2-1:第三王子エドワルド=フォンド
彼は一礼し、ユリーカの手に触れた。
「僕はエドワルド=フォンド。この屋敷の主でフォンド王国の第三王子だ。君のお陰で一時的に呪いが解けたみたいだ」
「あぁ、エドワルド様が元のお姿に! うぅっ……」
「泣かないでくれよ。それよりも、彼女は凄いんだ! っと、その前に名前を聞いてなかったね」
エドワルドは爽やかな笑顔をユリーカに向ける。ユリーカは驚きのあまり、開いた口が塞がらなかった。エドワルドから何度か声をかけられ、ユリーカは我に返る。
「も、申し遅れました! 私、ユリーカ=キャロラインと申します」
ユリーカはスカートを少したくし上げ、礼をした。まさか自国の第三王子が黒猫だったなんて信じられなかったからだ。
「あぁ、キャロラインと言えば、商家で有名だよね。宮廷にも何度か来たことがある」
「そうなんですね。父はあまり商売のことを話さないので」
「それよりも、ユリーカ嬢は何故、禁断の森へ? 家族で休暇か? しかし、いたのはユリーカ嬢だけだったような」
「あの、それなんですが……」
ユリーカはエドワルドと執事に事の顛末を話した。実母が亡くなり、継母がやってきて、酷い仕打ちをされ、森に捨てられたことを。
「そうだったのか。でも、安心して。ここは誰も来ない古びた屋敷だ。ここを自分の家だと思ってもらって構わない」
「えぇ、エドワルド様の仰る通り。私も同意見です。何よりエドワルド様の呪いを一時的に弱めてくださったので。おもてなしをさせてください」
「いえ、そんな――」
ユリーカが断ろうとしたタイミングで、お腹の虫が豪快に鳴った。
「ほら、君のお腹がここにいたいと言っている。早速、食事にしよう」
「畏まりました。最高のおもてなしをさせて頂きます」
「えっ、いや、でも……」
ユリーカは遠慮したが、エドワルドに背中を押され、一階にある食堂へ行った。食堂も薄汚れているだろうと心做しか思ったが、扉が開いた瞬間、シャンデリアがキラキラと上品に光り輝いていた。エドワルドに席を案内され、腰を掛けると、上等な椅子に、触り心地のよいテーブルだった。ユリーカは驚き、何度も辺りを見渡した。
「あははっ、驚いたかい? 正面玄関は人を寄せ付けないための細工だよ。僕が黒猫なのがバレたら、国中大騒ぎになるからね」
「お待たせいたしました。本日のお食事です」