1-6:大きな古びた肖像画
一瞬、高齢男性の幽霊が喋りかけてきたと思い、ユリーカは思わず声を上げる。
「きゃぁ! ゆ、幽霊!」
「ほほほっ、私はまだ死んでいませんよ。この屋敷の執事をしております老いぼれじいさんです」
そういうと、男性は顔が見えるように明るい場所へ移動し、ユリーカに挨拶をした。ユリーカは目を凝らし、まずは男性の足元を見た。二本の足がある。そして、体が透けていないことを確認すると、ふーっと胸を撫で下ろした。
「ミャー、ミャー」
「おっと、エドワルド様もいらしたのですね。お帰りなさいませ」
「エドワルド? やっぱり、この黒猫はただの猫じゃないのね」
「ミャミャミャー」
「どうやらあそこの階段上にある絵画の前に来て欲しいみたいです」
「えっ? もしかして、執事さんも言葉が分かるんですか?」
「いえ、私には分かりませんが、そういう素振りを見せるので、そうかと」
「そうですか。あの、私、目が悪くて、暗がりだとあまり見えなくて……。案内して頂けますか?」
「これは失礼。では、ご案内させて頂きます」
ユリーカは執事の手を取り、正面にある階段を一段一段ゆっくりと上がった。上がった先にはとても大きな古びた絵画が飾ってあった。絵画が見えるように、執事が蝋燭の明かりを高く掲げる。ぼんやりではあるが、勇敢そうな若い男性の肖像画だった。
「ミャミャー」
「えっ、触るの? 触って大丈夫なの? で、なんで突然、猫語?」
ユリーカは恐る恐る絵画に触れた。触ると鼓動を感じた。まるで絵画が生きているかのような感覚だ。
そして、ユリーカの隣に黒猫がやってきて、絵画の前で「ミャー」と鳴いた。その時、突然、黒猫が光に包まれた。
驚くべきことに、黒猫が人の姿へ変身し、目の前に現れたのだ。
「えっ! 黒猫が人の姿に!」
「あははっ。僕は正確に言うと猫族だよ。その証拠に、猫耳と自慢の尻尾があるんだ」
彼はそういうと、ユリーカの手を取り、猫耳と尻尾を触らせた。確かに彼の言う通り、猫耳と尻尾がある。もふもふしていて、毛並みが良く、触り心地が良かった。
「本当だ。本当に猫族だ――って、ことは!」
「ふふ、驚いたかい?」