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地殻の魔女  作者: 藤宮ゆず
1章 加入
3/63

3消えない記憶

 目が覚めると知らない天井が広がっていた。周りには消毒液や脱脂綿、医療器具が並んでいる。どうやら自分は病院に運ばれたのだと知った。部屋は個室で、春彦の他に患者は居なかった。


 誰かが部屋のスライドドアを開いた。黒いロングワンピースの上に白衣を着た彼女は、長い黒髪をたなびかせながら部屋に入ってきた。長い睫毛に、すっと通った鼻筋、薄い唇。彼女はその美しい顔で微笑を浮かべた。


「おはよう神崎春彦くん、無事に目が覚めたようで良かったわ」


 美しい、しかし春彦はどこか彼女を信用出来なかった。だから少し淡白な返事をしたと思う。


「……何で俺の名前知ってんの」

「搬送途中で色々と調べさせて貰ったわ」

「ここどこの病院?」

「都立病院よ」


 春彦は自分の実家が医院なので他の病院にはあまり来たことが無かった。


(どうやって俺の事調べたんだ?身分証明書は何も持ってなかったと思うけど)


 すると段々先程起こった出来事が想起された。ひどくバカバカしい事が多々起こった。

 空から刀が降ってきたり、悪虚と呼ばれる化け物に襲われたり。


(あれは全て夢だったのか?)


「───悪虚を見たらしいわね」


 ハッとして彼女を見やると、変わらず美しい顔で笑っていた。彼女はリモコンで春彦のベッドの角度を上げて、起き上がらせた。


「表向きは都立病院、裏の姿は特定環境殲滅委員会の直轄施設。つまりあなたは今殲滅委員会の監視下にあるの」


 春彦は合点がいった、彼女を見た瞬間に感じた違和感。表情は微笑んでいるが、目の奥が笑っていないのだ。だから信用出来ないと感じた。


「アンタ医者じゃないな」

「ええ。私は東京本部第三課課長、徒塚菜緒子。部下の宇化乃朔を助けてくれてありがとう」


 あのハーフツインの少女を思い出す。菜緒子はまだ二十代前半に見えるが、朔の上司というのが意外だった。そもそも朔もまだ春彦と変わらない高校生くらいに見えた。何もかもが現実味のない話に感じる。


「助けるほど何もしてない」

「本人はそう思っていなかったわよ」


 菜緒子はふっと笑みを漏らした。その笑みは感情のこもったもので、初めて彼女の感情が垣間見えた。彼女は隣の椅子に腰かけ足を組む。


「悪虚を見たみたいね」

「見たどころか、お陰でこの通りボロボロなんだが」


 顔には切り傷や身体中に擦り傷がある。


「あれは何なんだ」

「まずこの世界には、普通に生活していたら見えない生物がいる。ただそれはある些細なきっかけを通して()()出来るようになる。それが悪虚。認識すれば今まで気が付かなかったことにも気付くし、脳は当然あるものとして処理する」

「で、俺は悪虚の認識が出来るようになったと。そのきっかけって何なんだよ」

「ある石に触れること。それは守護石と呼ばれ、殲滅委員会の東京本部にて厳重に保管されているわ」

「俺石なんか触ってないけど」

「そうよね。守護石も本部から持ち出された記録は確認されていない。だからそれは謎。で、次」


 次に進んでしまった。


(謎で終わらせていいのか)


 菜緒子は足を組みなおした。


「そもそも特定環境殲滅委員会とは何なのか。全職員が悪虚を認識し、秘密裏に悪虚殲滅に動く組織のことで、実は内閣官房直轄組織なの」

「内閣官房!?それって、政府公認組織ってことか?」

「そう。だから殲滅委員会の職員は一応全員、準国家公務員。私も、朔ちゃんもね。どうして正式な国家公務員でないのか、それは殲滅委員会という組織が非公表の組織だから」


 春彦は菜緒子が嘘を言っているようには思えなかった。


(殲滅委員会なんて聞いたことがない。でもたかが高校生の自分に詐欺を仕掛けているにしては大掛かりすぎる)


