられ、「香ばしく中までしっかり火が通っていて?」と伝えた数秒後には手の中で焙煎された香りの良い豆ができていた。
訳が分からないが「多分それで良いかな?」と伝えると、とりあえずで買い占めた1キロぐらいの豆があっという間に全て焙煎されていた。
フェルも対抗して焙煎済みの豆を一掴みして消し炭に変えていた。その時は流石に怒ったが、しゅんとしたフェルにはそれをすり鉢でゴリゴリしてもらい、コーヒーの入れ方を教えたら今では率先してコーヒーを入れてくれている。
今ではコーヒーミルもホイッパーも作ってもらった。ネルやコーヒーサーバも当然作ってもらっている。王都の鍛冶屋などで一点物で作ってもらったので多少は高かったが、お金はあるのだよお金は。
だが湯を注ぐ用のケトルは自分で作った。あの先の長ーい奴だ。あれは自分で細部までこだわって作りたかった。ケトルの周りには何度も作り直したフェンリルとドラゴンの模様が入っている自信作だ。
ディーゴが直接熱湯を作り出し中に入れるので、火にかけることはないがそれから注がれてドリップされるコーヒーは格別に美味しく感じるのだ。
そんなことを思い出している間に隣でウィンウィンと音が聞こえてきた、今日はカプチーノにしてくれるようだ。この世界のミルクは濃いのでとっても贅沢に感じる。
朝から焼肉にカプチーノという組み合わせだが、私はまだ子供だし。好き×好きで大好きになるから不思議だ。お肉にはお茶だよね?とかそろそろ炭酸飲みたいな?とか、ビール持ってこい!とは言わない。
「ニコ、出来たぞ!」
「うん。こっちも焼けてるから並べるの手伝ってー」
私も肉を取り皿にどんどん積んでゆく。
ディーゴはレタスをちぎって皿に入れて用意していたようで、取り皿のお肉を綺麗に乗せ、作り置きの焼肉のタレをかけ2人でテーブルに並べていた。フェルがご飯をこんもりと山盛りにして準備はできたようだ。
私は焼き台に浄化をかけ、ついでに自分と2人にも浄化をかけておく。
「いただきます!」と掛け声の後、一心不乱に肉をご飯と一緒にかき込む2人。箸使い上手になったなとしみじみ思いながら、目の前のご飯にタレを少し追加でかけ、お肉を乗せてその味を堪能した。
ビッグボアはワイルドボアよりは小さいが、お肉は脂身が少なく丁度よい美味しさだ。
お肉を胃に流し込んでからコーヒーを口にする。
今日のカプチーノは濃い目かな?あまり肥えていない舌がそんなことを思う。まあ美味しいと感じられればそれでいいのだ。ここには"味の分からない女だ"というような上から目線の批判をする他人はいないのだから。
お腹を満たした後、少しお腹を休めてから少し離れた広場で2人と戦闘訓練を始める。聖魔石のペンダントもあるが、自衛手段は多い方が良いと思って続けている。
私は2人の神獣と契約したことで、フェルからは風のように動ける瞬発力を、ディーゴからは全身に結界のような防壁を発動させる力を分け与えられている。知らない間に多少殴られても大丈夫な体になってしまった。
もちろん2人が全力で殴れは私は消し飛んでしまうだろうが、2人はちゃんと手加減をしてくれるので安心して向かい合う事ができていた。
この2年で我ながらバトルアニメの主人公のような動きができているなと感じている。
今もフェルの手加減されたパンチが当たる直前でその背後に移動し、「残像だ」と言ってみたが目の前のフェルは残像だったようで霞のように消えてしまった。
フェルどこ?
きょろきょろしている私の目の前には突然ディーゴが現れ、繰り出されたパンチを受け流すようにして捌くが、その間に足を刈られるのを防ぐように踏ん張る。そしてそのままディーゴと縺れるように倒れ込み、気付けば顔がぽよよんと圧迫されていた。
少しふへへと言いながらそのぽよよんをパシパシしてギブアップする。
今日は蜂蜜とコーヒーの匂いがした。
暫くして訓練を終えた私は、全身に浄化をかけ拠点へと戻る。
拠点の脱衣所で服をすぽんと脱ぎ、ディーゴが準備してくれた湯舟に飛び込びおっさんのような声をあげ疲れを癒す。すぐに全裸に変身したディーゴと、元の姿(小型)に戻ったフェルも飛び込んできた。
以前ディーゴと同じように全裸で入ってこようとして、ギャーと悲鳴を上げた私が大量の石礫を暴発させて以来、こうやって小型狼に変身してもらっている。一緒には入らないって選択肢もあったが、仲間外れで落ち込むフェルを見て妥協した。
今ではお風呂上がりにフェルがブルブルして私から怒られることも無くなった。後、ディーゴが私をぽよよんで圧死寸前まで追い込むことも無くなった。それはそれで少し寂しいが……
そんな毎日を送れるようになり、私は油断で気が抜けていたのだと気付くのはほんの数日先……
髪を乾かし楽な室内着に着替え、鼻歌でふふんふーんと歌いながらハンモックに揺られ、昼食のサンドイッチを頬張り甘くしたバナナジュースを飲みほすと、むにゃむにゃと惰眠を貪っていた。
「はー、幸せー感じるわー」
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