2-3:ミャ、ミャー……
「エドワルド様、着きましたよ!」
執事が二階のバルコニーに向かって、声を張り上げた。執事は背伸びしたりして、バルコニーの様子を窺っていた。もしかして、エドワルドはバルコニーにまだいないのでは? と思ったが、次の瞬間、落胆したような弱々しい猫の鳴き声が聞こえた。
「ミャ、ミャー……」
「エドワルド様? やはり駄目でしたか?」
「ミャー」
「だから、何故猫語? まぁ、いいわ。今、そちらへ戻りますね」
ユリーカはエドワルドに聞こえるように、屋敷に戻る旨を伝えた。執事も残念そうに肩を落とし、ため息をついた。ユリーカは執事を励ましつつ、屋敷の玄関扉を開けた。そこには、元の姿のエドワルドが立って、申し訳無さそうな笑いをしていた。
「あはは……。どうやら君がそばにいないと駄目みたいだ。申し訳ないが、このまま屋敷にいてくれないだろうか?」
「えっ! ずっとですか!」
「あぁ、ずっと。君は嫌かもしれないが、僕は君がいてくれるなら大歓迎さ」
「えっ、それは……」
目が見えなくても分かる。エドワルドは今、屈託のない笑顔をしているだろう。とても断りにくい。よりによって、執事も両手を握り締め、頭を下げてきた。更に断りにくい。
「えっと、私なんかがいてもよろしいんですか? 私はただの平民ですし、人間族ですよ! このことがバレたら、王宮内が大騒ぎになりますよ」
「大丈夫さ。僕は人間族とかそういうの気にしないから。だから、お願いだ! ここにいてくれ! 不自由はさせないと誓う」
「エドワルド様がそう仰っても。そもそも人間族は短命なのですから、私が仮に死んだとしたら、その後はどうするのですか?」
ユリーカはやや強い口調で言うと、エドワルドは「そうだよね」と苦笑いをした。
「とりあえず中でゆっくり話しましょう」
とても気まずい雰囲気になってしまい、エドワルドたちは棒立ちしたままだったため、ユリーカは優しく声をかけた。三人は屋敷の中へ戻ると、次はエドワルドの書斎に向かった。そして、ソファに向かい合って座った。その間、執事が気分転換にとお茶を淹れてくれた。優しくて落ち着く味だ。
「さっきはすまない」