第九十七話「奏でる」
(『クイックディール』!)
まずはコンパクトなバックサーブ。
すぐに身体をニュートラルポジションに戻し、次の行動に移れるようにする。
志織は紅の横回転を打ち消しつつ、バックへ短めに返す。
(まずは)
紅がこれまで残してきた有効打の一つ。
残る五点を取るためには失敗出来ない。
(『吉崎流・しなり打ち』!)
右手でラケットの先端を押さえ、左手は力を入れる。
バックハンドでのスイングの瞬間、右手を離すと溜まっていた力が一気に解放される。
投石器のように腕をしならせる事によって球威はアップしているが、コントロールは難しい。
「く」
志織は何とかラケットに当てるが、台には入らない。
「セブン、シックス」
(一点目)
次も紅のサーブ。
(『アップルボビング』!)
しゃがみ込みサーブだが、リンゴの皮を剥くような動きでボールに回転をかける。
強い横回転をかけられるが、しゃがんでいる分隙が生まれてしまう。
志織もそれを分かっているので多少強引にでもドライブで返す。
(それでも!)
相手の攻撃にも果敢に立ち向かわなければならない。
卓球は一回のラリーで必ずどちらかに一点入るからだ。
紅はすぐに立ち上がり左腕を後ろに引く。
(『ショルダーウェーブ』!)
腕を回した力を威力に変えたドライブで返した。
大技の連続。
紅の身体の動きが思考に追い付けなければ即座に失敗する。
危ういバランスで成り立っていたラリーだった。
「エイト、シックス」
(あと三点!)
志織のサーブは長めの下回転。
紅はバックのツッツキで身体の正面に来た球を切る。
「はっ!」
志織はストレートに強打。
紅はブロックせず前に出る。
(『バーサク』!)
強気に踏み込み、速い打球をバウンド直後に返す。
威力をそのまま跳ね返した。
「ナイン、シックス」
(ここに来てさらに集中力が高まってきているな)
(真珠ちゃんに似てきたかも?)
美翠は頼もしさを感じて微笑む。
(『三拍弾』!)
独特の脚運びから放つ強打。
シューズがタン、タ、タンのリズムを奏でる。
(マッチポイント!あと、一点!)




