かしゃくなく
結論を急ぐな。
深く、仮借なく、きみの精神に、メスを突き立て、つまびらかに開示してみせろ。
不可逆の夜行列車に、燃料をたっぷり積み込んで、最後の冒険に旅立ってみせろ。
摩訶不思議不可思議の数論を、無矛盾の重箱のすみを突っついて証明してみせろ。
縦横無尽に枝分かれした、さながら動脈の如き大問題から唯一解を導いてみせろ。
鬱蒼と茂る密林の中で、空腹の猛獣の唸りに怯む事なく、見事抜け出してみせろ。
光と音と色の急流に翻弄されても、理性を見失わず意思の力のみで抗ってみせろ。
汚辱の記憶の暴虐を真正面から受け止め、平静を装い機を見て一矢報いてみせろ。
死と生は一度きりと腰を引かず自ら進んで地獄に飛込み鬼に中指を立ててみせろ。
速やかに自己内陸に上陸、迅速な攻勢で敵機を撃破し、勝利の旗を掲げてみせろ。
無意識内に眠る虎を叩き起こすべく、虎穴内に潜入し、虎児を生け捕ってみせろ。
脳細胞の反乱を鎮圧し、裏切り者の刑を即実行後、見せしめの首を並べてみせろ。
猛吹雪に気後れせず、萎える身体を奮い立たせ、無謀な雪行を生き残ってみせろ。
現実と非現実のあわいの中、華麗なステップを披露し、拍手喝采を浴びてみせろ。
本能を呼び起こす原始の律動に身を任せ指の先まで意識を切らさず舞ってみせろ。
命とは何か、謎を解く鍵は生の中にあり、幼少からの記憶を余さず辿ってみせろ。
糜爛した性観念、フリーセックスは罪である、と叫び往来の注目を集めてみせろ。
自由と愛と平和、不特定多数の異性同性と交じり、性快楽の粋を追求してみせろ。
詩情と痴情、異常が正常、劣情で欲情、激情を扇情、意味不明に混乱してみせろ。
清濁併せ呑み、不幸と幸運、恥辱と栄誉、正義と悪辣、すべてを経験してみせろ。
国体の維持を何よりも優先し、貧乏人の左翼どもは一匹と残さず駆逐してみせろ。
共産党の一員となり、毎朝無償で赤旗を配りながら、軍靴の響きに怯えてみせろ。
虚無の穴に身を投げ、ニヒリズムの調べに耳を預け、虚ろに頭を揺らしてみせろ。
精神に革命の火をくべ、サイケデリックスを乱用し、空の境地に近づいてみせろ。
血液を綺麗に保ち、脳内に異物が入り込まぬように、用心に用心を重ねてみせろ。
馥郁たる香りに誘われた蝶の如く、花から花へと飛び移り毎晩恋に落ちてみせろ。
限界を自ら決めることなく、徹底して追求し、周囲からは狂人と呼ばれてみせろ。
結論を急ぐな。たとえ刀折れ矢尽きようとも命尽きるその時まで足掻いてみせろ。