 現に春彦は非現実的な化け物に襲われ、ここに居る。


「立てる?」と菜緒子は春彦を病室から連れ出した。部屋を出ると長い廊下が続いていて、病室が並んでいる。何人か看護師とすれ違ったが、皆菜緒子に会釈して忙しそうに走っていった。


「あの人達も殲滅委員会の職員なのか?」

「いいえ、あの人達はこの病院の職員。殲滅委員会のことは何も知らずに働いているわ。この病院で委員会について知る人はごく一部のみよ。私はここによく出入りするから、一応関係者として認識されているわ」

「ふーん」


 やがて辿り着いたのは病院最上階の最奥にある研究室だった。専門的な機器やモニターが所狭しと設置されている。


 モニターに向かって座る職員の背後から、つまらなさそうにモニターを眺めていた背の高い男が振り返った。口にはタバコを咥えている。暁と呼ばれていた男だ。


「何、起きたの?そいつ」

「事情聴取の為に呼んだの」

「ふーん」


 春彦は眉をひそめ立ち止まった。


「俺をどうする気だよ」

「どうって?」

「アンタはともかく、朔はどう見ても高校生だろ。それが国家公務員扱いとか、殲滅委員会とか。もし本当なら機密情報だ。それを俺みたいな一般人に漏らしていいはずがない。何か目的があるんだろ」

「察しが良いわね。私がこんなにも簡単に情報を与えたのは、あなたから混乱無く真実を聞き出す為。これを見て」


 スクリーンに映像を映し出した。ガラスの箱の中に鎮座していたのは、自分の手から離れなかったあの刀だ。


「そういえばいつの間にか手から離れてたのか」


 菜緒子は、ずいっと春彦の顔を覗き込んだ。


「眠っている間にあなたの霊力値を測定したわ。それで」

「まず霊力の説明からしてやれよ。コイツお前のこと年増の詐欺霊媒師だと勘違いするぞ」


 暁の言葉に菜緒のこめかみに青筋が浮かぶ。


「忠告はありがたいけど、何か一言余計なのよね!誰が年増よ!私はまだ二十四よ!こ、今年二十五だけど……」

「はいはい」


 菜緒子は咳払いする。


「脱線したけど、霊力っていうのは私達人間なら誰もが保有しているし、自然界にも溢れるごく普通の力なの。でもあなたの霊力値はゼロだった。そんなのありえない、霊力は生命エネルギーのようなものだから、本当にゼロなら死んでいるわ」

「何だ俺もう死んでたのか」


 ふと暁の目が興味深げに細められた。菜緒子は眉根を寄せる。


「そんな訳ないでしょ。あなたはちゃんと生きてる。しかもあなたはあの刀を握って、完璧に使いこなして見せた。あれはどういうことなの?私が一番聞きたかったことはこれよ」

「どういうことって…俺は何も知らない」

「でもあの刀には霊力を吸収する性質がある。殲滅委員会きっての霊力保有者達ですらも、直接の接触を禁止されていた。それを霊力ゼロのあなたが軽々と触れたのよ」

「霊力が無いから害がなかった、という線は?」

「それは何も入っていない鍋を高火力で熱し続けるようなものよ。やがて鍋は鍋ではなくなるわ。今まで身の回りで何か不思議なことは起こらなかった?尋常ではない力の強さを発揮したり、家の屋根までジャンプして上がれたり」

