28.ニコレッタ、ちょっとした悪戯を
のんびりと歩く中、ようやく詰所にまで到着した。
「大変だったんだってな!」
そう言って迎えてくれたノルベルトは、私の隣を二度見した後、固まっていた。
「ノルベルトさん?」
呼びかけるとハッとして、左右を確認する挙動不審なノルベルト。
「ニコちゃん、こちらのご婦人は、こちらの男性と、その、ご夫婦とか……」
「「誰がこんな奴と!」」
2人に凄い形相で突っ込まれるノルベルト。
そして、真っ赤な顔になったノルベルトはあきらかにディーゴに見惚れているように見えた。
「えーと、こちら、フェル。そしてこっちがディーゴ。フェルは分ると思うけど、ディーゴはダークドラゴンです」
「あ、フェル様。いつもお世話になってます。ディーゴ様、お初にお目にかかります。素敵なドラゴンですね。赤がとっても素敵です。さすがダークドラ、ゴ……えっ?」
もう何を言っているのだと思ったが、少し悪戯が成功したようで楽しい。
そしてまた固まるノルベルトの腰をパンと叩くと、ディーゴがそれを真似してバシーンと叩きノルベルトはくの字になって呻いていた。
「もう!加減してよディーゴ」
「そ、そうか。すまんな、その、ノルデッシャロとやら」
なんだその関西弁のような名前は。
「ノ、ノルベルト、と申します。よろしくお願いいたします。ディーゴ様」
ノルベルトはそう言って深く礼をした後、そのまま私の手をグイっと掴んで睨まれた。そのまま小声で説明をする。
「えーと、最近っていうか二日程前?フェルが人型に変身できるようになっちゃって、それでね、谷、えーっと黒龍の谷だっけ?あそこの主。同じく仲良くなって人型になったら素敵なお姉さんでした」
「あー、分かったような分からないようだだが、お前、ギルドでも同じことやるなよ?エレナ卒倒するぞ?」
「うーん、そうだね」
やらない選択肢はない。
私はふへへと笑いながらノルベルトさんに弁当を手渡した。
今日は混ぜご飯に山菜の天ぷら、お肉の味噌炒めも入っているからそれなりにボリューミーだから足りるだろう。
「おう。ありがとな。じゃあ気を付けて。御二方もニコレッタ様をよろしくお願いいたします」
ノルベルトが2人に丁寧に礼をすると、2人も「うむ」「当然だ」と腰に両手を添えて偉そうにのけぞっていた。私の記憶を見たからか動きがちょっと俗っぽい気がするが、きっと元からだろう。私のせいではないはずだ。
また手を繋いで冒険者ギルドまでお散歩。
途中の屋台で串肉や揚げ肉、お店に寄って饅頭を大量に買ってバッグに収納する。自分で作るのが面倒な時の非常食だ。
冒険者ギルドに入ると、いつものようにカウンターから出てきたエレナが走ってきて私を抱きしめる。良い感触に頬が緩む。
そして顔を上げたエレナだが、左右をきょろきょろ。そしてフェルの方をポーと見惚れている。
「ニコちゃん、こちらの方々は?」
「えーと、こちら、フェル。そしてこっちがディーゴ。フェルは分ると思うけど、ディーゴはダークドラゴンです!」
途中ちょっと笑いそうになりながらも最後まで言い切った。
「あ、えーとフェルさんはフェル様で、こちらは初めましてなディーゴさんですね。その、ダークドラゴンは家名、ってことですよね?すみません。あまりその辺は詳しくないので……」
「ニコ、エレナは分ってなさそうだぞ?」
「この人間はエレナだな。うん覚えたぞ!」
まだポーとしてフェルを見ているエレナの手を引きいつもの談話室へ。周りの冒険者達からも2人に視線が集まっているが気にしないでおこう。
エレナを座らせ改めて紹介しておく。
「まずはフェル。最近人型に変身できるようになったので、こうなりました」
「はい。とっても素敵です」
うっとりとしているエレナに、まあ仕方ないかなとも思う。
「こっちはディーゴ。黒龍の谷の主でダークドラゴンで、この度めでたくお友達になりました。フェルとは喧嘩友達のような感じかな?」
「はい。ではニコ様、フェル様とディーゴ様は、恋人とかでは無いという事ですよね?」
「まあ、そうだろうね?」
やっぱりエレナの様子がおかしい。というかフェルしか見てないが、これはガチ恋という奴なのだろうか?
