1-5:一匹の黒猫
『真実の心』によると、獣人族みたいだ。でも、どうして? 獣人族はこんな動物そのままで生まれてくる訳じゃないし、どう目を凝らしても黒猫だ。ユリーカは一か八かで質問を投げかける。
「あの、黒猫さん、黒猫さん。貴方、もしかして言葉が喋れないの?」
「ミャー……って、喋れますよ」
「わぁ! 猫が喋った! ……って、獣人語?」
「おや、お嬢さんはてっきり人間族だと思いましたが、獣人語も理解できるんですね」
「はい、一応、私は人間と獣人の混血ですし、母にいつも習っていましたから」
「ほう、混血ですか。しかし、見た目は人間そのもの。獣人のハーフでも見た目ですぐ分かるんですがね」
「私は人間として生まれました。ただユニコーンの血が流れているので、『真実の心』を持っています。その代わり、視力が悪過ぎて、黒猫さんがただの黒い玉にしか見えないです。すみません」
「ユニコーンの血が流れてる上に、『真実の心』を持ち合わせているとは! もしかしたら、これは運命かもしれません」
「運命? 仰ってる意味が分からないのですが……」
「とりあえず僕の屋敷に来てください! お願いします。女性一人でここで野宿なんて危険です。ささっ、僕についてきてください」
「えっ! 私はまだ行くとは言っていないのに。なんて自分勝手な黒猫さんなのかしら」
ユリーカは目を凝らしながら、黒い物体ならぬ黒猫を追いかけた。湖畔に沿って歩き、そうかと思えば、真っ直ぐ続く林道を歩く。
「あの、黒猫さん。どこまで行くんですか? 私、もうヘトヘトなんですけど」
「お嬢さん、もうすぐですよ。ほら、見えてきたでしょ」
「だから、私は目が悪くって……」
黒猫はお構いなしに言ってくる。ユリーカは再び目を凝らした。そこは今まで一度も来たことがない知らない場所だった。屋敷にしては、なんだか古びれているというか、鉄門に蔦が絡まっている。
「あの、勝手に入って良いんですか?」
「大丈夫さ。ここは僕の住んでいる屋敷だよ」
「住んでいるって、野良猫の集会所か何かですか?」
「あはは、君は面白いことを言うね。ささっ、入って」
建て付けの悪い音がする玄関扉を開くと、中は薄暗く、壁にかかっている蝋燭立てにある蝋燭の火がぼんやりと見える。見るからに人が住んでいるようには見えない。
「ようこそ、いらっしゃいました」