「ある訳ないだろ。何だそれ」

「これは全て霊力を使えば可能なことよ」


 菜緒子はタブレットを取り出した。


「あなたが寝てる間に色々と調べさせて貰ったわ。あなたの経歴、家族、通ってる学校に至るまで全てね」


 家族、というワードを聞いて春彦の顔から表情が消えた。菜緒子と暁は春彦の一挙手一投足を逃さず観察する。


「あなた養子なのね」


 やはり、と思った。身分証を持たない自分の名前すら簡単に調べあげたのだ、戸籍の情報も知っていて当然。

 これは春彦にとって一番触れられたくない急所だった。


「だったら、何だって言うんだ」

「霊力は遺伝的要因を含む場合がある。あなたの実のご両親のことは何か?」


 春彦は目を逸らした。


「さあ。実の親のことは何も知らない。俺は単に巻き込まれただけ。親のことだってアンタらが自分で調べたらいいだろ。これ以上俺を変な事に巻き込まないでくれ」


 また追及されるかと思ったが、菜緒子の反応は以外に淡白だった。


「……あなたは何も分からないのね。分かったわ。なら早々に記憶を消させて貰うわ」

「記憶を?」


 春彦は自嘲気味に笑う。


(最後にはそういう手段がある訳か)


 やけにお喋りな組織だと思った。だが安心もある。記憶を消してくれるならこれ以上こんな馬鹿げたことと関わらなくていい。

 菜緒子の温かな手がそっと春彦の目元を覆う。


(いっそ全て忘れられたらどれだけ幸せだろうか)


 養子だとか実子だとか、何も考えたくない。父親が自分を遠ける理由も、母親がそれを見て苦しそうにする姿も、せめて何も知らなければ今ほど気にならないかもしれない。

 少しして手の温もりが離れた。


「さあ、できた」

「……え」


 何も変わったようには思えなかった。


「気分はどう?」

「……普通だけど」

「あなたの名前は?」

「神崎春彦」

「『ここは都立病院。あなたは熱中症で倒れて搬送されたの』」

「……」

「混乱するのも無理ないわ。親御さんには連絡してあるから、迎えに来てもらいましょう」

「アンタ突然どうしたんだ。もしかして記憶消去って、ただの催眠術か何かなのか?」


 暁が吹き出して「催眠術!ハッハッハ!」と大ウケしてる。対して菜緒子は笑顔を引きつらせていた。


「何の話かしら……」

「悪いけど俺は催眠術とか信用してないタチだから、殲滅委員会とか悪虚を忘れさせたいならもっと他の方法で───」

「な、何で覚えてるの!?」

「は?」


 その部屋にいた別の職員もざわついた。春彦は自分の発言の意味を知るよしもないが、菜緒子の記憶消去が効かないなんてことは()()()()()ことなのだ。

 菜緒子は慌ててタブレットを操作し、五人の女学生の写真を出した。


「ここに五人の女の子が居ます。宇化乃朔はどの子ですか?」


 春彦は記憶にあるままの朔を指さす。ハーフツインテールの小柄な女子。


「コイツ」


 すると菜緒子はガシッと頭を掴む。


「何すんだっ……!」

「嘘よ、ありえない!霊力ゼロの子相手に、これは何かの間違いよ。もう一度やり直せばきっと……」


 菜緒子の顔は笑顔を引きつらせながら、半ば自分に暗示をかけるようにブツブツ喋っていた。


「はい!できた!さっ、春彦くん、もう一回この写真を見て、朔ちゃんがどれか当ててみて!指さした人に会わせてあげます!」


(会わせてあげますって……)


 さっきと画像が変わっている。そして明らかにグラビアモデルの写真が混ざっている。思春期の男子を狙いすぎだ。もはや記憶確認ではなく女医の『何としても記憶が消えてるということにしたい』思惑が見え透いている。だが嘘もつけないので素直に選んだ。


「だからコイツだろ」

「記憶が消えてない……!?」


 春彦は呆れる。


「だから催眠術なら意味無いって」

「そんなんじゃない!さっき私が霊力を使ってる時、何ともなかったの?」

「は?いつ?」

「感覚すら無い!?うそ…嘘よー!!」


 菜緒子は途中つまづきながら、走って部屋を飛び出していった。


「あーハラいてー」

「まずかったのか?」


 春彦は笑い終えた暁に尋ねる。


「さーな。だがお前が悪いんじゃねーよ、全部こっちの都合だ。まあ座れよ。コーヒー飲むか?」



 ※※※



 春彦が目を覚まして一時間、菜緒子の報告により緊急会議が開かれた。


 特定環境殲滅委員会の議長、副議長、各課の課長、その他現在出席可能な役員が秘密裏に招集される。暗い会議室はコの字型に机が並び、菜緒子はその真ん中に立って、最高幹部議長の栄総一郎(さかえそういちろう)と対峙していた。


