1-3:禁断の森に捨てられる
『禁断の森』と言っても、魔物が出現するのはここよりももっと奥の場所であり、危険な場所ではない。ユリーカにとって、そこは亡き母との思い出の地なのだ。
二、三日かけて目的地へ着く。馬車が湖畔近くに止まり、二人は馬車を下りる。
「さっ、着いたわよ。貴方のお母様が好きだった湖畔よ。綺麗だわねぇ」
「は、はい。目が見えにくい私でも、ここの素晴らしさは分かります。母と生前来たのを思い出します」
ユリーカは亡き母の思い出を思い返していると、突然、馬車の扉がバタンと閉まる音がした。そして、小窓が開く音が聞こえ、継母の甲高い声が響いた。
「貴方はせいぜいここで暮らしなさい。家にいると、邪魔なのよ。顔見るだけで虫酸が走るからね。という訳で、さようなら」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ユリーカが馬車の方に向かって、声を張り上げるも、馬車の走る音でかき消される。どんどん遠くなっていく馬車の走る音。ユリーカは、継母は私の誕生日を利用して、禁断の森に置き去りにしたのに気づく。
トランクケースには何着か服を入れ、身の回りの物を少しと亡き母との思い出の品を入れた程度。湖畔の水は綺麗だったはずだから、飲めるはず。ユリーカは手探りで湖畔へ行き、両手で水を掬って一口飲む。清らかな味が口の中に広がる。
ホッと一息つきたいところだが、継母が私を捨てるだとは思わなかった。ユリーカはそのことがショックで、膝から崩れ落ち、遠くにある山々の方をただ呆然と眺めた。
ユリーカが気づいた時にはすでに夕暮れだった。ユリーカはふと我に返った。そして、トランクケースを開けて、幼い頃に父から貰った夜光石の入った小さなランタンを取り出した。夜光石は月明かりを吸収して、光り輝く特別な石だ。そして、出かける前に使用人がくれた携帯食を食べる。
「使用人もきっと分かっていたんだろうな。でも、今日のご飯にありつくことが出来たから、感謝しなくっちゃ」
そして、ユリーカは食べ終わると、早々に草むらに横たわった。ついでに亡き母がくれた手編みのブランケットをかけ、眠りへとついた。禁断の森と言っても、魔物が出るのはもっと奥地だ。ユリーカは安全な場所に放り込んでくれてありがたいと思った。