「えっ?ちょっと待って!」
急にディーゴの方を見て叫ぶエレナ。やっと思っていた反応が来てちょっと嬉しい。
「ニコちゃん!ディーゴ様ってダークドラゴンって、あの、神獣であるダークドラゴン様ってことで合ってる?間違いとかじゃなく?冗談ってことでもなく?」
「そうだぞ!俺はダークドラゴン様だ!ひれ伏すが良い!」
そう言って人化を解いて小さな竜へと戻る。大きさはかなり控えめだ。自重することをすぐに覚えたディーゴは中々に優秀だと思う。
「ちなみにフェルもだけど本当の姿は5メートルぐらいあるよ」
そう言うと、フェルも対抗するように人化を解く。そしてディーゴより一回り大きくなると、ディーゴに向かってドヤってみせる。挑発するのはやめてほしい。
『おい!調子に乗ってるなよ犬っころ!』
そう言って少し大きくなるディーゴ。
『お前こそ!自重することを覚えてほしいものだ。蜥蜴頭はこれだから……』
そう言いつつもまた大きくなるフェル。
「たしかに、フェル様に、ダークドラゴン様なディーゴ様、ですね」
エレナがそう言ったところで、さらにディーゴが口元のギギギと噛みしめているので、また大きくなるのは分り切ってたので……
「2人とも!怒るよ!」
頬を膨らまして言ってみる。
シュンとなった2人はすぐに人型へと戻り、頭を下げ謝ってきた。
まだ夢見心地になっているエレナの前に弁当を置き現実へと戻す。
何度か深呼吸したエレナは弁当を開け笑顔を見せた。やはり美味しい物には人を引き付ける何かがあるのさ。と思っていたが、美味しさに感嘆の声をあげるエレナは、やはりフェルへ視線を泳がせながらの昼食となった。
フェルとディーゴはまだぎこちない手つきでスプーンを掴みガツガツと弁当を掻き込んでいたが、見目が良いとそれもまた良い感じに見えてしまう。世の中やっぱ顔だなとしみじみ思ってしまった。
食べ終わったディーゴは口の周りに味噌ダレなんかを付け、「勝った!」と勝ち誇っていたので、「はいはい、良かったね」と言ってハンカチを出して拭いてあげる。
至近距離の美人さんがウーと口を尖らせ、私に世話をされようとしているのを見てキュンとしてしまった。
それを見てエレナがポケットからハンカチを出すと、遅れて食べ終わり悔しそうにしているフェルの口元を、真っ赤になりながら拭っていた。
フェルは「おう!すまんな!」と言って笑うと、エレナはハンカチを持ったまま動かなくなった。
私はそれを微笑ましく眺めながら、デザートのアイスを取り出しシロップをかけて3人の前に置いた。これはディーゴの冷気の魔法の力を借りて作ったものだ。フェルは風魔法が得意だが、ディーゴは火と氷が得意らしい。
もちろん2人とも、どの魔法も私よりうまく使えるけどね。土魔法だけは私の得意分野だから負ける気はしないけど……あ、聖魔法もだね。と自分の一番の得意属性の事を思い出しながら、目の前のアイスを口に放り込んだ。
幸いなことに2人ともアイスはスプーンで綺麗に食べることができていた。エレナも再起動して、熱い眼差しでフェルを見ながら冷たいアイスを堪能したようだ。
取りあえずお世話になっている2人への顔見せも終わり、ギルドに城へ届ける分のメープルシロップを納品して森へと帰る。流石に今回は連絡事項は何も無かったようでホッとする。
新たな父母、いや違うな。新たな兄と姉をゲットした私は、せめて暫くは幸せな日々であれ!と切に願ったのは言うまでもなかった。
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