 栄の表情は厳しかった。彼は常に冷静沈着で、一切の緩みの無い緊張感を纏わせている。眉には六十年の年輪と言い表していいものか、深いシワが刻まれていた。


「霊力値ゼロの男子高校生の記憶消去が実行出来ないとはどういうことだ」

「分かりません」

「分からないだと!事は組織の存続に関わるんだぞ!」


 副議長の足尾孝文(あしおたかふみ)が声を荒らげる。彼はこういった静粛な場で平気で怒鳴れる人間で、今年五十五歳になるがあと五年経っても恐らく栄のような落ち着きは無いと菜緒子は感じていた。


「まあ落ち着きましょうよ足尾副議長。もしかしたら徒塚課長のスランプかも」


 フォローしたのは実働部隊を率いる第一課課長の入相誠(いりあいまこと)だ。彼は去年まで第一課一係のエースとして活躍し、三十三歳という年齢から前線を退いた男だ。優しく面倒みの良さから部下に慕われている。第三課課長とはいえまだ若く力の無い菜緒子の為に、わざわざあの副議長から庇おうとするのは彼くらいだった。


「それが、別の記憶消去対象者には問題無く能力を発揮しました。徒塚課長の霊力は正常と言えます」


 しかし第二課課長の杉澤聡(すぎさわさとし)が複雑そうな面持ちで答える。第二課は研究員を率いる課で、主に悪虚の性質研究や、戦闘武器等の改良を行っている。

 すかさず足尾が追及する。


「つまりそれはどういうことだ?徒塚課長の能力が正常なら神崎春彦には加減でもしているということか?」

「いえ、それは無いかと…」

「じゃあどういうことか説明しろ!」

「それは…本人に聞いていただければ…」


 菜緒子は内心舌打ちした。杉澤は元々菜穂子の上司で、昔から上に忖度(そんたく)ばかりする人間だった。そのせいか、まだ五十歳なのに、上からのストレスで頭髪はすでに真っ白になっていた。


 この組織は研究員あっての技術向上と安全確保が成り立っているというのに、課の顔である課長がこのような人間では部下が報われない。今の菜穂子しかり。


「どういうことだ徒塚!」


 菜緒子はグッと顎を引いた。この程度の圧力に屈するなら、第三課課長など務まらない。


「考えられる可能性としては、彼には今の霊力測定器には測れない未知の霊力があるということです。それもかなりの保有量の。そうすれば私の霊力によって記憶消去が出来ない辻褄が合います。私はこの委員会に所属しているような霊力多量保有者には記憶消去が出来ません」

「それはお前の怠慢を誤魔化しているだけじゃないのか」

「そもそもですが、霊力値ゼロというのが有り得ません。何ならあなたの記憶を消してこの場で怠慢ではないと証明しましょうか?副議長程度のカス霊力保有者の記憶消去なんて容易ですよ」

「何だと!」

「ーー黙れ!」


 体の骨に響くような気迫のある怒鳴り声に、思わず菜緒子も足尾も黙った。


「神埼春彦に関する問題はまだある。奴は重要管理指定武器である刀、延珠安綱をなまくらにした」


「そういえば」と入相が杉澤を見やる。


「二課長、刀はその後どうなりましたか」

「神崎春彦が刀を使用してから、刀の霊力吸収する性質は喪失されました。その後暴走する様子もなく、また一課一係に協力を得て刀を使用しましたが、報告にあったような炎の可視化は確認されていません。つまり、ごくありふれた普遍的な刀となりました」


