21.ニコレッタ、目覚めた後で。
「えっ、どゆこと?」
部屋では女の子が上裸の男の子に蹴りを放ち、開いた部屋のドアには兵士と争うお姉さんと白髪の老人……
「いや、セレナさんとジョルジョじゃね?」
思わず結構な音量で叫んでしまった。
「あっ、お嬢様おきた!」
その声で隣に視線を戻すと、汚れた片足を上げている女の子がこちらを見ていた。その足元には男の子の吐いたと思われるゲロリン。
この子はマリカちゃんだったかな?女の子を良く見ると覚えのある顔だと気付いたが、どうしてもその汚れた足が気になり手をそれに向け浄化の魔力を放つ。
次の瞬間……
「うごっ!」
マリカが胸に飛び込んできた衝撃でまた意識を失いそうになる。
「お嬢様!覚えてらっしゃいますか!マリカです!あっ分かりませんよね!当然ですね!赤ちゃんでしたし!」
「あ、覚えてるよ、私の扱いが結構雑だったマリカちゃん」
「えっ?」
マリカは驚き固まっている。
その背後から泣きながら立ち上がる上裸の男の子を見て、多分不審者だよね?と躊躇しながらも床から生やした鎖で男の子の足をしっかりと拘束した。
「うっ!なんだこれ!おいやめろ!これを何とかしろ!おいバカ共!何をやっている!早く俺様を助け『ゴチン!』ぐはっ!」
騒ぐ男の子についイラっとしてしまい土の玉を頭にぶつけると、大きな音がしてそのまま後ろに倒れ込み静かになった。やりすぎたかな?とは感じたが、なんとなく上裸な男の子に嫌悪感を感じ、それなりの強さで放ってしまった。
ついでに廊下からこちらを覗いていた兵士達にも固めの土玉をぶつけ、顔馴染みの2人が室内に入ってきたタイミングで扉に格子を作り封鎖した。
「無事で良かったニコちゃん!私セレナ!分からないと思うけど、私ニコちゃんにおっぱいを上げてたのよ!」
「あ、覚えてます。とっても良いお乳で、その節はありがとうございました」
「えっ?」
リアクションがマリカと同じであったのを確認し、やはり親子なんだなと思った。
「ニコレッタ様!ご無事で何よりです!今回は私が必死になって助けに参ったことはぜひぜひ記憶に留めていただければと……」
そう言って私の前に滑り込むように土下座を決めるジョルジョ。
このじーじは私があの時点で喋れることを知っていたからね。これが全力土下座というやつかな?そう思って少し笑いそうになったが、私を捨てた実行犯に情けは無用と考えた。
「久しぶりジョルジョ」
そう言って肩をつんつんすると、ジョルジョは良い笑顔で顔を上げた。
そして、私はそのジョルジョの髭を勢いよく毟った。
「ひぎゃ!」
悲鳴を上げ抗議するジョルジョを無視し、指についた髭の残骸をパッとはらう。
多分10本程度は抜けたと思う。念願が叶ってちょっとスッキリ。
「ひどい!」
涙ぐみ口元を押さえるジョルジョ。
「まあこれで過去の過ちは水に流してやろう」
「ありがたき幸せ!」
ジョルジョは手のひらを返しそう言うと、床に擦りつける様に頭を下げた。
その後スッと立ち上がったジョルジョは、膝の埃をパッパと落とし「ヘヘ」と鼻下を指でこすりながら笑う。だから可愛くないよじーじ。
「ちょっと!何よこれ!殿下は?ちゃんとやり終わったの?」
廊下の方からファビオラのそんな声が聞こえてきた。
「あっ!ジョルジョにセレナ!それにマリカまで!なんであんた達がこんな所に……で、殿下!大丈夫ですか!殿下ー!」
扉に設置されている格子をガシガシしながら「どうなってるの!なんであいつ目が覚めてるのよ!」と騒いでいるファビオラ。兄マルコは「ちょっと!まずいよ!」と必死で止めようとしているようだ。
どう言う事体なのか分からずに戸惑うが、急に眠気が来たのは多分薬なんだと思う。そして気付けば近くに上裸の男の子、さっき殿下って言われてた?殿下って王族関係者?あ、待って、さっきファビオラが"やり終わったの?"とか言った?
えっ、そういうこと?待って待って!私……
慌てて自分の衣服を確認するが特に乱れた様子はない。少しだけ安堵とするが胸元のペンダントが無いことに気付く。
「ジョルジョ、このぐらいのペンダント知らない?」
そう言ってジョルジョにペンダントの大きさを手で示すが、ジョルジョは小首を傾げるだけである。だから可愛くないよじーじ!
イラっとしたので脛を蹴っておいた。
仕方なく倒れている男の子の方へ歩き出すと、背後からファビオラや兵たちが騒いでいるので「うるさい黙って!」と睨みつけると大人しくなった。
男の子の頬を数回叩くと目を覚ましたが、ギャーギャーと騒ぎ立てるので手のひらに拳大の土の塊を作り出すと大人しくなってくれた。
「私のペンダントはどこ?」
ジョルジョに聞いたように空いている手で大きさを示すと、「上着の中に……」とベッドの上にある青い上着を指差しているので確認する。内ポケットにはペンダントが入っていたので首に掛け直す。
少し魔力が減っていたので薬に対して治癒を施したのだろう。切り傷とかにはすぐに効いたのに、内服した物については効果が薄いのかな?そんなことを考えていたが、私の視線が離れたからか、男の子がまた騒ぎ始めた。
「俺様は王太子だ!偉いんだぞ!次期国王なんだからな!」
なるほど、この殿下と呼ばれた男の子が陛下の言っていた王太子か……
「そうよお姉様!せっかく私が段取りしてあげたのに!未来の王妃に成れるチャンスだったのよ!黙って寝てたら良かったのに!」
「そうだ!そうしたら俺たちだって王族の仲間入りに成れるのに!」
廊下から聞こえる兄と妹の声に大きく息をはく。
イラっとしながら文句を言おうと思ったが、それより先に視界にはマリカの背中が映っていた。
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