 足尾は深いため息をついた。


「神崎春彦は重罪を犯した。せめて悪虚との接触だけで済んでいれば、監視下での自由を認められたかもしれないが、このままでは抹殺処分も検討しなければならない」


 抹殺と聞き、菜緒子はぎょっとして栄を見つめた。その顔には一切の迷いがない。入相や杉澤ですらも目を合わせない。


 菜緒子以外は皆知っているのだ。あの刀がどういったもので、春彦が本当はどういう罪を犯したのかも。


「栄議長、教えて下さい。あの刀はどういうものだったんですか。どうして神埼春彦を殺さなければならないのですか。私も第三課の課長です。それを知る権利があるはずです」


 栄はしばらく沈黙し、やがて口を開いた。


「あの刀はただの骨董品ではない。あの刀は海底地殻から発掘されたレアメタルから製作された。銘は延珠安綱(えんじゅやすつな)。延珠を製作するにあたり巨額の費用が注ぎ込まれ、何人もの犠牲が出た。しかし今後の対悪虚戦の切り札となるのは間違いなかった。時価総額五十億というのはそういう意味だ。そして我々東京本部は和歌山支部とある協定を結んだ。それは延珠製作に協力する代わりに、延珠は和歌山支部機動調査室へ譲渡し、加えて和歌山支部から本部へ何名か人員を補充するというものだ」


 菜緒子は顔から血の気が引いた。


「まさか、その製作過程で出た犠牲者は」

「全員和歌山支部の戦闘員だ。命は助かったが、全員霊力欠乏症により瀕死の重症。戦線復帰は難しく、事務方へ回した」

「和歌山に配属されているのは精鋭ばかりと聞いています」

「そうだ。だからこそ、その和歌山に犠牲を負わせた上に、肝心の刀をなまくらにしてしまった。我々は和歌山支部に大きな貸しを作ったことになる」


 和歌山支部は土地柄こそ田舎ではあるが、悪虚の出現率の高い激戦地だ。そこに精鋭が配属されるのは当たり前だが、これにはただの理屈だけではない事情もあった。

 足尾は口元をはがゆそうに歪めた。


「兵庫や神奈川なら話のわかる奴が居るのに、よりによって和歌山とは。またこれを口実に黒基(くろき)は次の人事異動に口を出してくるぞ」


 足尾と、和歌山機動調査室室長の黒基の、二人の反りの合わなさは有名だった。黒基は足尾の元部下で、黒基が異例の出世をしたことを妬み、それ以来決別したと噂がある。


「和歌山以外に頼めなかったのですか?」


 入相がばつの悪そうな顔をした。


「どこも人員不足を理由に断られたんだ。霊力保有者の戦闘員が少ないのは当然だけど、どういった危険があるか分からない施策だったからね」


 分かっていてなお、引き受けた和歌山支部の組織感がうかがい知れる。


 だが和歌山支部だけではない。結局はここ東京本部も同じなのだ。人の命なんてこの人達にとってはチェスの駒のようなものなのだ。


「議長、第三課長として提言いたします」

「この期に及んで」


 嫌みを言おうとする足尾を栄が制した。


「続けたまえ」

「神崎春彦を特定環境殲滅委員会東京本部第三課に引き入れさせて下さい」


 全員が驚愕した。


「何を馬鹿げたことを!奴は霊力ゼロだぞ!」


 足尾が噛いても、菜緒子は引き下がらない。


「どう考えてもおかしいです。霊力は誰の身体にも多少なりとも存在する。なのに全くのゼロになるなら、何か理由があるはずです。それに殺すよりも利用価値を見出だして少しでも利益を取り戻すべきではありませんか?」

「確かにそうだね」

「入相!」


 頷く入相に足尾が吠える。しかし栄の方針が傾くには十分だった。


「ではその言い分通り、神崎春彦に相応の霊力があることを証明しろ。無ければ重要機密漏洩につき奴を抹殺措置を取る。そして同時に、刀を変質させた三課に取らせ、解散処分とする。勿論課長のお前も降格だ」

「議長!」

「分かりました」

「期限は一週間、それまでに何とかしろ。会議は以上だ。和歌山には私から説明しておく」

「はい」


 会議はそこで解散された。菜緒子はまた車のアクセルを踏み込み都立病院へと戻る。


 そしてこの建物内で、この会議を盗聴器ごしに丸ごと盗み聞きしていた人物は密かにほくそ笑んでいた。



 ※※※


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